表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/110

欠けた心

 休日はのんびり過ごすつもりが、昨日シャルドネと手合わせしたせいで、体中がとても痛いボクです。

 筋肉はもちろん、血も流れていないはずの体なのですが、どういう訳か筋肉痛というものに襲われています。


「この体になってから、色々と状況が変わったのでしょうか」


 ここへ落ちてくる際に、殆どの体内の魔力を使用したため、何かしら影響が出たとしか考えられません。とはいえ、徐々に回復しているのも自覚はしているので、この筋肉痛も一時的な物だと信じて耐えるとしましょう。


 それよりも一つ、気になることが出てきました。そしてそれを確かめるべく、ボクはシャルドネの所へ行きます。

 宿屋の庭にある井戸で、早朝ランニングでかいた汗を濡れた布でふいていました。


「あらゴルド。おはよう」

「おはようございます」

「……あまり、じろじろと見ないでくれるかしら? これでも少し恥ずかしいのだけれど」

「……やはり、シャルドネは少し不思議ですね」

「そうかしら?」


 シャルドネは桶を井戸に落として水を汲み、引っ張ります。引っ張るのも普通の男性なら数回。でもシャルドネは一度引けば桶が戻ってきています。


「普段から鍛えていれば、これくらいはできるわよ」


「鍛え方が違います。まるで……全ての力を解放している様な感じですね」


 そのボクの言葉にシャルドネは桶を落としました。


「……! に、認識阻害を使っているの!」


 シャルドネはようやく気がつきました。いえ、気づけなくなりました。

 ボクは自身の存在を隠蔽する『認識阻害』を使ってシャルドネに話しかけていました。

 この神術の特徴は、意識して見ようとしたモノを隠すことができます。この場合は『ボク』という存在を意識して見ることはできなくなるのです。


 ボクを見るには、『無意識かつ無感情で話しかけて、無意識かつ無感情で答えなければできない』のです。だから、シャルドネはボクという存在に話しかけようと『意識』した瞬間、ボクが見えなくなったのでしょう。


 つまり、シャルドネは普段、感情というものを持たないまま行動しているのです。


「やっと視線が外れましたね。シャルドネ」

「マリーかしら?」

「……気になる発言はしていましたが、全ては話していません。ボクが気になったからそうしただけです」

「そう」


 そう言って、布を置き、その場で座りました。


「少しお話をしましょう」

「……はい」



 数年前の出来事でした。


 二人の人間が、草の地という場所に住んでいました。


 ある日、そこには大きな鎌を持った幽霊が現れました。


 その幽霊は鎌を使って、二人のうちの一人を殺しました。殺されたのはもう一人の母親でした。


 残された人間も殺されかけました。


 そこに、一人の少女が現れました。


 何かを唱え、そしてその幽霊はその場から去りました。


 母を失った人間は、悲劇で心を失ってしまい、力加減という物を体から消えてしまいました。



 とても単純ですが、とても悲しいお話をシャルドネは話しました。

 おそらくその残された人間というのはシャルドネの事でしょう。


「話の通り、私は幽霊に唯一の血縁の母親を殺されたの。だからその幽霊を探しに旅をしているのよ」

「そうなのですね。感情が、心を失い力加減ができない状態で行なっている日々の鍛錬も、ある意味で全力でできたのですね」

「ちなみにその現れた少女というのはマリーよ。突然現れて助けてくれたのよ」

「え、でも以前命を助けたって言ってましたが」


 今の話だと、シャルドネは助けられた側の様に聞こえます。以前マリーは助けられたと言っていた気がしますが。


「その後よ。マリーは記憶が無かったっぽいの。その幽霊を退けたところまでは良かったけれど、それ以上は何も出来ないただの魔術師だったわ。文字などを覚えた後、この雪の地に連れてきたのよ」

「そういう流れがあったのですね」


 にしても、シャルドネも見た目は十代前半に見えますが、そんな冒険を以前からって、一体何歳からその強さになったのやら。


「ということで、私はその幽霊を探しているの。ちなみに最初にゴルドと出会ったときは、本当に怖かったのよ?」

「得体の知れない生物にでも見えたのですか?」

「ええ。鎌は持っていなかった。けれど、人間の形をしている割にはどこか不思議な存在。最初に攻撃されたときは、本当に終わったと思ったわね」

「あれは獣を狙ったのですが……まあアレは確かに軽率でしたね」


 軽く笑って、シャルドネは仕切り直す。


「ということで、私の事情を話したから、ここからはお互いの目標に向けて、協力し合いましょう」

「シャルドネは鎌を持った幽霊を倒すのですよね?」

「ええ。ゴルドは確か『神を、倒す、事、です』よね?」

「なんで覚えているのですか?」

「ふふ、だって、楽しかったからね」

「そうですか……まあ良いです。ではお互い頑張りましょう」


 そう言って、お互い握手をする。


「……こほん、えー、ほのぼのした朝の友情物語の最中だけど、介入して良いかしら?」


 マリーが後ろに立っていました。


「マリー。何かあったの?」

「ええ、良い情報と悪い情報があるわね」


 そう言って、マリーは一枚の紙を読む。


『雪の地北部の森にて小さな洞窟を発見。悪魔と思わしき物体を確認。また悪魔をこの地に呼んだという証言を得た』


 ようやく手がかりですね。


『交渉は決裂。悪魔は攻撃が通じず、手に持つ鎌は全てを切り刻む。僅かな命でこの手紙を鳥に託し飛ばす。神の祝福を』


 その瞬間、先ほどまで全く無かった風が強まった気がしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ