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女王の復活

校舎の屋上でメイリアは、死体に囲まれながら月を見上げていた。これ程にまで美しい月を見たのはいつ以来だろう。感嘆の声すら漏れる。

眼下は静まり返っており、夜中にも関わらず電気がついてる部屋が何個も見受けられた。

まるで昔の自分を思い出すようだ。


メイリアは「人」が嫌いだった。

ドイツの有名貴族の次女として生まれたものの彼女は優秀とは程遠い人間だった。兄や姉は幼い頃から頭角を現し、留学などをしていた。対してメイリアは成績は中の上の至って普通の本が好きな少女。そんな彼女を家族は「出来損ない」と蔑んだ。

完全に疎まれていたが為にメイリアは、隣国に留学させられることになった。新しい人生を送れると期待していたが、結果は同じだった。彼女は「金持ちの娘」と罵られたのだった。

自分が嫌いだったのだ。無能な自分が。メイリアは醜い自分という殻を捨てたい、自分では何かに変わりたいと願った。

そしてそれは、彼女を吸血鬼に作り変えた。

狂気に溺れたメイリアは自分を軽蔑した人間を皆殺しにし、吸血鬼の女王と恐れられたのであった。


「メイリア様」

不意に背後から気配を感じた。聞き覚えのある声に振り向く。

「あら、ガルトマン」

限りなく黒に近い灰色の髪。黒いスーツの中には白シャツの上にベストとネクタイ。狼のような鋭い眼差し。手には白い手袋を身につけている。

シェルブール・ガルトマン。メイリア専属の執事である。

「ご無事で何よりです。」

「ふふ、ありがとう。貴方も生きててくれて嬉しいわ。」

「滅相もございません。」

謙虚なガルトマンに彼女は死体の首を掴んで持ち上げ、食べる?と聞いた。だが彼は生唾を飲んだもののそれを、善処しますとだけ言い頑なに動こうとしない。

「貴方、執事としては有能なんだけど、謙虚すぎるのよねー……」

「それはあなたが私の主であるからですよ。いくら歳が同じだからと言って、身勝手な口の利き方なんてできません。」

あまりの真面目さにウンザリしたのか、「それじゃあ行きましょうか」とメイリアはため息まじりに言った。ガルトマンが頷く。

そして、彼女は付け加えるようにこう言った。

「最高の宴を創り上げるのよ。」



時計の針の音とキーボードを打つ音が交互に鳴り響く。バスケ部顧問で数学教師のの鳴門浩貴は、一人黙々と職員室でテストの問題作成をしていた。午前2時半。今日は泊まり込みでの勤務である。

辺りは閑散としていて、少し不気味だ。更に見回りのことを考えると浩貴は些か憂鬱な気分になった。この学校では泊まりの教師が学校内を見回らなければならないのだ。

「面倒くさ……」

そう毒づきながらも、しょうがなく見回りをすることにした。教室等は前にレイと一緒に点検した為、残っているのは講堂と体育館だけだった。

講堂は本棟にあるが体育館は別棟にあるため講堂から行くことにした。

懐中電灯を片手に職員室を出た。勿論、照明は全部落ちているので懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく。

講堂まではそこまでの距離はなく、すぐに着いた。戸締まりと電気を確認していく。

「……講堂は大丈夫だな」

深呼吸をして外へ出た。流石に深夜の学校は大人とはいえ、怖いものだ。心臓の拍動が速くなる感覚を感じる。掌に汗をかく。自然と早足になる。

彼は自分がいつの間にかビビっていることに気づいた。小学生かよ……と苦笑しつつも懐中電灯を握り締め、体育館へと急いだ。

やがて体育館にたどり着いた。非常灯に照らされた看板を見て安堵する。

入ると、講堂と同様に真っ暗で視界も少し悪い。

「体育館も大丈夫か……」

そう呟き、外に出ようとした瞬間だった。……鍵が開かないことに気づいた。冷や汗をかく。何回も開けようと試みるが、やっぱり開かない。心拍が一気に上昇していく。

そのとき、背後から「ねぇ先生」と声が聞こえた。驚いて振り向く。

黒いレインコートを着ているが、ブカブカだ。おそらく一六十センチ前後の少女である。彼女が再び「ねぇ先生」と呼ぶ。

「こんな夜にどうしたんだっ」

「…………」

「とにかくもう帰りなさいっ」

叫ぶが、返答はない。おいおいと心の中で呟いた。

「先生、わたし実は前から先生のことが……好きだったの。どのくらいかって言うと……」

少女は鳴戸のジャージを掴んで後ろへと投げ飛ばした。当の本人は何が起こったのか理解できず、頭を強打。逃げ遅れてしまった。

そして、彼女は鳴戸のところへ向かい馬乗りの体勢になり、

「先生のこと下僕にしてずたずたに蹂躙してやりたいくらい……!」

興奮した口調。口元を吊り上げ牙を剥き出しにし餌の首筋へとかぶりつく。

鳴戸が恐怖を抑えきれず叫び声を上げたが虚しく空気に溶けていくだけだった。意識が消えた。


レインコートのフードを取る。襲った男は倒れたままだが、関係なく声を掛ける。

「私の可愛い子ちゃん、起きてちょうだい。」

影が一つ動いた。意識が朦朧としているのか、動きが挙動不審になっていた。女は彼の顎を軽く掴んで目を見た。男の瞳孔が徐々に開いていく。

「メイ……リア……様」

「目を覚ましてくれたのね。嬉しいわ。」

「あの、俺は……」

明らかに動揺しているのが見て取れる。様子がおかしいのは確かだが、構わずメイリアは続けた。

「あなたにお願いがあるの。天藤あずみを私のところまで連れてきてくれないかしら?きっと優秀だから背いたりしないはずよね?」

「も、勿論でございます、メイリア様。」

「そう、お願い」

言われるがままに鳴戸は体育館を出て行った。それを見送り、彼女は月の光が差す方向へと向かおうとする。しかし後方から「メイリア様」と呼ぶ声がしそれの方に振り向いた。

「ガルトマン、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもありません。何故あなたのような方が動かれるのですか?メイリア様が消えてしまえば、この計画は全て水の泡となるのですよ?ましてや、『自我』を与えている吸血鬼など……」

「ガルトマン、たとえあなたでも私の快楽を邪魔したら許さないと言ったはずよ。忘れたのかしら?」

「しかし……」

尚も抗議しようとする執事にメイリアは一気に距離を詰めて、首を掴んで持ち上げる。女王の力に呻いた。

「殺されたいのかしら?ご所望なら、ズタズタに切り裂いて臓物全部取り出して豚に食べさせてあげるけど?」

「……申し訳ありませんでした。」

謝罪に満足したのか、メイリアはガルトマンを解放した。咳き込む彼をよそにいつも通りの微笑みで「分かればいいのよ」と言った。彼女は吸血鬼の中でもトップの一人だ。きっと30回生まれ変わっても勝てないだろう。

彼がゆっくりと立ち上がるのを見て、女王は何処かの舞台女優のように、高らかに叫んだ。

「吸血鬼の復活の時は満ちた。今こそ下等な人間を殺し、我らが同胞と共に新世界を創り上げようではないか!」

力強い声がこだまし、彼はついに彼女が復活を遂げたのだ、と全身で実感した。

どうも。これで第5話ということなのですがやっと話が動きだしたような気がします。

この回ではメイリアが登場してきます。彼女は個人的にお気に入りで、割りかしヤンデレなところが一番好きです(笑)。この後、事件がどのような展開を見せるのか。慎也達の運命は?これからも読んでいただけると嬉しいです。

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