↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載】一年後に死ぬ勇者は、魔物側で指揮を執る  作者: 華奢 素数


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/31

第十八話・勝つ必要はない戦い

 シャルルは地鳴りのような音を四日前から感じていた。北方三国から響く足音だ。秩序の取れた隊列だとすぐわかった。足音のリズムに狂いが少ない。ソーサイス騎士団全軍で二万七千と言われているが、イングリット隊が壊滅したとバットからも正式に聞いた。おおよそ二万五千ほど、こちらは十体前後の魔物たちでは敗北は火を見るよりも明らかだった。勇者としての戦いはある意味ゲリラ戦のようなもので、隙と虚を突いてどんどん歩を進める。スライムたちの戦い方にも似ている。隠密と奇襲なのだ。その戦いは泥臭い。正攻法の正面突破では命がいくつあっても足りないのが実情だ。


 勇者パーティー時代、ギュレは正面から戦いたがったが、フォッサリとシャルルはできるだけ節約した戦闘を心掛けていた。フォッサリはほとんどすべての魔法を習得してはいたが、習得することと発揮することは別物だ。魔法式はわかっていても、やはり女神の恩恵がないため僧侶系の魔法は苦手だったようだ。回復魔法はいつも効果にばらつきがある。それも仕方ないことで、回復魔法を魔力に依存すると強くかかる。キズが治るというよりもより再生能力が進み過ぎて、老化してしまうのだ。


 スケルト村では、スケルトとゴーレムが回復魔法に長けている。ゴーレムはスライム三体の治療を終えたこともあって、魔力はからっぽだ。戦闘ではただの壁でしか役に立ちそうもない。


 スライム三体はブルー・レッド・グリーンへの分裂ができなくなり(おそらく合体している方が生存戦略的に有利と細胞レベルで判断したのだろう)、巨大な黒スライムのままだ。意識の中心はグリーンが支配しているようで、魔法は詠唱できると自信満々でいる。だが火炎魔法は、おそらく敵の得意とするところだろう。確か配下に、フレイムという男がいた。奴が構える兵士たちは火炎魔法使いばかりだと聞いたことがある。こちらもイマイチ役に立ちそうもない。


 オーク、コボルト、ミノタウロスたちはメイジの手助けもあり魔法矢を習得した、一度に複数の魔法矢を放てるようになった。放たれた一本の魔法矢は敵頭上で炸裂し、複数の矢となり威力を増して落ち射る。三体合わせて、五秒ごとに六十本の魔法矢を放てる。魔力と体力が尽きることがなければ、二万五千ほどの兵なら三十五分もあれば倒せる。だが実際はそうはいかない。五分ほど撃ち続ければ、魔力か体力かどちらかが尽きるだけだ。多少の戦力にはなるが、二万五千の兵と対峙するには無理がある。犬死だ。


 ユニコーンは誰かと組んで初めて力を発揮できる。単体なら空飛ぶ馬だ。バッドと同じく偵察・斥候には向いているだろうが。ソーサイスのもとまで飛んでいけるなら、この二体は役に立つが、今のところ戦闘には不向きだ。


 メイジの魔力は異常なほどに高い。だが、魔力の波動というか形のようなものがフォッサリに似ていない。手練れの魔法使いと考えるのがいいのではないか。むしろスケルトからの方が近しい何かを感じるが、フォッサリの妹――セロエンがスケルトンである可能性は……わからない。だが、スケルトの回復魔法が人類であるシャルルに効いたことは大きな疑問を挟む余地があるのだ。秘かに、ゴーレムに回復魔法をかけてもらったが、ただ痛いだけで、何も治癒しなかったことが証左のひとつだ。メイジとスケルトは戦力にはなるが、どう使うかがポイントだ。


 エランドは魔法特性があると思っていたが、この数日で精神魔法のほとんどを習得した。沈黙にはじまり、睡眠、混乱、魅了、恐怖、服従と、これは天賦の才とも言えるだろう。彼が単なる巨躯のリザードマンではないことがわかったが、精神魔法を達人レベルまで習得できたのはなぜなのかがわからない。こちらもメイジ同様戦い方次第だ。


 シャルルは二万五千の兵とどう戦うかよりも、どう生き残るかを考えている。だからこそ、現状の分析と把握はおろそかにできないのだ、と執拗に現状戦力を俯瞰で見わたしている。

 ひとつの仮説めいたものが、シャルルの頭をよぎる。


――やはりこの村では魔力が飛躍的に覚醒するのではないか、シャルルはぼんやりと考えた。


 覚醒者の話は耳にしたことがある。転送魔法実験に成功した奴隷たちのことだ。超覚醒者の話しも知っている。フォッサリからよく聞かされた。フォッサリもシャルルも魔王討伐を掲げながらも、セロエンの行方を探すことが主目的であった。


 勇者パーティー時代、道中フォッサリは奴隷商人の男に連れられて行った妹の情報を執拗に探していた。酒場で、道具屋で、宿屋で、街の広場でも。ある汚らしい奴隷商人がセロエンの名を出した。フォッサリによく似た赤眼のエルフがいたと、口にしたのだ。フォッサリは路銀のほとんどと引き換えに、情報を得ることにした。


【セロエンというエルフの奴隷は、北方三国の転送魔法実験に参加させられた。十名の奴隷のうち、五名がその実験に成功した。その五名は皆、湿地帯の先にあるゴズリン村に転送され、同日回収されることとなった。全員覚醒者となったためだ。そのなかに、異常値を示す魔力を手に入れたものが一名、のちに超覚醒と呼ばれるが、グイ王は即処刑を決めた。脅威になりえるからだ。その処刑を任されたのが、転送魔法実験責任者の息子・ソーサイスであった】


 大枚をはたいて得た情報の割には、果実が少ないとギュレが言ったのを覚えている。だが、奴隷商人の話はここからが本題だった。その価値は十分にあった。


【セロエンは処刑されていない。というか、処刑できなかったのだと。転送魔法により超覚醒し、地上最強レベルの魔力を手に入れているエルフ。しかも耳削ぎで基本魔力の土台が底上げされている。引き続き実験対象となった他の四名の覚醒者たちは、北方三国の神学教会主導の研究所で亡くなったとされている。公式には。墓地への埋葬に際して、四体の覚醒者は土中に埋められ、火炎魔法により火葬されたという。三日三晩に渡って火葬されたものの、燃えずにいたため、仕方なくそのまま土をかけ埋葬した。あの時セロエンが咄嗟に施しておいた防御結界魔法が功を奏したのか、四体中二体の覚醒者が息を吹き返した】


 あの薄汚い奴隷商人の話が今ここで役に立つとは、シャルルは因果というものを垣間見た。

 ・セロエン=超覚醒者、他二体=覚醒者、として逃げのびたということだ。ソーサイスはこの情報を知り得ない、もちろんグイ王も側近の者たちもだ。シャルルはセロエンはもとより二体の覚醒者も探していた。ようやく見つけたという確信で満ちている。


 早くフォッサリとギュレとで考えた計画について、彼らに説明しなければならない。この戦いには勝つ必要はない、生き延びればいい。重要なのは計画の遂行なのだ、とシャルルは深く、肺の奥で呼吸を整え、全員を本拠地に集めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。