第三十二話・スライム隊との戦闘(3)
その剣の名を聞いたが、聞いたしりからすぐ忘れてしまった。ドラゴンが収集するには地味だった。宝石・宝玉の類があしらわれておらず、金・銀が使われている形跡もない。もちろん、箔でさえ施されていない。
剣には魂が宿ると、イングリットやフレイムが言っていたのを思い出した。「名を付けてやるのがいいんですよ」とイングリットが言うと、「いやいや、銘が彫り込まれているものがいいんだよ」とフレイムが反論したのを覚えている。銘とは剣の作者や作った年が彫り込んだサインである。あの剣にはたしか銘入りだったはずだ。
怯んだスライムに飛び込み、投げつけたダガーナイフを回収し、そのまま何度も斬り付けた。直剣よりも手数が増える。だが、スライム三体による雷撃の詠唱がそろそろ終わる。やはり同時詠唱ではない、わずかだが狂いが発生している。
ソーサイスが剣を捨てたのには理由があった。帯電している剣には、磁力が宿る。あの剣は、雷撃を避雷針代わりに受けたとき、強力な磁場ができた。おそらく、ミスリル鋼で作られている。となると、次の雷撃もあの剣が吸収してくれるはずだ。雷撃対策の基礎ではあるが、ミスリル鋼製の剣となると、その避雷針効果は絶大だ。
目的は、雷撃をかわすためだけではない。スライムたちの雷撃が放たれた。
空から落ちるタイプの雷撃ではない。やはり、円形に隊列を組んでいることに意味があった。地面すれすれに三体が放つ雷撃は、仲間のスライムを目標としている。三体が同時に一体のスライムを目掛けて雷撃がぶつかる。が、スライムはノーダメージだ。
そういうことか、防御魔法ならダメージを無効化するのではなく軽減する程度。だから必ず一定の傷を負う。三体以外のスライムたちは、「レジスト・魔法反射」を事前にかけているのか。雷撃は円状になったスライムのなかで、忙しく、規則的に、反射する。目では追えない速さだが、雷撃を受けたスライムがズリッと後方にズレる様子で認識できる。何度も何度も反射を重ね、上空に雷撃が昇ると自動追尾のごとく、敵に目掛け突き進む。
強大に力を蓄えた雷撃は、ソーサイスが捨てた剣に再び落ちた。スライムの知性ではここまでが限界だろう。なぜ、剣に雷撃が二度も落ちたのかが理解できずにいる。
「次の雷撃詠唱までの時間というよりも、魔法反射の効果が切れて来る頃だよな」
事前に詠唱しておいた魔法が永遠と効果を発揮することはない。おそらくソーサイスたちに気付いた時点で、魔法反射をかけているはずだ。時間にして、十五分は経過している。個人差がある程度の状態だ。魔法反射が生きているスライムもいれば、そうでないスライムもいる。この状態で雷撃は放てない。
ソーサイスは帯電した剣を引き抜いた。柄に触れるだけで、ビリッと痺れる。このまま雷撃をエンチャントして戦うのも一手だが、これほど多くのスライムを倒すのは骨が折れる。それよりも、二度も帯電したメリットを最大化するには、やはり
「磁力だ」
ソーサイスの目が紫色に光る。
剣の柄が割れている。流石にあの雷撃を二度も喰らって、ただじゃ済まない。むしろ剣の形を保っていることに、ソーサイスは驚嘆した。割れた柄の隙間から、銘が見える。
――バルス・テイト とある。あの忌まわしき勇者か。奴隷制度を生み出した、元凶。この銘は、「所持銘」か。
スライムたちが、隊列を変え一直線に並んだ。一瞬のことだった。
詠唱語がわかる。魔物の言葉なのに、わかる。火炎魔法だ。まずい、この規模感ならドラゴンのブレス以上に匹敵する。
ソーサイスは、剣の銘を指でなで、頼むぞとその剣と心をつなげた。
バルスの剣、勇者の剣とも呼ばれていた剣だ。
ソーサイスは割れた柄を握り、剣を身体の中心に構えた。強大な磁気を帯びた剣に、スライムたちが吸い寄せられる。スライムたちも雷撃を反射したとはいえ、わずかながらに帯電しており、磁力を帯びていたのだ。
剣を振れば、その剣先にスライムが【斬られに】飛び込んでくる。ソーサイスは夢中で剣をふるう。疲れない、とソーサイスは万能感を感じた。
スライムのコアをことごとく斬り、辺り一面はドロドロのヘドロのような嫌な臭いで包まれた。バルスの剣の磁力からは逃れることができず、スライムたちは成す術もない。
遠巻きで、ブ・シングと戦っている様子までわかるほどの余裕がある。苦戦しているようだ、ソーサイスは最後の一体を斬り捨て、剣についたスライムの残骸を振り払う。
セロエンたちのもとへと、ソーサイスは走ってゆく。
「セロエン、ソーサイスが来るぞ」エランドの野太い声がこっちにまで聞こえる。
今は、なぜか、逃げようとすら思わない。そのことにソーサイス自身が一番驚いていた。




