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『遣唐使 阿倍仲麻呂 十九歳 、叡智への航海』  作者: 東曌


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プロローグ  ラム酒と、海の向こうの青年

プロローグ  ラム酒と、海の向こうの青年



ロバート・ルイス・スティーヴンソン氏の『宝島』を読んだことがあるだろうか。


あの物語には、海があり、宝があり、危険な大人たちがいて、そして、好奇心に満ちた少年がいる。


ジム・ホーキンズという少年だ。


彼は、これから何が起きるのか、すべてを知っていたわけではない。それでも、未知の世界へ踏み出した。


若者というものは、まことに不思議な生き物である。


危険があると聞けば、少しは怖がる。大人に止められれば、いくらかは考える。


しかし、その向こうに、まだ見たことのない世界があると知れば、恐怖よりも好奇心が勝ってしまうことがある。


まったく、困ったものだ。


私はラム酒の入った杯を手に、そんな若者たちを眺めるのが好きである。


もっとも、私自身が冒険に出る必要はない。


嵐の海を渡るのも、見知らぬ土地で命を懸けるのも、できれば若い者に任せておきたい。


こちらは、少し離れた場所から人間を観察していればよいのだ。


さて。


これから語るのは、宝島の物語ではない。


主人公はジム・ホーキンズではなく、

阿倍仲麻呂という日本の青年である。


八世紀。

彼は、まだ若かった。


日本で学べることを学び、なお、その先に何があるのかを知りたがった。


海の向こうには、唐という大帝国がある。


そこには、見たことのない都があり、知らない学問があり、まだ読んだことのない書物がある。


仲麻呂は、それを知りたかった。


金銀財宝を探しに行くのではない。


彼が探していたのは、知識だった。


だが、知識を求める旅だって、立派な冒険である。


海は荒れる。人は病む。思いどおりにならないことが起きる。

そして、旅立つときには想像もしなかった人生が、いつの間にか始まってしまう。


ジムが宝島へ向かったように、仲麻呂もまた、未知の世界へ向かっていく。


ただし、彼の物語には、海賊の宝の地図はない。


あるのは、歴史に残された記録と、記録の隙間に置き去りにされた人間の心である。


どこまでが史実で、どこからが想像なのか。


私は、その境目を忘れないようにしながら、若者の姿を追いかけることにしよう。


そして、ときには少し意地悪なことも言うだろう。


何しろ、若者というのは、自分の未来を知らないからこそ、あんなにも勇敢でいられるのだから。


さて、杯も満たされた。


阿倍仲麻呂という青年は、いったい何を見つけるのだろう。


海の向こうで、彼を待っているものは何なのか。



私は、ラム酒をひと口飲んだ。


さあ、冒険を始めよう。

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