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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第三章 古家で繋がる怪
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第23話 VR内見の亡霊

 Dは転職を機に地方へ移住することになり、ネットで古民家物件を探していた。予算は少なかったが、タイミングよく不動産情報サイトに掲載された「フルリノベ済・格安・即入居可」の物件が目に留まった。


間取りは2DK、平屋、裏に小さな山がある古家。写真を見る限り、室内は白木で清潔感があり、天井には梁が見える。なにより驚いたのは、VR内見対応の文字。


Dはその場で、スマホをゴーグルにセットして内見を始めた。


最初は玄関。正面の廊下、左右の部屋、奥の台所と順番に視点を動かしていく。Dの目には、手入れの行き届いた家が映っていた。清潔で、どこか懐かしい。ほのかに光の差す障子、磨かれた柱、色褪せたふすま。


だが、台所まで進んだとき、ふと右手の視界の隅に──**“扉”**が見えた。


最初の間取り図には記載のなかった、小さな引き戸。壁と一体化しているようで、気を抜くと見逃しそうになる。


Dは視点を動かし、その扉の前に立った。

VR内見では、触れる動作はできない。だが、次の瞬間、映像が自動的に切り替わった。


視界が暗くなり、ぐっと画角が低くなる。まるで、しゃがみこんで押し入れのような空間を覗き込むような視点。


その奥に、何かがある。


薄暗い空間の奥に、白いシャツを着た人影。

……いや、首だけだ。顔が異様にのっぺりとしており、目元が黒く滲んでいた。


Dは反射的にゴーグルを外した。


部屋は明るい。時計はたった数分しか進んでいない。けれど、あの映像の記憶は数十分にも感じられた。


怖気を感じながら、Dは不動産サイトを開き直した。VR内見ボタンは消えていた。念のため会社に電話して問い合わせたが、返ってきたのは意外な答えだった。


「申し訳ありません、その物件……昨日、掲載停止になっておりまして」


「え、でも今さっきVRで……」


「そのデータも削除済みのはずですが……そちらの画面、再読み込みしていただけますか?」


言われた通りにページを再読み込みすると、確かに物件情報自体が消えていた。


不思議に思いながらDは、ゴーグルに残っていたキャッシュデータをもう一度再生した。

途中までは普通の内見だった。だが、台所に差しかかる直前で、映像がフリーズした。


静止した画面の奥に──壁に貼られたカレンダーのようなものが映っていた。


昭和62年。

11月。


そして、カメラが決して向けられなかったはずの方向、

「押し入れの扉」の上部に、小さく、手書きの紙が貼られている。


画像を拡大しようとしたその瞬間、画面が暗転した。

だが一瞬だけ、Dはそこに書かれた文字を読み取ってしまった。


「この部屋には もう いません」


Dは引っ越しをやめた。


理由を説明することはできなかったが──

その言葉の**「もう」**が、どうしても引っかかってならなかった。


まるで、まだどこかにいる、というような。

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