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【連載】一年後に死ぬ勇者は、魔物側で指揮を執る  作者: 華奢 素数


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第三十一話・スライム隊との戦闘(2)

 精神魔法の類が「無敵」だと考えるのは大間違いだ。戦場に立ったことすらない軟弱者の発想だ。かつてのソーサイス自身がそう考えていたからだ。

 精神魔法は、その名のとおり相手の精神を自身の魔力支配下に配置し、操るというものだ。たとえば、「沈黙」は魔法を扱う対象にかければ、言葉を発することができなくなり、物理的に魔法の詠唱ができなくなるのだ。この現象は、対象の脳内言語野を支配下に置くことになるのだが、重要なのは対象が術者と同レベル以下という縛りがある。


 自身より強い対象には、精神魔法で支配することは不可能なのだ。シャルルやフォッサリ、ギュレへの精神魔法は無効化されるであろう。眼前のブ・シングにすら効くかどうかは怪しい。


「聞くまでもないが、皆戦闘経験は?」

「私はほとんどないな」とセロエン、「俺は嗜む程度だな」とエランド、「人並みに」とシュロ。この三人でブ・シングを倒せるのだろうか。ソーサイスは心配になったが、自身に課せられたスライム隊の討伐に集中した。丘陵が逆光の夕日を浴びて、スライムたちの不定形な身体が縁取られる。


「多いな」

「倒せるでしょ、なんてたって、ソーサイス騎士団長なんだから」

「今は違う」

 シュロの嫌味にソーサイスは苛立った。

「あのスライムたちは魔法を使う、だが、全員というわけではない」


 二千のイングリット隊が、統率のとれた四十九体のスライムに倒されたことを思い出していた。あの中に魔法を使えるスライムがいたと、ジャルク衛生中隊長が報告したのを思い出した。攻撃魔法は、火炎系よりも雷撃系の方が習得は難しい。スライムが習得できるとは思えない、というのが敗北の原因だとソーサイスは考えた。


 たとえば大きく見積もって10%のスライムに魔法適性があるとすれば、(人間で5%、エルフで95%とされている)あのなかに五名ほどのスライムが魔法を使える。魔法が使えるスライムが何らかの連携をもってして、イングリット隊を倒したとしか考えられなかった。


「では、武運を祈る」

 セロエンたちは、ブ・シングが構える本陣へと駆けて行った。

 ソーサイスは動きの悪いスライムを三体に目をつけた。他のスライムたちは、機敏に動いているのだ。おそらくあの三体は魔法詠唱に集中している。


 セロエンは剣を抜き、身構えた。雷撃のダメージを最小限にするには、剣に防御魔法を展開するのがベターだ。そのまま頭上に掲げれば、二度程度の雷撃は防げる。ソーサイスは簡易な防御魔法を自ら詠唱し、剣にエンチャントの要領で展開した。


「来る」

 動きの良いスライムたちが妙な隊列を組んだ。フォーメーションとでもいうのか。ソーサイスの周囲を円状に囲んだ。シンクロした動きは魔物には無理である。本能的に他者と同時の動きができないのだ。コンマ数秒の単位だがズレがうまれる。このズレに集中すれば、倒すべき優先順位も容易に決まる。


 前に出てきた青いスライム、赤いスライム、緑のスライムに、ダガーナイフでソーサイスはダメージを与えた。ドラゴンには無理を言って、拝借した。切れ味がよく、うっかり自分の指を落としそうだ。ダメージを与えたスライムたちは、不定形の身体を翻して、元の隊列に戻る。時間稼ぎか。雷撃の詠唱時間を与えた、だがそれは、敢えてのこと。


 防御魔法をエンチャントした剣で、受けきれば、雷撃効果をエンチャントできる。もともとの凍結効果とあわされば、雷撃の伝導率はより高まるはずだ。水は電気を「よく」通す。


 予想通り、三体のスライムたちは雷撃を放った。まともに直撃すれば、勇者シャルルでも持たないほどだ。防御魔法効果を果たした剣がどこまで避雷針代わりになるのかもわからないが、それ以外に策がないというのも実情。ソーサイスは剣を夕暮れの天空に掲げた。「さぁ、来い!」といったところだ。

 ソーサイスに放たれた雷撃は、三体のスライムが時間差で放ったもの。1+1+1の魔法でもない、1×3でもない。時間差で重ねた魔法は、この場合、1×1×1でしかないのだ。ソーサイスの背後にいるスライムがこの隊を束ねるリーダーだと、ソーサイスは判断した。


 防げるぞ、と確信した瞬間、ソーサイスは爆発に巻き込まれた。雷撃による爆発効果だ。


 だが、ソーサイスの思惑通りにはいかなかった。三体のスライムから放たれた雷撃は、時間的ズレが発生する以上、1の効果しかないはずだ。なにか魔法力学に背いたことが図られていたとしても、「3の効果程度」だ。だが、その雷撃は少なく見積もっても「60ほどの効果がある」。二十倍ほどの威力、念のために自身にもかけておいた防御魔法効果のおかげで、致命傷にはならなかった。だが、ソーサイスの左腕は雷撃により、小手が割れた。その隙間から雷撃が強く働いたのか、腕の内側、柔らかな皮膚が割れ血が噴き出た。


 どうしてこんなに強力に? ソーサイスに戦況分析してくれる部下も、逃げるようにと進言する部下も、敵の弱点を調べ上げる部下もいない。戦場では肉体も頭脳もどちらもフル稼働でいなければならない。


「次喰らったら、まずいな」

 わざと聞こえるように言った。スライムたちが人間の言語を理解するかはわからないが、魔法を詠唱するからには何らかの言語を持っているはずだし、この原生生物のくせにとは莫迦にできない。崩れ気味の隊列が整えられている。


 ドラゴンが渋々貸してくれたダガーナイフが、救ってくれるはずだと、ソーサイスは整いなおしたスライム隊を見て確信した。ソーサイスは剣を捨て、一番大きなスライムをめがけて突進した。腰にしまっていたダガーナイフを抜き、回転をかけながら投げた。


 空気を切り裂きながら、そのダガーナイフはスライムに突き刺さった。だが、コアと呼ばれるスライムの生命活動を司る部位からは随分離れていた。


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