動き出す歯車
不意に寝ている航人が寝返りを打った。さすがに夜中と言うだけあって熟睡している。それをよそに、慎也は机の下から黒いケースを取り出した。開けると久々に嗅ぐ弾薬の臭いが漂う。
中には、三丁の拳銃が格納されていた。黒白で色違いのベレッタ社製のM92FとKBP社のGSh-18である。更にもう一つケースを取り出し開け、ブラシや潤滑油などを取り出す。
いつも通り銃を分解し、薬室にオイルを吹きかけススをティッシュで拭き取っていく。最近全く整備していなかったため、異常に汚い。それが終わるとオイルを満遍なく塗っていく。部屋に油の匂いが充満し、むせそうになった。
「…………ん」
それはどうやら航人も同じだったようだ。徐に彼が目を覚ました。顔をしかめられる。
「うわ、くさっ……なんだこの臭い」
「あー起こしちゃったか」
「お前、何持ってんの?」
聞かれたのでからかうことにした。手入れするつもりだった二丁目の拳銃を「バーン」と言いながら向ける。本人は目を剥きながら飛び退く。面白くて仕方がなかった。
「この野郎っ」
「弾入ってねーから大丈夫だって」
「そういう問題じゃねぇ!何でお前が銃持ってんだよっ。」
涙目になりながら抗議された。彼の主張がわからないわけでも無い。が、弁明するのも面倒臭かったため有無を言わせず航人に銃を投げつける。
「トカレフ。これ護身用に持っとけ。」
「いや、だから何で……」
「死んでもいいんだったら教えてやるけど。」
「…………」
どうやら空気を読んでくれたらしい。追求しようとはしなかった。
「まあ、そんな変なことはしてないけど。知り合いが裏稼業に首突っ込んでて、ちょくちょくモノ提供してくれんだよな。」
「へぇ……」
そんな事を喋りつつ、さらにベッド下からケースを出していく。火薬、銃弾、消音器……。
明らかに犯罪者の量だ。ふと、慎也が航人に問い掛けた。
「ところで、今日校長当直だったよな?」
「ああ、確か……でも何で」
「これだよ。」
そう言って出していたGSh-18を見せた。1990年代後半にロシアで開発された拳銃である。
「あの人校長なのに死なれたら元も子もないだろ。自分の身くらい守ってもらわねぇと。」
「なるほど」航人が頷いた。
犯人が校内にいないとは限らない。この状況で彼女が殺されれば学園は崩壊しかねない。それほど緊張の糸が張り巡らされている。
「……」
「なあ、こんな話をする時でもないけどさ、あの人絶対小学生だろって思うの俺だけか?」
「……またそれかよ、ロリコン…………」
「いや、だってさ。あの童顔に低身長は」
「そう言うのはノートにでも書いとけよ。ほら、校長室行くぞ。」
慎也は左手に航人の首根っこ、右手にケースを持ち校長室へと向かった。
*
「失礼しまーす」
二回ノックして校長室のドアを開けた。深夜というより超早朝の為か、校長室と職員室から薄明かりが漏れているだけだ。
天藤は机で何やらサインをしていたが中断して紅茶を淹れてくれた。この前と同じくロリッ子感丸出しのパジャマを着ている。
「こんな夜更けをどうした?」
「あるものを渡したくて来たんですけど……」
彼女が頭に疑問符を浮かべていたので手に持っていたケースを開ける。
「護身用に拳銃持ってもらいたくて。確認してもらえます?」
拳銃を一瞥して感嘆の声を漏らすが反応は薄い。違和感を抱く。
日本人は当然銃を見た事がある者なんてそうそういない。だが、明らかに彼女のそれは慣れている様子だった。
……この人が、そんな信号が脳裏をよぎった。
「私の顔に何か付いているのか?」
「いや別に」
しかめっ面の一言で我に返った。傍らの航人がニヤニヤしていたため一発諸にくらわす。もがき苦しんでいるが気にすることはない。
「初心者用に、扱いやすい拳銃を用意しました。一応サイレンサーも付けときますけどいらなかったら外してください。あと、なるべく携帯するようにお願いします。」
「殺す時は?」
「心臓か脳天ブチ抜けば……というか銃の使い方分かるんですか?」
「ん、アメリカに留学してた頃にな」
わずかに天藤の目が泳いだ。嘘をついたように感じられたが、人間らしい反応に安堵する。
「本当は殺し屋とかじゃないんですか?」
「仮にそうなら、君を最初に殺すね。無駄に冗談が多いから」
「じょ、冗談きついっすよ……」
航人、返り討ち。
ふとドアがノックされたような音を聞いた。職員室の方からである。
「誰か来たようだな。この時間なら……当直の教師か?」
「あ、俺出ますか?」
航人が席を立つ。慎也は銃の正体がバレると困るため隠すように促した。
「はーい」
彼がドアを開けた。次の瞬間……
地面になぎ倒される。直後、訪問者は獰猛な叫びとともに獲物の首筋にかぶりつく。
敵襲だ。そう直感した。恐怖に覆われる精神とは裏腹に体が反応。ヤツの胸に足を入れ、一気に蹴り上げた。カエルが裏返るように卒倒する。
「航人っ」
出血が止まらない。彼は「大丈夫だ……」と言うが明らかに苦しげだ。そうこうしているうちにヤツが起き上がる。
紅色の瞳に、二本の牙。三人の知っている人間だった。
「な、鳴門……!」
天藤が驚く。しかし、そんなことを聞いているはずもなく「天藤、天藤…………」と呟いている。気味が悪い。
「おい航人!奥に隠れろ!」
コンマ一秒の余裕すらない。慎也は、ベレッタを抜きながら間合いを詰めた。四発発砲。相手は全て回避。後ろに退く。
……なら……!
歯ぎしりしながら、彼はたまたまあったノミを顔面めがけて投げつけた。我ながらスピード、方向共に最高だったと思った。
しかしヤツは一枚上手だった。右手を突き出しノミを受ける。それはヤツの手を貫いて動きを止めた。が、平然と手から抜き出し捨てて傷口の血を舐めだしたのだ。
「なっ……!」
明らかに人間業じゃない。よくよく考えればさっきの行動もおかしかった。生き血を吸うなど人間ではない。数日前のジョークを思い出す。
吸血鬼。人の血を吸って生きる化け物。
慎也は雑念を払うように頭を振った。兎にも角にも自分たちの安全を確保しなければ意味がない。
ヤツが首を絞めようとしてくる。それに対し慎也が壁を使ってドロップキックを食らわす。バランスを崩して転倒。さらに馬乗りで抑え込んだ。
なおもヤツは彼に噛み付こうとするが照準し発砲。一瞬の隙をつき額目掛けて乱射した。喘鳴をあげる隙すら与えない。
ヤツは最後まであがいていたが、断末魔なのか「メイリア様……」と呟いて絶命した。頬についた血が気持ち悪く手の甲で拭い取る。
「大丈夫か諏訪野っ」
「いや、俺は別に……航人の方は?」
慎也は噛みつかれた航人を心配するが、出血の割に彼は冷静だった。
「心配いらないって。そんな言うほど眩暈とかも起きてないし……であいつは?」
「一応殺した。あそこに……ってあれ」
そう言い死体の方を指差すが、そこにあるのは山のように盛られた砂だった。一瞬混乱してしまう。
まぁよくよく考えればありそうな話だった。吸血鬼が殺されると砂になるという話は定番である。胡散臭すぎて笑いたいところだが状況的に笑えないジョークになってしまった。
危うく死人が出るところだった。ベレッタを持つ手が汗で滑っていく。
校長室の中は不快な程の血臭で満たされていた。
*
「……メイリア様、反応が消え去りました。」
ガルトマンが目を開き呟く。
その言葉に彼女は絶句した。当然である。この計画が失敗するはずのない完璧なものだったから。思わず苛立ちから体育館の柱に蹴りを入れた。完全にヒビが入り折れそうになる。
「どうされますか?」
彼が問いかける。辺りをウロウロしながら、重い口を開いた。
「まだまだ時間はあるわ。すぐ壊すほど私だって短気じゃないもの。生徒の血でも頂きながら、ゆっくりやりましょう。それより明日の件わかってるわね?」
「もちろんでございます。」
メイリアはガルトマンの返答を最後まで聞かずに外へと向かった。自分の邪魔をした誰かに対し歯ぎしりしながら。
遅くなってすいません。執筆速度が異常に遅いもんでして……。これからは一ヶ月から一ヶ月半に一回くらいのペースで投稿していくと思いますが長い目で見ていただけると嬉しいです。




