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魔獣の親玉

「『レイ・ライト』! 気を付けてください、その大きな魔獣の爪からは悪魔の魔力が感じ取れます!」

「触れると、どうなる、の!」


 シャルドネがギリギリの距離で魔獣の攻撃をかわしながら話をしています。やはり器用というか強いというか。


「そこから浸食が始まり体が腐ります!」

「あぶな!」


 一気に距離を取り始めました。やはり命は大事ですよね。


「多少当たっても問題ないでしょう。闇魔術に長けているフーリエがいるなら治療方法も知っているでしょう」

「あまり強打は受けないでください! 強めの聖術を唱えているので!」


 障害物を出しながらそんなやり取りをしていると、テツヤからこれまでにないほど大声で反論が返ってきました。


「嫌だ! 俺はあの『神々しい腰痛治療』を受けたくない!」


「変な名前を付けるのはやめていただきたいのですが!」


 悪魔の魔力の影響は人それぞれですが、少なくとも人間に対しては腰痛では済まさないと思いますよ!


「まったく緊張感が無いんだから……っは!」


 油断したのか、シャルドネがうっかり魔獣の爪に引っ掻かれました。


「があ! ……うそ……」


 引っ掻かれた箇所は右腕。そこから黒い痣が浸食し始めました。

 そしてシャルドネはそれを見て、絶望的な表情とともに言葉を発しました。


「腰痛どころじゃないわよこれ……全身痛すぎて立つのがやっとよ!」


「緊急時に何を言ってるんですか!」


 普通なら死ですよ。ですがフーリエはシャルドネに近づき冷静に対処していました。


「シャルドネ様! 腕を……『光球』!」

「……治っていく」

「軽傷だったので、下位の聖術です」


「え……じゃあゴルドの腰痛ってどんだけ重症だったのよ」


「腰痛をバカにしないでくださいねええええ!」


 そろそろ砂壁を『意図的に誤射』しようかなと思いました。


「ふう、冗談よ。というかこういう冗談を言ってないと、正直身が持たないわよ」

「ああ、むしろゴルドはなぜ平気か知りたいぜ」

「ゴルド様の突っ込みのおかげで何とか平穏を保ててます」


 それは良かったですね!

 とはいえ、実際あの大きな魔獣から出している殺気や漏れ出している魔力の所為で、時々目がかすんだりします。

 つまりここにいる人間三人も何かしらの影響を受けているのでしょう。


「聖術の術式ができました! 皆さん離れてください!」


 フーリエが先程から長時間に渡って唱えていた聖術が完了したそうです。

 フーリエの声とともに全員が後ろに下がり、フーリエが術を唱えました。


「『セイクリッド・ランス』!」


 フーリエの手からは、鋭い輝く槍が顕現され、勢いよく放たれました。その槍は魔獣の腹部に命中し、大きな穴が開きました。


「ふう、これで……生きてるわね」


 苦しみながらも魔獣は生きています。

 それも、傷はふさがりつつある状況です。率直に言ってまずいです。


『ガアアアア!』


「これは一度逃げた方が……フーリエ?」

「魔力不足で動けません……」


 だからどうして人間は魔力を使うことに関して下手なのでしょう。まさかここにきて魔力を使い切るとは思いませんよ!

 仕方がありません、ここは岩の地でもらった金塊を取り込んで一発大きいのを……。


 そう思った瞬間でした。



『ガアアア……アア……ア?』



 魔獣は横一線に切断されていました。


 そして横から大きな光の柱のようなものが飛んできて、あの巨大な魔獣がチリ一つ残らず消え去ってました。


「……うそ」


 シャルドネは言葉を漏らしました。

 そして光が飛んできた場所には、二人の人間が立っていました。


「どうしてアンタがいるのよ! ガラン!」


 男の髪は金髪。そのツリ目は、シャルドネとそっくりでした。

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