消えたミッド
髭を生やした男に悪魔の薬をばらまいた人の場所を聞き出し、ボク達は走っていました。
また、ダガーを持っていたということも、不幸中の幸いと言うべきでしょう。ボクの魔力が足跡となってうっすらですが道しるべとなっています。
「まさか、岩の地の鉱山へ向かうことになるとはね」
「鉱山ですか?」
「ええ、元々岩の地は鉱石で有名。つまり、それを取れる場所があるというのはわかるわよね?」
「まあ、にしても鉱山だと何か都合が悪いのですか?」
あの強いシャルドネが、真剣な顔をして、ボクを見ます。
「だって、狭い道に暗い場所。怖いわ」
……そうですね。
そういえばシャルドネって、殴れない物に対してはあり得ないほどの拒否反応を持っているのでした。
事情が事情なだけに笑うことが出来ないので、この場は黙って……。
「今、絶対馬鹿にしたでしょ!」
「し、してませんよ! え、シャルドネ、もしかして『心情読破』を使ったのですか?」
「そもそも使えないわよ! 顔見れば分かるわ!」
ボクってそこまで表情豊かとは思えませんが。
とりあえず銀色のプレートを出して自分の顔を見て確認して、何も違和感が無いことを再確認しました。
「じゃあ聖術『光球』でなんとか照らしますので、頑張ってください」
「うう、まあそれで我慢するしかないけど……」
足を止めました。
周りには何やら少し大きめの魔力の反応が五つあります。
「……ゴルド、鉄の棒を生成してくれない? ダガーが無いから武器が欲しいわ」
「わかりました。でもあまり離れないでくださいね。範囲外に行くと砕けます」
「わかった」
そして鉄の棒を渡した瞬間、黒いオーラを醸し出している人間が五人、一斉に襲ってきました。
「右二人頼んだわよ!」
「はい! 『投石』!」
何個か石を飛ばし怯ませます。
二人の内の一人はすぐに立て直して、ボクに襲いかかりました。
殴りかかってきた人間の拳を『土壁』で防ぎ、ボクの右手にも鉄の棒を生成し攻撃。
打ち所が良かったのか、それで気絶してくれました。
もう一人は首を振り、立て直してからボクに襲いかかってきました。二人まとめて来なかったので良かったです。
先ほどの戦法とは逆に、地面の土を凹ませ相手の踏むべき場所を消し、バランスを崩したところで腹部に『投石』を当て気絶しました。
「ふう、シャルドネは……まあそうですよね」
シャルドネはもちろん三人相手にも関わらず、全員を気絶させていました。
「まだ船長兄弟の方が強いわね」
「『光球』」
聖術を使って、襲ってきた人間に当てると、黒い霧が体から出てきて、強化された筋肉が少し小さくなりました。つまり、正常な人間に戻ったということでしょうか。
「人間に戻ったと言うことは、まだそれほど浸食していないということですね。船長兄弟はすでに完全に悪魔に飲まれていたので、当然かと」
「そうね……でも油断は出来なかったわ」
悪魔の薬を服用してから日が浅ければ助かる。つまり、まだ希望はあります。
しかし、本当に誰が何を目的としてこんなことを。
「この洞窟ですね」
魔力を辿った先は洞窟でした。
『光球』を所々に停滞させて、照明代わりにします。もちろん火でも良いのですが、洞窟……しかも鉱山でむやみに火をおこすのは危険だとシャルドネに言われました。
「ん、何か気配を感じない?」
「……大きな魔力は感じます。多分、悪魔です」
とても大きな魔力。それはきっと、元々人間だったはずなのに、死神と何か約束をしてしまい、悪魔の力を得てしまった人間の力。そう思いました。
「『認識阻害』を使います。ボクに捕まってください」
「わかったわ」
……躊躇無くボクの手を握ったシャルドネ。
いや、ボクは精霊なので性別がそもそもあやふやですがシャルドネって女の子ですよね?
ボクは別に何も思いませんが、せめて人間のシャルドネは女の子らしい反応をしてくれても良いのでは?
「……テレルワネー」
「いや、だから『心情読破』を使っていますよね」
「ふと握った後に『……ああ』って思ったから、とりあえず女子として最低限の行動は取っておこうかと」
「もう良いです。進みますよ」
「そうね」
釈然としませんが、これはこれで都合が良いので、とりあえず進みます。
洞窟を進むと大きな広間に到着しました。
まるで何かの儀式をするのに必要な大きさをくり抜いた広間。地面には赤い字で陣も描かれています。
「魔術の類いかしら?」
「……召喚術の類かと。しかし陣に関しては血で書かれています」
「気味が悪いわね」
赤字で書かれた陣からは、まだ何かの魔力を感じ取れますが、悪魔の可能性もあるのでこれ以上は手を出せません。
「シャルドネ……三つ数えたら、左右に分かれますよ」
ボクの言葉に、シャルドネは顔を見ること無く頷いた。
いち。
に。
さん。
そして、左右に飛んだ瞬間、ボク達のいた場所には。
赤い目をしたミッドの姿があり、地面には大きな穴が空いていました。




