表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

決意

「いいですかー。分詞構文は接続詞を消して動詞を現在分詞にするんですよー。よって、この問題の解答はLeaving at once,you will be in time for the plane.になりまーす。」

東峰学園高校2年英語科教諭の私、レイ・コットンは2年2組の教室で授業をしていた。

私は身長は普通だけど、校長に並ぶ超童顔で生徒達から舐められている。だから男子の中には私の胸を見てきたり、携帯を使ってる生徒もいる。

……私だって怒ったらこんなに怖いんだぞ!って皆に知らしめてやりたいんだけど、何しろ童顔で怒っても可愛いとかって言われるだけで……あーもう!

「そこ!何やってるです!」

「え、携帯で写真撮っただけですけど。」

「ですけどじゃなーい!」

きーっ!


授業中に生徒を叱り出す教師をよそに慎也は窓の外を見ながら、物思いに耽っていた。無論、例の事件についてである。

あれから現場の写真を見せてもらったが、どうやって殺したかは分かるはずもなかった。肩口の傷からして、凶器は電動ドリル系の鋭いものだと推測はした。だがそれなら肩付近の骨、鎖骨などが破壊される可能性が高い。あと、周りに輪のような跡があるのも引っ掛かった。

……そもそも何で殺したんだ?

結論は一向に出る気配がなく、諦めて授業に意識を戻そうとした矢先、携帯の着信が鳴った。

誰だこんな時間に、と思いつつ携帯を見る。


『進展あり

この前の事件に進展があった。

行方不明になっていた、浅沼美咲の遺体が発見。死因が同じく同一犯の可能性が高い。急いで現場に来て欲しい。

場所は、校舎の東にある川の広場だ。

天藤』


「……!」

目を見開いた。わずかに顔がこわばるような気がする。右斜め前に座る航人と目配せをした。

「先生、ちょっと抜けます!」

「あっ、ちょ……」

二人は教室を飛び出した。


事件現場に着くと天藤が待ち構えていた。遺体は実況見分が終わったのか、軽く血痕が残っているだけだった。

ふと見ると珍しく天藤がスーツを着ていることに気づいた。初めて見るが童顔と低身長のせいか、コスプレ感が否めないな、と思ってしまう。

「よく来たな。」

「いえ……というか授業中に呼び出しますかね、普通?」

「まぁ、校長の顔に免じてという事で……とにかく写真を見てくれ。」

彼女はそう言って、ポケットから写真を3枚取り出した。断りを入れて見せてもらう。

写真に映るのは、事態を飲み込めず驚きに見開かれた浅沼の目。また、同様に首筋付近には何かが刺さった輪状の跡が残っている。

さらに顔の横の地面には「 Die Geschichte hatte begonnen」と刻まれていた。

「これ、何て意味なんだ?」

航人が慎也に尋ねる。

「ドイツ語で『物語は始まってしまった』って意味じゃないか?よく分からんけど。」

「へぇかなり厨二病みたいなこと言ってんだな、この犯人。」

半ばオタクの航人が言うのはおかしいと思うが。徐に頭を掻いた。

「ちなみに浅沼らしき人物が深夜に徘徊していたらしい。恐らく誰かに会っており、そしてその人物に殺されたのだろうな……。」

天藤が付け加えた。だが、慎也の頭の中では疑問が蠢いていた。

「……これ、犯人に殺意はあったんですかね?明らかにおかしいと思うんですけど。」

「どういう事だ?」

「殺人に嫉妬みたいな感情もなくただ殺すなら、世の中殺人鬼で溢れかえってますよ。それに仮に感情が爆発して殺したんなら、ナイフで滅多刺しとか銃の乱射なんて当たり前ですし。」

すると、彼女の口元がうっすら歪められた。

「詳しいんだな。」

「一般人の感覚なら分かると思いますけどね。」

軽く口を叩いたが、内心彼女のことを信用することは出来ていなかった。昔からの癖で他人の本性を暴こうとするのだが、天藤だけは何故か何も分からないのだ。人間的な側面が。

……まさか彼女が、そんな想像が脳裏をよぎった。

「あの、すいません」

警官と思わしき男が天藤に声を掛けてきた。

「何ですか?」

「実は…………」

耳打ちをする。そのうち彼女は目を見開き、「分かりました。」と短く返した。二人の方へ向き直る。

「すまんが急用が入った。君達は居室に戻っても構わないが、どうする?」

「あー……それなら」

「いた!」

突然の甲高い叫びに思わず振り向いた。二人のクラスで授業をしていたレイ・コットンだ。鬼のような形相をしている。

「何で授業を抜け出したんですかっ!」

「…………まずった」

頼みの綱の天藤はすでにいなくなっていた。結局彼らは生徒指導室に連行され、こっぴどく説教を受けた。



「あー疲れた」

慎也と航人は寮に戻った。二人で生活するには狭い15畳の片隅にリュックを放った。時刻は20時を回っており、テレビでは人気のバラエティ番組が放送されている。

「なぁ慎也。」

机に勉強道具を広げながら航人が尋ねる。

「何だ?」

「お前、あの肩の傷跡どう思う?」

「……最初は釘打ち機とかも考えたんだけど、あの浅さと弧の感じからして誰かの歯型じゃないかと思ってる。目立った外傷も無いしな。」

慎也には動機はもちろん、どのような殺し方をしたのかは、未だに分からなかった。……あれ、そういえばと思い、慎也はジョークを言ってみることにした。

「航人、『吸血鬼』って知ってるか?」

「は?」

航人が馬鹿面をするのを見て、笑い転げそうになった。有り得なくもないだろう。全く、幽霊を信じない慎也である。顔をしかめられた。

「……お前、熱でもあんの?」

「なわけ。」

「確か、人間の血を吸って生きる不老不死のバケモンだったか?十字架に弱いとか何とか……まさか信じるとか言わないよな?」

「可能性がないとは言えないだろ。」

簡易冷蔵庫からスポーツドリンクを出してグビッ、とそれをあおる。

「この世に存在すると思ってんのか?」

「いたら面白いってだけだよ。」

慎也は航人の顔を見て尋ねた。

「もし、自分が非人道的な事をしても、それが自分が生き延びるためなら正当化されると思うか?」

「…………」

「俺はそうじゃないと思ってる。余りにも身勝手にしか考えられない。」

「じゃあ、どうすんだよ。」航人が眉をひそめる。慎也は真っ直ぐな眼差しで見た。

「壊すんだよ、その不条理な世界を。たとえ自分が死んだとしてもな。」

しばらく押し黙っていたが、航人はやがて不敵な笑みを浮かべて「お前、イカれてんな。」と呟いた。

「そうじゃないとでも思ってたのか?」

「うるせぇよ。」

二人は、拳を合わせた。外では雲がかっていた月が姿を現していた。まるで二人の決意を祝福するように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ