目覚め
夜中のアレのせいで無駄にアドレナリンが出たのか一睡もできなかった。休み時間の今でもだ。
鳴門についてはこれまでの行方不明者と併せて全校集会で公表された。中にはショックのあまり泣き出す生徒や倒れる生徒も出ていた(慎也はそんな事微塵も感じなかったが)。
やがて二時間目開始のチャイムが鳴った。すかさず下を向いて仮眠の態勢に入る。斜め前の航人も流石に眠そうにしており、授業に参加する気はないようだった。
「はい席についてー」
担任のレイの声で日直が号令を掛けた。挨拶をして全員座ったところで彼女が話し出す。
「今日はジュギョーの前に新しい英語の先生を紹介しまーす。」
わずかに教室がざわつく。この時期に新任の教師が来るなんて珍しいな……。そんな慎也の思いとは裏腹に「ざわざわしなーい、ではどうぞ!」とレイが招き入れる。
入ってきたのは男だった。身長は185センチくらいだろうか。少し暗めの銀髪に黒縁メガネ、目つきは鋭いものの人は良さそうな外国人という感じか。
あと普通にイケメンで女子から黄色い声が多数上がった。
「ハローエブリワン!私はアルフレッド・ホームズと言います。フレッドと読んでください。私は日本の文化を勉強するのに教師として来ました。皆さん仲良くしてください、よろしく!」
意外にも流暢な日本語だ……と思いつつ彼に対する興味は皆無だったため意識をノートに落とした。これまでの出来事を整理する。
現状、死人が少なくとも6人。行方不明者も4、5人出ている。
また今回の犯行は吸血鬼によるものだとと判断していいだろう。実際それらしき奴に襲撃をされてるくらいだから。
「……」
更にこの学校の立地も重要な手がかりだった。この学校は広大な森林を開拓して建てられている。その為、札幌に行くだけでも電車で片道2時間はかかるような僻地である。
「……」
つまり、だ。犯人はこの学校の中にいるのだ、紛れもなく。だとすれば被害は一層拡大され、最悪の場合学園が崩壊することもあり得る。一刻も早く犯人を捕まえなければならないのだ。
「…………野。諏訪野。」
「ん?」
隣の学級委員の飯塚が脇をつついているのに気づいた。指で差された方向を見るとアルフレッドに当てられていたようだ。
「諏訪野くんは何か質問はありますか?」
彼と目があう。空気が豹変する。直感で分かる、こいつやばい奴だ。彼の目の奥で冷たい針が蠢いているようにも感じられた。
完全に気を取られてしまった。どうしよう、質問する内容が無い。
……あいつの本質出させるか。
そう思い慎也はアルフレッドに対してふざけたことを言ってみた。
「先生は人を殺すことできますか?」
空気が凍る。航人はやらかしやがった、と言わんばかりに笑いをこらえているが。それ以外は絶句していた。
「じゃあ君は殺すことができるのかな?」
「それはやってみないと分かりませんけど。」
「慎也、精神科行って美人の看護師さんに直してもらったほうがいいんじゃねーの?」
一瞬険悪な雰囲気になるが、ムードメーカーの鶴の一声で爆笑に包まれる。慎也は苦笑しながら着席したが、逃すはずはなかった。
アルフレッドの、奴の顔が完全に死んでいた。まるで下等生物を見下すように。
ほら、化けの皮剥がれた。疑惑が関心に変わる瞬間だった。
あいつが絶対関わってる。一人だけ目が違う。裏で何か引いてるはずだ。
そう思いながら彼は再びノートに視線を落とした。
窓の向こうでは厚い雲が空を覆い始めていた。
*
時計の針が規則正しく動く。東峰学園高校普通科2年の鹿野未和は集団自習室でクラスメイトと勉強していた。東西南北でくっつけた机には彼女と友人の南山桃乃、飯塚に慎也が座っていた。
「三角関数のプリントできたぞ鹿野。」
「あ、ありがとう。……慎也君プリント解くの速すぎない?」
「その分間違ってるだろうから、参考程度にしとけよ」
クラスで同じ班の4人は月2回は集まって勉強するようにしている。今日もこうして課題をやっているわけだ。
隣の桃乃が口を出す。
「慎也、無愛想すぎない?一年の頃もそうだったけどあの質問は……」
「確かにな。あれは喧嘩売ったとしか言いようが無いぞ。まさか先生がキャーキャー言われて嫉妬してんのか?」
「んな訳あるか。口じゃなくて手ぇ動かせ」
この通り、彼は無愛想だが女子からの人気が高かったりもする。クールな性格とは裏腹にさりげない優しさがカッコいい。と、どうやら二枚目のプリントを解き終えたらしい。速すぎる。
「……そういえばさ、最近の事件のことなんだけど行方不明になってたうちの二人が遺体で発見されたらしいよ。二人とも川の上流から流れてきたんだって」
「本当か?誰から聞いたんだ?」
「部活の後輩。新聞部に友達がいるんだってさ」
「桃乃ってそういうのだけは速いよね……慎也君は事件のことどう思ってるの?」
流れで向かいの慎也にアプローチしてみた。すると彼はさして興味もなさそうに無感情に言った。
「どうって別に。所詮他人は他人だろ。俺らに何も無い限りいいんじゃ無いのか?」
「で、でも同じ学校の人が亡くなって悲しいとか思ったりしないの?」
「するさ。ただ、今更悔やんだって後の祭りで現状からは何も変わらないだろ。」
「…………」
黙り込む未和をよそに彼がペンケースや教材を片付け始める。どうやら全て終わったらしい。
「帰るのか?」
「ああ、ちょっと考えたいことがあってさ。鍵と電気よろしく頼むわ。じゃあお休み」
「「おやすみ」」
そう言って彼は自習室から出て行った。未和は何にも言い返すことができなかった。「何であんなこと……」と呟いてしまう。
「未和落ち込むなって。あいつも多分機嫌悪かっただけだろうし。しょうがないって。」
「そうそう。そんなので落ち込んでたら他の女に慎也取られちゃうよー?」
「ちょ、ちょっとっ!」
「冗談、冗談。……でも慎也も慎也で色々とあるのよ。今回はたまたま。見逃してあげなよ。」
二人の慰めの言葉を聞いても、あの一言が頭の中で反復される。どうしても納得できなかった。
結局この日はこのままお開きになった。
今回でやっと未和が出てきました。一見モブそうなキャラクターですが、普通に重要のキャラです(笑)色々ここから話が動いたり動かなかったりしますが長い目で見てください。
新シリーズを製作しているようなしていないような……




