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【連載】一年後に死ぬ勇者は、魔物側で指揮を執る  作者: 華奢 素数


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第十七話・ソーサイスの青写真

 ソーサイスが三十分遅れて出陣した。ソーサイス騎士団二万、フレイム隊五千、計二万五千の兵が乱れることなく整列して行軍する。ゴズリン村まで約五日、西の商用路は狭く兵たちは三列になり、日が沈むと一斉に野営の準備にかかる。ソーサイスが出陣に遅れたせいで、初日は殆ど歩みを進めることができなかった。先頭にまで、出陣の合図を送るのに三十分以上かかった。では「いざ出陣」と合図を送っても伝わりにくかったのだ。百人ごとに、衛生兵と調理兵が張り付けられており、非戦闘員を除くと「戦う」という選択肢を手にできるのは、八割ほどだった。


 ソーサイスは出陣前、グイ王への謁見を申し出たが、シュトレン卿により阻まれた。王は多忙であるという理由だが、王はいつも時間を持て余している。ソーサイスは渋々引き下がった。身なりのいい自分より少し若い男。魔法学院と傭兵訓練所を主席で卒業したエリート。出自も汚れなく、妻は北方三国いちの美人だと評判だ。シュトレン卿のアラを探すことは、砂浜でお目当ての砂を探すぐらいに難しい。


「シャルルを見つけたのですね、しかも、強大な魔力の発信源を把握したとか」

 シュトレン卿は探りを入れる。

「シャルルかどうかわかりませんよ。ただギアルグの宝珠のような反応はあるようですし」

 ソーサイスは敢えて巨大な魔力の話題に触れずにいた。突き詰めればそれは自分の怠慢による失策が露呈する。この男に自分の弱みを探られたくない、それゆえに背を伸ばし、胸を張り、堂々と貫禄を見せつけることにした。

「ギアルグの宝珠反応なら、シャルルに間違いなしです。強大な魔力も、おそらくギアルグの宝珠からによるものでしょう」


 ソーサイスはシュトレン卿が思いのほか莫迦で助かったと胸を撫でおろした。シュトレン卿はソーサイスよりも階級が三つほど上だ。年下でも上役である。威張り散らすほどではないが、どこか鼻持ちならない。戦場で一緒になれば、どさくさに紛れて殺してやろうといつも夢想する。

 強大な魔力は、単にシャルルだけではない。かといってギアルグの宝珠だけでもない。大きな魔力というものは、敵に察知されやすいせいで厄介だ。居場所が明らかになるというのは敵に主導権を明け渡しているようなもので、戦うも逃げるも敵次第なのだ。


「シャルルの首を取ってまいります」

 心にもないことを、少なくともソーサイス自身では不可能。フレイム隊を犠牲にして、幾分かダメージを与える。勇者とて、いや元勇者とて、この数相手に無傷ではいられない。シャルルは今倒せなくてもいい、あと十ヶ月ほどは猶予がある。それよりも、覚醒者がいるのならば、確実に始末せねばならない。転送魔法実験に成功した五人の奴隷。うち一名は確実に超覚醒しており処刑したことになっている。イングリットしか知らない事実だ。何としてでも、グイ王にもシュトレン卿にも知られることなく密かに始末する。問題は、他四名の転送魔法実験に成功した奴隷たちだ。その結果として、基礎魔法を習得したことで、実験対象になっていたのは父からも聞かされていた。壮絶な人体実験の結果、皆息絶えたと北方三国国立蔵書館の戦記記録書には記されていたが。信じがたい。この四名のうち生き残りがいるのではと、それとなく探りをグイ王に入れたかったがシュトレン卿に阻まれたこともあり、ソーサイスはうやむやにしておくことにした。この四名がどうなっていようとも自分には何も瑕疵はない。あるとすれば実験責任者だった父だが、親と子とはいえ責任は一蓮托生でもない。自分が犯した超覚醒者の処刑漏れが事実であれば、父になすりつけたいとすらソーサイスは思っていた。


 四日目の行軍が終わり、歩みを随分と早めたおかげで明日には着くとフレイム隊長より簡易に作った陣にて報告を受けた。ソーサイスはフレイム隊長に自身はここにそのまま陣を構え、本拠地とすると告げた。フレイム隊長は意外な顔をしたが、ソーサイス騎士団長のいつもの及び腰だとすぐに理解し、「はい」とだけ言って承服した。五千もの兵であのちっぽけな村を囲めば、行くも戻るも不可能だ。地脈が炎の精霊の加護を受けているとも報告を受けている。フレイム隊にはもってこいの条件だ。その名のとおり火炎魔法の扱いに長けた戦士・魔法使いで構成された超攻撃的布陣。シャルルがいたとしても、防御結界魔法を村全体に展開するのは不可能。そもそもシャルルは魔法使いでもない。超覚醒者がいたとして、万一防御結界を構築できたとしたら瞬間的だとしても魔力は0になる。二陣の後列の魔法使いが竜巻魔法を放つだろう。城攻めの定石だが、これで防御結界は無効化できる。防御結界がないのなら、瞬時にすべて消し炭になってもおかしくない。


 だから、フレイム隊にまかせておいていいのだ。

 敵がヤケクソになって、打って出るなんてことは考えられない。それこそ、自殺行為だからだ。ありえないのだ。長年放置していた、超覚醒者の生死の確認。もうどうでもいい話だ。フレイム隊がすべて、焼き尽くしてくれる。あとは片腕の男の焼死体を探す、ギアルグの宝珠が予定通り魔力溶解を引き起こしてくれれば、辺り一面は魔力に汚染されるだろうが知ったこっちゃない。

 シャルルが死ねば御の字、なによりも超覚醒者を倒すことが優先。だがそれは誰にも知られていない。


 斥候兵が用意してくれたゴズリン村の地図を広げ、ソーサイスはフレイム隊の配置を確認した。隠蔽するということは、不安を抱えたまま生きるということ。そんな生き方は自分の人生に似合わない、ソーサイスは自身の平穏を取り戻すためならば、部下たちの命など捨ててこそだと強く思った。


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