↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載】一年後に死ぬ勇者は、魔物側で指揮を執る  作者: 華奢 素数


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/31

第十二話・エランドの「沈黙」

 二組の冒険者パーティーたちは、五日目に攻め込んできた。シャルルの思惑では二日経てば合流し攻め入るのだと踏んでいたが、随分と時間稼ぎされた。その間、エランドはメイジより精神魔法「沈黙」を習得した。その効果は絶大である。特に対人戦となると、言語によるコミュニケーションが必須である。長年組んできたパーティーであっても、ハンドサインだけでは、強敵の攻略は不可能だ。特に魔物は人語を理解できないという点で、言語によるコミュニケーションは、それだけで驚異となり得る。魔法を詠唱しているのか、戦闘における細密な指示をしているのか、わからないからだ。


「いやぁ、ボッコボッコにしてやったな」

 エランドの荒っぽい口ぶりに、シャルルは眉をひそめた。複雑な心境だったからだ。たった五日で、「沈黙」を完全に習得させたメイジの力量に末恐ろしさを感じた。今や魔物たちに手を貸す身となったシャルルだが、その心境は日々複雑ではあった。シャルルを嵌めたグイ王たちへの復讐心と、エランドたちの優しさに報いる気持ち、その二つが魔物側についた動機ではある。だが、彼らがこのまま力をつけていくと、自衛のためだけではなく、侵略のために人類と本格的に敵対するのではとシャルルは危惧している。


 幸運にも敵の冒険者パーティーはそもそも急ごしらえである。それが二組、合流するとなればさらに指揮系統が乱れる。それゆえに攻め入るのにも五日間も要したのだろう。時間がかかればかかるほど、意思疎通が取れているこちら側の方が圧倒的に有利である。しかも、敵の冒険者パーティーは、総勢八名だった。うち魔法使いが四名、僧侶が二名、魔法剣士が二名、と全体が魔法依存していた。それゆえ、「沈黙」の効果は絶大だ。言語によるコミュニケーションが取れないだけでなく、魔法詠唱も無効化するのだから。


 冒険者パーティーはスケルト村の入口から五十メートルほど下がり、あたりにある樫の木で急造の足場をこしらえ、高い位置どりをした。魔法剣士二名がどうも疲れていたのはそのせいだ。戦闘で力を尽くす前に、足場作りで体力を消耗したのだ。魔法使いたち四名が幅一メートルほどの足場にめいめい立っていた。四名の魔法使いを線で結べば、いびつな扇形になる。


 前線を務める魔法剣士二名は、村の入口から五十メートルほど離れ直線位置に大盾を重ねて構え、その後方の僧侶二名を守護していた。


 スケルト村の入口から本拠地までは急勾配の一本坂道である。目線は冒険者パーティーの魔法使いたちの方が上だ。しかも、四名ともがばらけている。八つの目が視野内に収まる範囲に、全体魔法が唱えられれば、圧倒的不利状況であった。

 だが、五日もかけて足場を組んでいれば、こちらにも打つ手はもちろんある。むしろ、俯瞰に近い状況から敵を舐め見下ろすというのは、全体魔法が使える魔法使いがいると自ら申告しているようなものだ。シャルルは勝利の確率がぐんと上がったのを、この時感じていた。

 エランドが物見櫓にあがった。敵の足場より高い位置にある。だが人間の視野では魔法使い、魔法剣士、僧侶を一度に捉えるのは困難である。メイジによる「沈黙」であれば、こちらにも何人かの犠牲者が出ただろう。


 エランドの視野は330度、リザードマンが魔法を、しかも「沈黙」を全体魔法で唱えるとは誰が想定できただろうか。


 戦いは一瞬で決着がついた。魔法使いたちによる、火炎魔法詠唱よりも早く、エランドの「沈黙」が冒険者パーティーを捕えた。言葉を失った彼らは、声にならない声を上げた。シャルルは遠くからでも、絶望の表情が見てとれた。心の中に沸き立つ愉快・痛快、同時に後悔・卑怯が入れ代わり立ち代わり忙しかった。


「最も手柄を立てたのは俺たちだよな」

 胸板の厚さをみせつけながらオークが低い声でシャルルに近寄った。オーク、コボルト、ミノタウロスたちには「弓術」を習得させて正解だった。こちらの戦力は限定的だ。増員増強は見込めない。つまり、スライムたちのように手負いになれば、それだけ戦力が低減するのだ

 だから、間接戦闘で力を最大に発揮する、弓術を学ばせた。オーク、コボルト、ミノタウロスは、胸筋が強度に発達している。弓の飛距離と速度は、他を寄せ付けないはずだと、勇者時代から思っていた。奴らが弓を学べば強敵になるぞ、とギュレは野営の度にシャルルを脅した。あんな雑談も無駄にはならないのだ、シャルルは勇者時代のひとつひとつの出来事が財産になっていることを強く感じていた。


 エランドの沈黙による効果は、魔法使いに大きな混乱を生じさせた。僧侶二名は沈黙を無効化しようにも、解除魔法が詠唱できずにいた。オークたちの放つ弓は、的確に敵の位置を捕えた。彼らに弓術を学ばせたもう一つの理由

――それは、嗅覚が鋭い点であった。敵の臭いを察知して、位置を割り出す。弓使いの長所は、敵から離れて攻撃ができることだ。だが、正確に狙うならば目視できる範囲から攻撃をしなければならない。あてずっぽうで放つ場合は、大量の弓兵を並べて敵軍に撃ち込むしかない。長所が短所にもなる。しかも、弓は構えてから放つまでの時間、隙がうまれる。それゆえ、やはり敵からは離れて、欲を言えば敵に補足できない位置から攻撃準備に入れるのが理想だ。


・飛距離が稼げるため、遠距離からの射撃が可能

・嗅覚を駆使できるため、遠距離からでも敵位置を正確に捕捉可能


 この二つの条件を叶えたオーク、コボルト、ミノタウロスたちには、敵の急所を狙うなと伝えている。そのための正確な弓術を学ばせた。理由は先日の戦闘と同じく、恐怖を持ち帰らせるためだ。手負いにして活かして帰すことがまず大事なのだ。


 冒険者パーティーたちは、蜘蛛の子を散らすように、商人路に向かって逃げ始めた。沈黙のせいで、声が出ず、撤退の命令もうまく伝わらなかった。ここでハンドサインが役に立つはずだが、寄せ集めの集団とはこうも脆いのかと、シャルルはパーティーとしての習熟度こそが明暗を分かつと強く確信した。


 スケルトは「これで、シャルルもお役御免といったところだな」とシャルルに妙な同意を求めた。人間がいつまでも魔物と一緒にいてはいけない、そう言いたいのだろうということだ。村長だけあって気遣いのできる男だ。まぁ、そもそもスケルトンは元人間だったのだからと考えると、違和感もない。魔物を利用して、グイ王に復讐するということは彼らを危険な目に合わせることにもなる。シャルルは自分を恥じ、魔物たちに心の中で深く詫びた。


 何かが地面に吸い付くように、落ちた。シャルルだった。胸に埋め込まれているギアルグの宝珠が、かすかに光っている。メイジが近づき、回復魔法を試みたが、受け付けない。

「シャルルさん、随分と魔力が落ちています。まるで、この宝珠に吸い取られているかのように」

 エランドはメイジの言葉を遮るように力一杯シャルルを抱き起し、背に担いで自分の家へと運び込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。