第28話 古家と接続されたBluetooth
Lは都市部の大学に通う学生だったが、レポートのために地方の消滅集落に関する実地調査を行っていた。
研究テーマは「限界集落における電波の空白地帯」。
過疎地にどのようなネットワークが残っているか、現地を歩きながら計測する地味な作業だ。
その日も、県境に近い山道を一人で歩いていた。
スマホを手に、Wi-Fi・GPS・Bluetoothのスキャンを順に行いながら、地図アプリに電波状況を記録していく。
そんな中、谷を越えた地点で、不意にスマホが通知を発した。
「新しいBluetoothデバイスが検出されました」
デバイス名:House_2401
「……え? 家の名前?」
こんな山奥にBluetoothが? と首をかしげつつ、接続範囲を確認すると、強度は中程度。
だが、周囲には建物どころか舗装された道もなく、明らかにおかしい。
スマホのアンテナを頼りに森の奥へ入っていくと、やがて急に木々の密度が開けた。
そこに──草に埋もれるように、一軒の古い平屋が現れた。
錆びたトタン屋根、崩れかけた縁側、窓には布団がかかったまま。
放置された空き家に見えたが、スマホのBluetooth画面では、**「接続可能」**と表示されている。
試しにリンクを押してみると、接続に成功した。
だが、同時に通知が来た。
「デバイスからのファイルを受信中」
許可もしていないのに、スマホに小さな画像ファイルが保存された。
ファイル名:room.png
開いてみると、それは見下ろす視点から撮影された、畳の部屋の画像だった。
中央にちゃぶ台、脇に火鉢。そして右手前に、誰かの頭のてっぺんだけが映っていた。
短く刈られた白髪。後ろ姿のまま、何かをじっと見つめているようだった。
Lは慌てて接続を切ろうとしたが、Bluetooth画面には新たなデバイスが表示されていた。
House_2402(接続済)
House_2403(接続済)
House_2404(接続済)
次々に現れる“家”の名前。しかも、自動で接続されていく。
画面の中で、接続先の一覧が縦に伸びていくたび、Lは何かに包囲されていくような感覚を覚えた。
恐ろしくなってその場を走り去り、ふもとの町に戻った。
すぐにアプリを削除し、スマホを初期化した。が──翌朝、通知が届いていた。
「House_2401 が近くにあります」
Lは震える手でスマホを伏せた。
その通知が表示された場所は、自宅のアパートの自室だった。
壁を通して、微かにBluetoothの検索音が鳴っている気がした。




