第24話 家具付き民泊の異変
Fは趣味のひとり旅で、地方の格安民泊をよく利用していた。
古民家を改装した宿や、元別荘のような物件が特に好みで、今回もアプリで見つけた「1泊2,000円・家具付き・元農家住宅」という物件を予約した。
写真には古びた座卓や箪笥、掛け軸などが写っており、いかにも“田舎の祖父母の家”という雰囲気があった。宿のホストとは一切顔を合わせない形式で、鍵は玄関に設置されたキーボックスで受け取る仕組みだ。
当日、駅から徒歩15分。草むらに埋もれるようにその古家はあった。
外観は写真通り、いやそれ以上に古く、玄関の木戸は重くきしんだ。
室内は静かで、やけに空気が乾いていた。畳の部屋には座卓と火鉢、木の箪笥があり、壁には色褪せた家族写真──ただし、すべて顔の部分が反射で見えなかった。
Fは一息ついてから、民泊レビュー用の動画を撮ろうとスマホを構えた。ぐるりと部屋を回り、箪笥の前でふと撮影を止めた。
上段の引き出しが、わずかに開いていた。
なんとなく気になって、中を覗いてみると、中には手帳がひとつ。古びて表紙は擦れていたが、日記のようだった。ページの一部には、短い文が繰り返し書かれている。
「本当に泊まった人」
「泊まっていないことにした人」
「泊まったけど帰れなかった人」
その下に、びっしりと名前のようなものが手書きされていた。
姓だけ、あるいはイニシャル。中には赤鉛筆で塗りつぶされたものもあった。
気味が悪くなり、Fは手帳を元に戻した。
だがその夜、布団に入ったあと、室内の空気が突然湿気を帯び始めた。
障子の外で、かすかに床板がきしむ音がする。
誰かが、そっと歩いているような──そんな音。
怖くなって明かりをつけたが、誰もいなかった。念のため玄関を確認し、鍵がかかっていることを確かめると、Fは荷物をまとめ、スマホでタクシーを呼んだ。
そのとき、ホストから初めてのメッセージが届いた。
「滞在ありがとうございました。
明日、念のため、人数確認のためのリストにお名前を記載します。
読み方のわからない方もいらっしゃるので、
よければ“ひらがな”でも教えてください。」
Fはそのメッセージを見て、意味がよくわからなかった。
人数確認? 他の宿泊者などいなかったはずだ。
翌日、Fは民泊アプリでその物件のレビューを書こうとした。が──
その物件ページ自体が削除されていた。
代わりに、予約履歴にはこうだけが残っていた。
「宿泊キャンセル済:F様」
Fはキャンセルなどしていない。泊まったのは確かだ。
だが──泊まっていないことにされたのだと気づいたとき、
昨夜見た手帳の文が、頭の中にねっとりとこびりついてきた。
「泊まっていないことにした人」
Fはノートに書いてあった「泊まったけど帰れなかった人」の意味を想像し、
撮った画像などや履歴をすべて破棄した。




