第二十話・スケルト村(ゴズリン村)の決戦-1
二万五千の兵がそのまま進軍するのではなく、五千ほどの兵だけが先陣としてスケルト村に向かっている。バットが息を切らして本拠地に戻り、追加報告をした。
フレイム隊か、とスケルトがぼそりと呟いた。火炎魔法を得意とする集団だという。この地の地脈・精霊とも相性がいい火炎魔法だが、威力が高まれば高まるほど自軍にも脅威となりうるものだ。冒険者たちは平均四人パーティーを組むが、それには訳がある。大軍で戦えば、そこかしこで魔法が展開される。魔法には相性があり、相殺しあうものばかりでもなく、増勢するものもある。火炎魔法と竜巻魔法が最たるものだ。水魔法と電撃魔法も相性がいい。濡れた敵は、電撃に感電しやすい。魔法が直撃しなくても、効果は絶大だ。つまり魔法が乱立詠唱した場合、魔法化学反応を起こし、意図しない全滅がともに起こりうるのだ。それゆえ、通常戦闘というものは四対四ほどで行われるのだ。だがどうだ、ソーサイス騎士団はこれほどの軍勢を派遣してきた。土埃で十メートル先が見えないほどである。
「フレイム隊は、全軍をあげて火炎魔法を発動するじゃろうな」
スケルトは顔をしかめているようだ。
「そりゃぁ神学教会が黙っちゃいないだろうよ」
エランドが事情通ぶっているのか、訳知り顔で言う。
「おぉ、仲間割れしてるじゃねーか」
オークとコボルトは、よく効く目と鼻で近くまで迫ったフレイム隊の様子を探った。ユニコーンが大急ぎで戻り
「百名ほど、司教や司祭がやられたみたいだ。仲間にやられたていたぞ」
「禁忌法すら、破棄するとは……」
メイジが諦めのような愚痴をこぼした。メイジは覚醒者であるが、超覚醒者ではないとシャルルに強い確信が刻まれた。あと一人の覚醒者がここにいる。それは、
「エランド、元人間で覚醒者だね」
エランドが口を開いたまま、突然のシャルルの追求にたじろいだ。
「もう、ここですべてのカードを出し切ろう」
シャルルがそう言うと、急いで「計画」の全貌を語り始めた。
シャルルは端的に答えるようにと皆に求めた。その代わり、自分も隠し立てすることなくすべてを話すと誓った。
「この村には覚醒者が二人いる。それはエランドとメイジだ」
二人とも小さく頷いている。シャルルは続けた。
「元人間であり転送実験奴隷だった二人は転送魔法実験に成功し、覚醒者となった。だが更なる魔法研究のためにと、研究所で実験体覚醒者として扱われ、みすぼらしく死んだ」
皆真剣にシャルルの話に聞き入っている。本拠地の窓からゴーレムも聴き耳を立てている。
「超覚醒者が四人の実験体覚醒者に施した防御結界のおかげで、エランドとメイジは助かった。そして、その超覚醒者とこの村を作り、はぐれた魔物たちを集めた」
シャルルの丁寧な説明に痺れを切らしたのか、スケルトが割って入った。
「そうだ、私が超覚醒者だ。私の名前はご存じのとおりセロエン。フォッサリの双子の妹だ」
スケルトはシャルルに軽く会釈し、会話の主導権を引き受けた。そこからのシャルルの話はこうだ。
――セロエンは超覚醒者の反動で肉体が朽ち落ちた。魔力を循環させることでスケルトンとしての肉体を保っている。シャルルがこの地に飛ばされてきたとき、スケルトがシャルルに回復魔法を施した。通常、魔物による回復魔法は人類(人間やエルフ、ドワーフ、ホビットなど)に効果がない。人類に効果がある回復魔法は女神の恩恵が必要なのだ。魔物には女神と恩恵契約が結べない。
エランドは元人間であり、覚醒した時点で基礎魔法と精神魔法のすべてを習得していた。セロエン(スケルト)に助けられたのち、幻覚魔法の使い方を覚え、自身をリザードマンに見えるように、自分自身を幻覚魔法で覆ったのだ。
メイジは人間時代の名前を捨てたという。エルフと間違われ、耳を削がれた人間だと本人が語った。魔法学院を卒業しているものの、基礎魔法すら怪しい実力であったそうだ。おそらく没落貴族だと思われる。借金のカタに売られ、奴隷に身を落としたと。
この三人でスケルト村を作り、はぐれた魔物たちとの共同生活を始めていたというのだ。言語を通じてコミュニケーションを取ることは、戦いのためではなかったとセロエン(スケルト)は言う。
シャルルは薄い唇をギュッと結び、ゆっくりと開いた。
「それでは今度は僕の、いや僕とフォッサリ、ギュレによる計画を話す」
シャルルは緊張しているのか、少し早口になった。
「フォッサリは妹のセロエンを探していた。この村にいることはある程度つかめていた。そして救出する必要もないということもわかった。フォッサリはセロエンと幼い頃一つの約束を交わしていた」
シャルルはセロエン(スケルト)に話すよ、と許可を得るような視線を送り、セロエンは無言で答えた。
「グイ王の右腕、シュトレン卿が人類と魔物の対立構造式を作り出した張本人だ。奴は魔物が人類を喰らうというありもしない虚言を流布し、世論を操った。グイ王すら彼の手の平にいる。長年の渡る人類対魔物の戦いこそ無意味だった。魔王トロニカと話してよくわかったことだ」
シャルルは続けた。
「魔王トロニカはキミたちの間で評判が悪い。だが、それも作られた像だ。トロニカはグイ王と何度も和平交渉の場を提供していた。それを確かめるために、僕たちは魔王トロニカのもとへと旅していた」
「じゃぁ、魔王トロニカは?」
黒スライムが大きな口を開けて、不安そうに聞いた。
「死んだ。というか、僕たちの手で殺した」
シャルルが言うには、魔王トロニカは自ら死を選び、演じてきた魔王の座を降りることにした。実は生きていたでは、グイ王の信頼を得ることはできない。シャルルがそこまでしたのは、シュトレン卿を捕え戦争犯罪人として裁くため。だが、シュトレン卿は用心深い。シャルルがグイ王より褒賞賜った際もシュトレン卿は姿を見せなかった。フォッサリとギュレは死んだことにしたのは、そもそも北方三国はエルフの魔力を抑えつける働きがある。そのためフォッサリは足手まといになることを嫌った。ギュレはフォッサリを護る前衛として、残ることを決めた。それが、偽装した死である。
「姉さんたちは生きていると?」
セロエン(スケルト)が不安そうに訊いた。
「ええ、北方三国は今がら空きだ。なにせ二千のイングリット隊が滅ぼされたあと、残るは三万ほどの兵のみ。二万五千がこの村に向かっているから、残りは五千」
「その程度なら、二人でなんとかできるってか?」
エランドがチロチロと舌を出し入れしながら、聞いた。だがこの姿も幻視なのだとシャルルは思った。
「そうだ、魔力が抑えられたとしても、五千ならたやすいと思ったのだろうね。フォッサとギュレなら何とかできる」
皆が沈黙した。誰かが怒声をあげた。
「それじゃぁ、ボクたちは生贄っつーか、捨て駒みたいじゃないか」
黒スライムだった。身体がぷるぷると震えている。
「いや、勝てなくてもいい。生き延びればいいんだ」
シャルルは心臓の位置を指さし、ニコリとほほ笑んだ。ギアルグの宝珠が拍動を打つようにトクントクンと光り始めた。




