第3話 起業
有休切れと同時に会社を辞めた。鬼電がかかってきたけど華麗にスルー。俺は義久のアドバイス通りに書類をそろえて役所に来ていた。
「会社ってもっとこうすごいことして作るのかと思ってました」
「書類一本でできるんだよ。案外足したもんじゃないみたいだねぇ」
そんで俺は役所の受付に書類を提出した。そしてしばらくして書類は通って法人として正式に会社が社会に認知されて誕生した。社名は【ディオニュソス株式会社】
「はい。そこでポーズ取ってください!」
愛暖がスマホのカメラを向けている。肩を竦めつつも俺はピースしてみた。
「あはは。なんかおかしいー。でもかわいいです!」
そしてスマホからカシャッと音がして写真が撮られた。なんか愛暖はまだスマホを持ってもじもじしていた。
「どうせなら二人で映るのも撮っておこうよ」
「……はい!」
そして俺たちは肩を並べて自撮りで法人カードを持って写真を撮った。ここから俺たちの会社が始まる。
オフィスを借りた。といっても古ぼけたマンションの一室だ。クラウドサーバーをレンタルしてアプリをデプロイしてあとはインターネットに開放するだけという状態になった。
「初期のスキルセット充実されるの大変でしたよねぇ……」
愛暖が遠い目をしている。なかなか苦労は多かった。だけどよく知られているコモン系と呼ばれるスキルは揃った。現在の頒布できるスキルは以下のとおりである。
◇身体強化系
身体強化(STRブースト)
敏捷強化(AGIブースト)
反応速度強化
持久力強化
◇防御系
耐久強化(ダメージ軽減)
痛覚軽減
状態異常耐性(毒・疲労)
◇基本属性
火操作(小)
水操作(小)
風操作(小)
土操作(小)
氷操作(小)
◇感覚系
暗視
聴覚強化
気配感知(簡易)
◇補助系
軽度回復(自己のみ)
スタミナ回復促進
集中力強化
パッケージ販売
属性入門パック(属性操作系シリーズセット)
初心者パック (身体強化・敏捷強化・耐久強化)
等々を揃えた。出来ればダンジョン攻略者たちに届くといいなと思っている。
「さて。あとはこのボタンを押すだけだ」
「ドキドキですね!」
コンソールにボタンが表示されている。これを押せばアプリストアに俺のスキル頒布アプリ【ゴールデン・バウ】が配信される。俺と愛暖はドキドキしながら画面を見る。そして俺は。マウスを操作して。ボタンを押した。
「アプリストアの新着に載ってます!」
愛暖がスマホを見ながら報告してくれた。顔を真っ赤にして興奮しているようだ。
「みんながダウンロードしてくれるといいですね!」
「大丈夫だ!きっといける!!」
そして俺たちはパソコンの画面をずっとじーっと見ていた。
一時間後。ダウンロードは一回も発生していない。俺は体育座りで、ぶっちゃけすさまじく落ち込んでいた。
「な、なにが悪かったんだ?!」
「大丈夫ですよ。大丈夫。まだ一時間しかたってませんから」
愛暖が俺を後ろから抱きしめて頭を撫でてくれた。中年のおっさんなのになんかもう泣きそうだった。
「お茶入れますね」
「待ってくれ!」
「なんですか?」
「俺から離れないでくれ」
俺が情けなくそう言うと愛暖が微笑んだ。それは優し気なものだった。
「いいですよ。はい。大丈夫ですよ。私はずっと傍に居ますからね」
また頭を撫でてくれた。背中に感じる愛暖の身体の柔らかさにすごく安心する。そして画面に変化があった。
アカウント数:0→1(new)
「ダウンロード来た!?来たよ!」
「はい来ましたね!すごいです!」
そしてさらに画面に更新がかかる。
課金発生 購入 属性入門パック 10000円
「売れた!売れたぞ!」
「一万円も!すごいですぅ!」
愛暖がぎゅっと抱き着いてくる。俺たちははらはらと見守る。そしてうちのアプリのストアページに星が5着いた。レビューも載ってる。
【ジョークアプリだと思ったらまじで俺が使えないはずのスキルが使えるようになりました!!これは革命的なアプリです!!みんな使ってくれ!スキル使うの楽しい!!】
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「きゃぁあああ!!やりましたねぇ!!」
俺たちは抱き合ってくるくる回る。たった一人だけど、俺のアプリを使ってくれたことが本当にうれしかった。いまはただこの楽しさに浸かっていたいそう思った。
結果的にアカウント数は200まで伸びた。課金で儲かったのは200万円。俺はじーんと成功をかみしめていた。
「愛暖!美味しいものを食べに行こう!」
「はい!行きましょう!」
俺たちはきゃきゃと都心のモールに向かった。商業施設をルンルンと廻る。途中で服屋を通ってふっと思った。
「愛暖は一人暮らし始まったばかりだろ?服を買おう」
「え、でも私お金そんなにないんですけど」
「何言ってるのさ!俺はいまやアプリを成功させたんだぜ!服も驕るよ。いやプレゼントさせてくれ。君がいなきゃここまで来れなかった。受け取って欲しい」
「そうですか。はい。それなら。うふふ」
愛暖は嬉しそうに頷いてくれた。そして服屋に入る。愛暖はあれこれと選んでいた。たまに聞かれるけど、まあ俺なりにいい方を進めてはみた。そして流石に俺は疲れて店の外に出た。
「あ、榊?」
「枝彌くん?げぇ」
「勅使河原に、昴か?」
店の外で勅使河原と昴に遭遇してしまった。なんか二人は最初は驚いていたけどニチャニチャしていた。
「榊ぃ。会社に来てないけど、この間の失敗に凹んでんのか?大人になれよまったく」
「そうだよぉ。勅使河原君とか表彰されてインセンティブ出たんだよ。それなのにあなたは会社来ないとかダサすぎなんですけどぉ」
ため息が出そうだ。だけどこいつらの相手をするのはめんどくさい。そんな時だ。
「決まりました!枝彌さん!」
愛暖が店から出てきて俺の傍に寄ってくる。勅使河原たちは愛暖を見て驚いていた。
「なにその子。若いしすげぇ綺麗で可愛いじゃん!?ははんパパ活か?だせえな!」
「パパ活?私はそんなんじゃないんですけど!侮辱してますか?!怒りますよ!!」
愛暖がバチバチと周囲に電撃を飛ばして勅使河原を睨む。俺は愛暖の前に手をかざして止める。
「やめとけ。意味ないから」
「でも!」
「まかせて。勅使河原、それに昴。この子は俺の会社の社員だ。侮辱はやめてもらうか」
「はぁ?社員?その子を会社で見たことないんだが!!」
勅使河原が吠える。うざいなぁもう。それに勘違いしているから訂正しておこう。
「いっただろうが。俺の会社だって。起業した。俺が社長だ。この子は最初の正社員だ」
「な?!社長?!はぁ?!どういうことだよ!?」
勅使河原と昴が愕然としていた。衝撃を受けているようだ。
「事実だよ。あ、名刺やるよ。今後ともどうぞご贔屓に。なんてな」
俺は勅使河原の胸に名刺を押しつける。そして愛暖を連れて店に戻った。馬鹿の相手なんてしてられない。俺は愛暖と喜びを共有する時間の方がずっと大事なのだから。




