黒い魔女
気が付くと、無機質な空間にいた。文字通り何も物が置かれていない。ここまで無機質だと、流石に恐怖心が湧き上がってくる、というほどだった。些か気味が悪い。
「…………」
一応手を握って見ると感覚はある。死んではいないのか。だが、何故ここにいるのかは皆目見当すらつかなかった。
ポタ……ッという音が響いた。後ろからだ。水が溢れるような事はしていないはずだ。警戒しながら、振り返った。
「……ッ」
咄嗟に悲鳴を噛み殺した。
十数人の子供達が倒れていた。恐らくもう事切れている。しかし、慎也は彼ら以上に目を剥いて慄いてしまった。
子供達が何かを囲むようにして倒れており、その中心で黒いフードの女が少年を貪っていたのだ。彼は死んだ魚の目をしていた。 空気が凍るような感覚になった。
女が欲求を満たしたのか、立ち上がった。
「…………」
何か呟く訳でもなく押し黙る。過度の緊張感に吐きそうになった。
「何なんだよ、これ……」と思わず呟いた。いや、呟いてしまった。半ば殺しかけた気配を感じ取ったのか、女はゆっくりと振り返ろうとする。
やばい、と直感した。だが意識に反して全く体を動かすことは出来ない。まるで金縛りにでもあったかのように。
「…………」
女がのらりくらりと慎也へと近づく。フードを被っているため顔は見えない。
彼女が慎也の前に立った。すると、その顔をまじまじと見始めた。
「…………!」
緊張と焦りから、 冷や汗が滴り落ちる。
すると女は口角を吊り上げた。笑ったのだろうか。優越感か、それともこの状況を楽しんでいるのか。
真意こそ分からないが、明らかに異常であることは間違いなかった。血に塗られた真紅の両手が慎也の頬を押さえる。
「美しいわ……」
感嘆だろうか。それだけ呟き、不意に彼女は両腕を背中の方へ移した。依然、慎也は体を動かすことができない。
首元へ口を寄せ、牙をむいた。
「やめろ……」
「……」
「やめろ……!」
「……」
「やめろ!」
そんな言葉を聞くはずもなく、女は興奮したように首にかぶりついた。
力が抜けていく。体が崩れ落ちていく。抗うことすらできない。
……お前は一体、誰なんだよ。
腑に落ちないまま、慎也の意識は奈落の底に葬られた。
「…………!」
目が覚めた。脂汗でシャツが滲んでいた。心臓は大きく拍動を打っている。
「……」
またか、と慎也はうんざりした。酷い倦怠感に襲われた。まだ深夜ではあったが寝直す気も起きず、彼は近くにあった机の電灯に手を掛けた。
脳裏に黒い影を忍ばせながら。




