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【連載】一年後に死ぬ勇者は、魔物側で指揮を執る  作者: 華奢 素数


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第三話・騎士団長ソーサイスの算段

 まだらに染まった紫色の右腕、自ら斬り落としたとは思えない程。一切のためらいを感じない太刀筋なのである。騎士団長ソーサイスは勇者シャルルの瞬時の判断力に、言い知れない畏れを抱いた。毒耐性が高いはずと思っていたが、そうではないとソーサイスは確信した。やはりエルフのフォッサリがあってこそかと。


  五百年に一人の最強エルフ、フォッサリは十歳にしてほぼ全ての魔法術式を習得したと言われている。その後、未解読の魔法術式の解読にも努め、蘇生魔法以外は学びつくしたとも。女神の恩恵なく、回復魔法や解毒魔法を学んだことで、神学教会のジジイどもからは異端と蔑まれているが、フォッサリ自体は意にも介していないと父から聞いた。そのフォッサリが死んだとあれば、毒矢が掠るだけでシャルルもひとたまりもないのだろう。


 ピクリと右腕が動いた気がした。北方三国を統べたグイ王のもう一つの顔は、神学教会の大司教だ。秘匿とされる魔法書、禁忌武器・防具、呪道具の管理は、グイ王管轄のもと本国地下倉庫と定められている。シャルルの右腕は、その後火にかけられたが、燃えることはなかった。魔法使いたちが束になって、火炎魔法の類を照射したが、効果なし。あれから一週間経っても腐ることもなかったため、グイ王が呪道具として地下倉庫で管理することを命じたのだ。


「恐ろしいよなぁ」

 衛兵がソーサイスの言葉に反応してピリリと背筋が伸びた。

「聞いてるだろ、お前サンはどう思う?」

 若い衛兵は手に槍を構えている。湿気に濡れた石床がピチャリと気味の悪い音を立てる。

「勇者シャルルの右腕からは、とても不気味な何かといいますか。強い力を感じます」

「その力の正体はわかんねーよな。俺だってわからん。だが、この腕が燃えることもなく、腐り堕ちることもなく、気を放ってるってことは……」


 それ以上言うのをやめた。もし、事実だと末恐ろしい。勇者シャルルは九死に一生を得たのかもしれない。転送魔法を人間にかけるヤツなんて初めて見た。あれは、モノの移動に使うものだ。自分も魔法騎士の端くれ、物質を極小の粒子まで分解し、熱結合によって空間の……いややめよう。頭がおかしくなる。万一転送魔法が成功していても、シャルルがシャルルとして再生成されるとは思えないのだ。ソーサイスはできるだけ都合のいい結果を探した。


 グイ王が北方三国の統一を果たした後、奴隷を使った転送実験を行ったことがある。神学協会を強引に説き伏せての強硬実験だった。十例の実験のうち転送に成功したのは五例。その成功五例は、ひとつの結論にたどり着いたという。非魔法使いであった奴隷五名とも、転送先にて基礎魔法の習得ができていた。うち一名は、フォッサリにも劣らない程の魔力を手にしている。その実験の主要魔法管理官がソーサイスの父である。転送によって、脳の構造があるべき姿に組み替えられると父は考えた。我々はもともと魔法を使えるのだと。母語を自然と身につけられるように、魔法も言語のひとつだと父は考えていた。


 フォッサリほどの魔力を手に入れた奴隷は、我ら騎士団の手によって捕らえ処刑した。以降、神学協会は人への転送魔法を禁止し、グイ王も渋々それに承諾した。北方三国の統治を揺るがしかねないことにもつながると、父もグイ王を説いたのだ。


 転送魔法の人体への成功確率は五割。成功すればなんらかの覚醒が行われる。もしかしたらその中でも突然変異的に超覚醒することもある。実験数が少ないから何とも言えないが。

 シャルルは転送に成功し、生きている。右腕が朽ちないのがその証だ。だとしたら、シャルルは言語野が驚異的に覚醒している可能性はある。グイ王には伏せておくべきだ。シャルル討伐隊の派遣など、命がいくつあっても足りん。自分たちのようなただの職業軍人は、細く長く生きてこそだ。ソーサイスは理想よりも現実を自身に突きつけた。


 弱い魔物の残党を狩り、わずかばかりの褒賞を手に入れる。目立たなければ目立たない程いい。騎士団長にまで昇進したのは不本意だが、最前線を務めるのもまっぴらごめんだ。最後列あたりで指揮を執る、弱り切った魔物にトドメを刺す。それだけが、生きがいなのだとソーサイスは自分を説得した。


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