第2話 スキル配布実験
電話で知り合いの弁護士を呼んだ。すぐにやってきてくれた。
「品行方正なお前がトラブル起こすとは思わなかったよ」
やってきた弁護士は俺の高校の時の同級生だ。名前正川義久。元検事で今は敏腕の弁護士をしている。
「義久。色々事情があるんだが、トラブルシュートを頼みたい。この女の子が父親に命令されてスキルでカツアゲしてきた。この子を父親から自由にしてやってほしい」
「ほいよ。わかった。おらぁ!おきろや!!」
義久は愛暖の父親を叩き起こす。そして起きた父親に弁護士バッチを振りかざして色々吹き込んだ。父親は震えあがっていた。
「おっけー。まずその子はウチでしばらく預かるよ。俺は妻子がいるし家で未成年の女子を預かっても文句は来ないからな」
「助かるよ」
「そんで時間はかかるが父親から親権は奪って監護権はまあ適当になんとかして一人暮らしできるようにしてやる。ただし金はお前が出せよ」
「そりゃもちろん」
俺がそう言うと愛暖は慌てて言う。
「で、でもそこまでお世話になるわけには!」
「じゃあ大人になったら返してくれてもいい。今は大人に甘えろ。いいな。文句は聞かない」
俺はこういう時の子供の気遣いが嫌いだ。子供は大人に甘えて安全に大人になればいいのだ。
「……すみません。ぐっす。ありがとうございますぅ。うぇえええん」
泣き出してしまった。俺は頭を人撫でしてから義久の車に乗せてあげて義久の家まで一緒に行った。一応その日だけは義久の家に泊まった。これで問題は解決である。
俺はあの日から有休をとって会社をさぼっていた。そもそも今回の仕事上のトラブルは我慢ならないし、上司のせいで職場に居づらい。多少なりとも抗議のつもりだった。なお鬼電かかってきたけど全部無視した。それで何をやっていたかというと。
「駄目だな。なんどやってもスマホがショートしちまう。パケットもすぐにデータが壊れるな……」
俺は新しいパソコンとルーターを買ってきて、疑似的なネットワークを作って大量に買ってきた中古のスマホにアプリを作ってインストしてスキルの配布実験をやっていた。義久から氷操作のスキルをコピらせてもらったので、そいつを配ってるのだが、どうにも上手くいかない。俺のスキル配布能力とリンクするサーバーはすぐに設置できた。俺のコピったスキルはサーバー上でノードとして再現しなおして活用できるのはすぐに気がついた。だけど問題はそのノードの使用権をスマホのアプリに飛ばすことがどうしてもうまくいかないのだ。
「腹立つ……。スケール小さくするとアプリは受け取るけど回数使用制限かかるし、どうしたもんだ?イラつくわー」
床に寝そべりながらずっと考える。ホワイトボードに乗せたアプリとサーバーのアーキテクチャー図と各種アルゴリズムの数式。突破口が見えない。俺がコピったスキルはサーバー上のノードとして保存されている。そこにアクセスること自体は通信していなくてもスキルの力でできる。だけどスマホに落としたスキルは使用回数に制限がかかる。規定回数使用すると使用権のノードがサーバーから消えてしまうのだ。再度生やすことやアカウントごとにいくらでも分割できるのだが、フルの使用権は頑張っても無理。俺が愛暖にやったように直接触れないとダメらしい。
「うわ。コーヒーが切れてるぅ……外でるのだるぃ……」
一服も入れられない。そんな時だった。呼び鈴が鳴った。カノジョと別れて俺のところに呼び鈴を鳴らす奴なんていない。通販に注文も入れてないしなんだろうと思った。俺は玄関を開ける。そこには愛暖がいた。
「あれ?どうしたの?なんでここに?」
「いろいろ手続きが終わったので報告に来ました。私自由です。アパートの部屋借りて独り立ちします。学校にも行こうと思います」
「そうか。それはよかった。じゃあまたな」
「ちょっと待ってくださいよ!」
愛暖がドアを閉めようとする俺を邪魔した。
「なに?」
「ずっと会社休んでるって聞きました。ちょっとくらいお話ししましょうよ!寂しいじゃないですか」
「話?じゃあカフェでも行く?」
「いや!その!ここで枝彌さんの部屋でよくないですか?!」
「えー世間体が」
「誰もそんなの気にしませんよ!おじゃまします!」
愛暖は勝手に俺の部屋へと入ってきた。
「散らかってるけど想像してた汚さじゃないですね。男の人の部屋ってゴミだらけだって聞いてましたけど」
「大人だからね。部屋は散らかしても汚くはしないからね」
お茶でも出すかと思ったら、紅茶もコーヒーもない。緑茶はあったけど、若い子って飲むのかな?とりあえず入れてテーブルに置いておく。
「ホワイトボードおっきい。なにしてるんですかこれ?」
ホワイトボードの図や式を見ながら愛暖が疑問を口にした。
「俺にはスキルをコピーして他人に与える力があるだろ?」
「はい。確かにありますね。すごいスキルです」
「アプリで配れないかなって思ってね。実験してた」
「え?すごい!!できるんですか?!」
俺は実験機のスマホを渡す。
「そのボタン押して」
「はい。でもなんか」
「なんかなに?」
「アプリのデザインが……かっこ悪いかなって」
「使用感は問題ないから」
俺はアプリは作れるがデザインがダサいとよく言われる。UI/UXの分野はとにかくダサいらしい。個人的にはイケてると思ってるんだけど、結局はデザイナーに任せてそれを実装することばかりだ。俺のデザインを受け入れない世界はおかしいと思う。
「あ、なんかロード始まりました」
愛暖が持ってるスマホのアプリの画面にロードのバーが出てくる。それはすぐにいっぱいになって完了する。
「画面の所有スキル一覧に氷生成と氷操作って出てるでしょ?」
「はい。出てますね」
「アプリを起動させたままポケットとかに入れて念じてみな」
俺に言われたとおりに愛暖はスマホをスカートのポケットに入れて手を伸ばして目を瞑る。すると手に周りに氷がいくつか出現してくるくると手の周りを回り始めた。
「すごい!すごいです!私には氷を操るスキルないのに!えい!」
そのまま氷がフワフワと跳んでいって床に落ちる。それはすぐに消滅した。
「じゃあもう一回やってみて」
「はい!えい!……あれ?使えない?」
今度は氷が現れなかった。
「スマホの画面見てみな」
「はい。あれ?エラー出てる?」
「うん。スキルをアプリで配布することには成功したんだ。スマホのアプリさえ起動してれば通信してなくてもスキルが使える。だけどね、なんどやっても使用回数が限られるんだ。十回くらいが限度だね。それ以上はまたサーバーからダウンロードしてこなくちゃいけないんだ」
「へぇ。なるほど。すごいですね」
「でも未完成だ。使用回数が限られるなんて売り物にならない」
「え?」
「ん?」
俺と愛暖は顔を見合わせる。
「でもスーパーで野菜買って料理に使って食べたらなくなりますよね。回数制限って普通じゃないですか?」
「……っあ?ああ?!」
「ゲームとかでも魔法は使うたびにMP減って使えなくなるし普通じゃないですか?」
「その通りだ!なんでそれに気づかなかったんだ!?俺のバカ!愛暖天才!天才可愛い!」
「かわいい?!その。うれしいです」
愛暖が顔を赤らめているが俺はすぐにサーバー側の設定とスマホのアプリのソースコードを弄りなおす。
「弄ってみてくれ!」
「はい。あ、氷操作に回数が出てますね」
「ああ。ダウンロードしてきたスキルの回数と使用して残った回数を表示できるようにした。少なくなったらダウンロードできるようにしたんだ!ははは!そうだよ!回数セットで売ればいいんだ!あはは!あーはははは!」
俺は部屋の中で馬鹿笑いする。愛暖はなんか生暖かい目で俺を見ていた。
「くくく、あーはははは!先天性に支配されていたスキルは今日この日をもって民主化された!!売れる!売れるぞ!革命じゃ!俺は世界を公正なものに進化させたんだ!あはは!」
「よくわかりませんけど、楽しそうなら良かったです」
こうしてアプリによるスキルの配布販売のビジネスプランは確立した。俺はこのビジネスで世界を革命してみせる!!




