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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第三章 古家で繋がる怪
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24/54

第24話 家具付き民泊の異変

 Fは趣味のひとり旅で、地方の格安民泊をよく利用していた。

古民家を改装した宿や、元別荘のような物件が特に好みで、今回もアプリで見つけた「1泊2,000円・家具付き・元農家住宅」という物件を予約した。


写真には古びた座卓や箪笥、掛け軸などが写っており、いかにも“田舎の祖父母の家”という雰囲気があった。宿のホストとは一切顔を合わせない形式で、鍵は玄関に設置されたキーボックスで受け取る仕組みだ。


当日、駅から徒歩15分。草むらに埋もれるようにその古家はあった。

外観は写真通り、いやそれ以上に古く、玄関の木戸は重くきしんだ。


室内は静かで、やけに空気が乾いていた。畳の部屋には座卓と火鉢、木の箪笥があり、壁には色褪せた家族写真──ただし、すべて顔の部分が反射で見えなかった。


Fは一息ついてから、民泊レビュー用の動画を撮ろうとスマホを構えた。ぐるりと部屋を回り、箪笥の前でふと撮影を止めた。


上段の引き出しが、わずかに開いていた。


なんとなく気になって、中を覗いてみると、中には手帳がひとつ。古びて表紙は擦れていたが、日記のようだった。ページの一部には、短い文が繰り返し書かれている。


「本当に泊まった人」

「泊まっていないことにした人」

「泊まったけど帰れなかった人」


その下に、びっしりと名前のようなものが手書きされていた。

姓だけ、あるいはイニシャル。中には赤鉛筆で塗りつぶされたものもあった。


気味が悪くなり、Fは手帳を元に戻した。

だがその夜、布団に入ったあと、室内の空気が突然湿気を帯び始めた。

障子の外で、かすかに床板がきしむ音がする。


誰かが、そっと歩いているような──そんな音。


怖くなって明かりをつけたが、誰もいなかった。念のため玄関を確認し、鍵がかかっていることを確かめると、Fは荷物をまとめ、スマホでタクシーを呼んだ。


そのとき、ホストから初めてのメッセージが届いた。


「滞在ありがとうございました。

明日、念のため、人数確認のためのリストにお名前を記載します。

読み方のわからない方もいらっしゃるので、

よければ“ひらがな”でも教えてください。」


Fはそのメッセージを見て、意味がよくわからなかった。

人数確認? 他の宿泊者などいなかったはずだ。


翌日、Fは民泊アプリでその物件のレビューを書こうとした。が──


その物件ページ自体が削除されていた。


代わりに、予約履歴にはこうだけが残っていた。


「宿泊キャンセル済:F様」


Fはキャンセルなどしていない。泊まったのは確かだ。

だが──泊まっていないことにされたのだと気づいたとき、

昨夜見た手帳の文が、頭の中にねっとりとこびりついてきた。


「泊まっていないことにした人」


Fはノートに書いてあった「泊まったけど帰れなかった人」の意味を想像し、

撮った画像などや履歴をすべて破棄した。

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