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同僚に成果も彼女も奪われた俺、スキルを配るチートで起業して見返す  作者: 万和彁了


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第1話 目覚め

 仕事は一人ではできない。だから頼まれたことはしなきゃいけないと俺は信じてる。



「なあ榊ぃ。俺の仕事なんだけどさぁ、取引先の専務さんなんか怒っててさ。お前仲いいんだろ?何とかしてくんない?」



 同僚の勅使河原が俺に頼みごとをしてきた。



「怒らせたなら謝れよ」



「俺が謝っても火に油だろ!な!頼むよ!同僚だろ?な?」



 少し悩んだけど、仕事が潰れるのは会社の損失だ。俺の抱えているプロジェクトにも影響が出るかも知れない。会社のリソースは有限だ。治せるのが俺だけなら仕方ないだろう。



「わかった。カバーするよ。その代わり、今日、俺のチームにこのファイルの内容を指示して監督しておいてくれ」



 俺はファイルを渡してフォローを引き受けた。



「さんきゅー!まじ神だな!頼んだぜ!」



 俺はすぐに勅使河原の取引先に電話してアポイントを取って、その先方の会社に向かった。

















 通された会議室にむすっとした専務さんがいた。



「食べてくれ。いい羊羹なんだ」



「恐縮です。いただきます」



 俺は差し出された羊羹に手を付ける。



「美味しいですね」



「ああ。私が新人だったころに行った取引先の街でやってる和菓子屋の羊羹なんだ。……君の所の勅使河原くんが来たならこれを食べさせて許そうと思っていた」



「この度は大変申し訳ありません」



「いやいいさ。君が入って来たならプロジェクトは問題なく進むだろう。あの勅使河原、うちの雇ってる派遣の若い子に手を出してね。法はともかくマナーの問題は重い。仕事はチームでやるものだ。この時代でそれはなしだろうに……」



 専務さんのため息が重い。



「君の顔を立てて取引は継続させてもらう。だけど勅使河原くんには首輪をつけておいてくれ。二度目はないと言っておいて欲しい」



「ご寛大な処分、感謝いたします」



「いっそ君が引き継いではくれないのだろうか?このプロジェクトだけじゃなくてもっとデカい案件が待っていてね」



「申し訳ありません。私の人事はうちの会社の決定なので……大変光栄な話なのですが」



「まあ仕方ないか。お互いサラリーマンだ。出来ればまた君と仕事がしたいよ。では今日はもうお開きにしよう。その羊羹は持って帰ってくれ。彼女さんにでもあげてやってほしい」



「ありがとうございます。では失礼したします。今後ともよろしくお願いいたします」



 俺は深く頭を下げてその場はお開きになった。明日からは勅使河原の仕事はこれでうまく回る。俺は会社のビジネスを何とか守り切ってやりがいは覚えていたのであった。




















 会社に帰ってきて勅使河原に報告した。



「まじか!ありがとな!!」



「いいけど、今度は気をつけてくれよ。まじでちょっと前とは違うんだからな」



「はいはい。わかってますよーだ。じゃあもう元の仕事に戻っていいぞ」



 それだけ言って悪びれずに勅使河原は自分のデスクに戻っていった。俺は自分のチームの仕事に戻った。そして見たものはロクなものじゃなかった。



「なんで今日の損益が赤字になってるの?え?なんで?」



 俺のチームが担当しているチームはてんやわんやしていた。現在ウェブサービスが混乱してネットで炎上しており、復旧作業中だった。



「その勅使河原さんがパッチを当てろと。サービス向上のためだと言ってて。止めたんですけど!止めたのに!榊さんの代理だから自分の指示に従えと」



「そんな指示出してないのにぃ……くそ。俺に任せて。みんなは一旦落ち着くためにお茶とこの羊羹でも食べて10分何も考えずにぼーっと座ってて」



「すみません」



「いや君たちは何も悪くない。だから休むんだ。俺の責任だから」



 そしてチームメンバーを強制的に休ませてから俺はサーバーのメンテに入った。意味不明なパッチで新規サービスを実現するものだったけどこれはまだプロトタイプ未満のものだった。すぐにサービスの一時停止を判断してアプリを停止する。サーバーをいじくり倒して原因のパッチを剥がしてアプリをロールバックしてから再開する。カスタマーに苦情が殺到して、臨時で対応マニュアルを作成してカスタマーサービスに追われてなんとか炎上をくい止めた。



「なんなんだよマジで……」



 収益は黒字に戻ったけど、ユーザーの結構な数が減ってしまった。サービスの立て直しにこれじゃ無駄な工数がかかる。チームは疲労困憊だからすぐに入れ替え要員を集めて交代させた。文句の一つも言わなきゃいけない。ファイルにあることだけやれって言ったのに何で余計なことするんだよ。



「おい。勅使河原、なんで試作のパッチ当てた?」



「なにってビジネスチャンスだろ。だから早く行動したんだよ。早ければ早いほどいいってセミナーとかで習っただろう?」



「あれは試作でまだビジネスプランの予測も立ってないものだったんだよ!そんなもの当てたら炎上に決まってるだろうが!そもそも監督者の俺に無断でパッチ当てること自体指揮系統の逸脱だろうが!」



「うるさいなぁ。炎上はもう終わったんだろう。失敗は成功の素だろ。むしろデータ収集したんだからいいじゃないか」



「よくないからな!」



 俺はいま怒っている自覚がある。サラリーマンとしては失格かも知れないけど、これはいくらなんでもあんまりだ。



「榊。アンガーコントロールくらいしろ。それはパワハラだ」



「部長。ですが」



 部長がやってきて俺が注意された。納得いかなかった。



「だいたい大事なサービスを他の者に委ねること自体おかしいだろう」



「勅使河原には指示をちゃんと残しておきました。ファイルにあることだけやってれば問題は起きませんでした!」



「いいや。ほうれんそうがちゃんとできていなかったから起きたミスだ。君は反省する必要がある。今回の反省レポートを提出しろ。いいな」



「そ、そんな」



 そして部長は厳めしい顔をほころばせて勅使河原の方を向く。



「それに比べて勅使河原はよくやった。取引がいったんは絶望的になったはずなのに、それを見事にリカバリーした。今度のインセンティブは期待してくれたたまえ」



「ありがとうございます!」



 奥歯がガリっと鳴った。そのリカバリーとやらは俺がしたことだったし、むしろそれ以前の絶望的状況は勅使河原のコンプライアンス違反だ。なんだこれは。



「いいかみんな!勅使河原の様に失敗を恐れず果敢に仕事に向き合いチャレンジしろよ!榊の様に自分の現場を放っておくようなことはするんじゃないぞ!!」



 部長は皆の前でそう叫んだ。悔しさでプルプルと体が震える。なんだこの理不尽は。俺はやるべきこと、やらなきゃいけないこと、なによりも正しい判断をしたはずなのに。どうしてこうなるんだ。












 帰り際にカノジョの昴に声をかけた。カノジョの昴は元受付嬢で大学でもミスコン取ったくらいの美人で自慢のカノジョだ。



「帰ろう。今日はウチに来ないか?」



 そう言ったのだが、昴はつんとしていた。



「もういかない」



「え?それってどういうこと?」



「今日のあれ見てた。ほんと最悪。あんたと付き合ってたのが恥ずかしかったんだけど」



「あれは俺のせいじゃない!ちゃんと調査が入ればわかってもらえる!俺の話を聞いてくれれば!」



「言い訳とか聞きたくない!今日勅使河原さんと飲みに行くって誘われてるから!もう話しかけないで!仕事できない人とかいっしょにいたくないから!」



 そう言って昴は俺の前から去っていった。なんだよこれ。俺は悪いことなんて何もしてないのに、勅使河原とゲートの外で合流したのが見えた。二人は楽しそうに夜の街に出ていった。俺は一人ぼっちで残されてしまった。






















 一人ふてくされながらバーで飲んだ。きつい酒をガンガン入れる。



「榊さん。飲みすぎですよ」



「足りないくらいなんだよ」



「何があったかは知りませんけど。あなたのことだからきっとやらなくていいお節介したんでしょうね。あなたは優しすぎると思いますよ」



 優しいか。優しくて何が悪いんだろう。そんなときだった。カウンターの奥でとても綺麗な若い女の子が男に絡まれていた。



「おっぱいデカいし尻もくびれもエロいな。どうだ?ここ以外で飲みなおそうぜ」



「……その。遠慮します」



「てか飲んでるのお茶かよ。酒驕るぜ?」



「けっこうです……いりません……」



「お!飲みたいのか!いいぜ!マスター」



 見てらんなかった。女の子はあからさまに嫌がっていた。俺は席を立って、そっちに近づいて女の子に手を伸ばそうとしている男の手を掴んだ。



「お前何すんだよ」



「やめろ。その子は嫌がっている」



「は!ナイト気取りかよ!」



 男は手に炎をだしてきた。スキル。数十年前に人類が手に入れた異能の力。先天的に何らかの異能を持って生まれたり、場合によっては後天的に得たりもするまだよくわからない力。俺は持ってない。みんな大抵は何かしら持ってるのだが、持ってないことが俺のコンプレックスだった。だけど。



「ふん!」



「ぎゃ!?」



 俺は腕を掴んで足を引っかけてその場に男を倒す。怪我はさせてない。俺は柔道空手躰道ブラジリアン柔術剣道銃剣道の段位持ちの元自衛官だ。こんなやつ屁でもない。



「次は本気で技かけるぞ。今日の俺は無敵の人なんだよ」



「わ、わかった!もうしない!」



 そう言って男は去っていった。



「あ、あのありがとうございます」



「そう。もう君は帰った方がいいよ。慣れてないんだろう。こういう場所」



「え、えーっとはい。初めてきました……」



「なら今日はもう帰れ」



 俺は席に戻っていく。だけどスーツの袖を掴まれた。



「そ、そのお礼を……」



「別にいいよ。正しいことをしたかっただけだから」



 俺がそう言うとマスターがこっちに近寄ってきた。



「駅まで送って差し上げたらいいじゃないですか。怖い目にあった女性を放置するのはよくないですよ」



「ええ……」



「ほら。行ってください。今日のお代はその女性を送ったらなしでいいですから」



「む」



 結構飲んだし摘まみもたくさん食べたし、ちょっとこの提案は嬉しい。



「じゃあマスターの男気に甘えるよ」



「それがいいです。そちらのお嬢さんも今度また来てください。歓迎しますので」



 そしてマスターに見送られて、俺と女の子は街に出た。女の子はニットワンピースにサンダル。胸元は開いていて豊満な胸の谷間が見える。胸がデカいのにくびれもしっかりあって足も適度な太さで長くてセクシー。明るくて長い茶髪をハーフアップにしていて可愛らしい。とび色の瞳が俺をどこかおっかなびっくりで伺っている。



「あの静かなところで休みたいです……」



 なんだろう。そういう意味かな?だけどそんな気分になれない。まだ仕事のイライラはあった。なので近くにあった公園にいった。



「え?その静かなところじゃないんですか?」



「静かでしょ」



「え、あ、そうですね。あの男の人ってああいえば、その、ああいうホテルに行くんじゃないんですか?そう聞いてたんですけど」



「近くにある派手なネオンの光を放っているラブホテルの看板を指さす」



 なんか変な反応だな。



「ラブホってさぁ。身体検査メッチャされるじゃん。バックとか全部開けて中身みせなきゃいけないし、なんか指紋も取られるし、やだよねそういうの」



「え?!そうなんですか?!知らなかった……」



 こんな嘘に騙されるってことはラブホテルに行ったことないなこいつ。なら目的は何だろう。



「で、誰もいない公園に連れてきてやったぞ。なにが目的?」



「……っぅ」



 女の子が強張った顔をする。そして首を振った後に女の子の周囲に電撃が飛び散りだす。



「すみません。ごめんなさい。ごめんなさい。お金を置いていってください……」



「なるほどね。スキルを使ったカツアゲね。いや美人局か。それにしちゃやる気ないね」



「あります!やる気はあります!電撃を当てますよ!だからお願いだからお金を……」



 そう言いながら電撃をぱちぱちさせる。だけど当ててくる気配はない。俺は近づいてあえて彼女の手に触れる。少しビリっとする。せいぜい接骨院のマッサージくらいの電撃だ。てかスキルを始めて喰らったな。案外大したことない。いや手加減してる。



「俺に怪我させる気ないね」



「……ううぅ」



 女の子は涙目だ。そして顔を後ろの方に向ける。するとそこにいつの間にか男がいた。よく見るとところどころが陽炎で揺らいでいる。光学迷彩系のスキルっぽい。そして陽炎が消えて男は言う。



愛暖(めのん)!いいから早くそいつを気絶させろ!」



「でもお父さん!こんなのやっぱりよくないよ!」



「うるせー!金がなきゃ酒も薬も変えないだろうが!お前が体売るのが嫌だっていうからカツアゲにしてやってるんだぞ!ヤクザに売ってもいいんだぞ!」



「……ぅぁ。お父さん……」



 なるほどね。こういう構図なのね。世の中は本当に正しくない。嫌になる。今日は最悪の厄日だ。その時だった。心臓が高鳴った。



「ぅぐう」



 思わずうめき声を出してしまった。そして何かが見えた。金色の枝をつけた大きな樹。その麓には剣を持った誰かが見えた。俺はその幻の中で剣を持った誰かに近づく。気がついたら俺も剣を持っていた。そして誰かが優しげに笑った。俺はその誰かに剣を振り下ろした。誰かは血をまき散らして倒れて、俺は木に手を伸ばして、金の枝を折ったのだ。



「え?いまのは?ええ?あれ?」



 女の子から放した手に電撃の光が宿っていた。バチバチと音を鳴らしている。



「……なんで?俺にはスキルがないはずなのに……」



 だけどその電撃は俺の意志に反応しているのがわかった。だってどんどんでかくなる。



「ちぃ?!お前もソブリンだったのかよ!だけどなぁ!俺の光学迷彩は見破れないぜ!」



 そう言って男は姿を消した。だけどね、足音はわかる。元々自衛隊にいたんだ。対人戦闘のコツくらいわかる。足音の方に俺は駆ける。そして手を突き出して何かに触れた。



「ぎゃああああああ!!」



 光学迷彩がとけて男が姿を現す。そして電撃が男に走って男は倒れた。その瞬間、また幻が見えた樹に枝が映えたようなイメージが見える。



「お父さん?!」



 女の子はその場に立ち尽くしている。俺は倒れた男の首に手を当てる。命に別状はない。俺は男をそっと横たわらせた。



「あ、あのごめんなさい!さっき電撃あなたに走らせちゃいましたけど大丈夫ですか?」



 女の子が俺の身体に触れてくる。



「それは大丈夫だけど。あ、やっぱり」



 俺の左手を見る。なんか透けていた。意識するとその透けはひじの方まで伸びていった。意識を切り替えると手が現れた。もう一度消えろと念じるとまた手が消えた。



「え?あなたはお父さんと同じ能力も持ってたんですか?」



「いや。ちがう。使えるようになった。今ね」



 女の子は首を傾げている。スキルをコピーした?ふっと思った。女の子の手をもう一度手に取る。



「きゃ!?え?ええ?何このイメージ?!あ、手が透けた?!」



 女の子の手が透けた。女の子もまたその透ける範囲を自由に動かせるようだ。



「何をしたんですか?なんで私がお父さんのスキルを使えるんですか?……あなたがやったんですか?そんなこと……」



「どうやらできるらしい。スキルを与えるスキルみたいだ」



 誰かに説明を求める必要もない。俺には他人のスキルをコピーしてそれを与えるスキルがある。俺は考えこむ。



「ところで君、お父さんは気絶してるけど、まだカツアゲしたい?」



「……そんなこと……したくないです……いやです。悪いことなんてしたくないよぅ……」



「わかった。今から知り合いの弁護士呼ぶよ。何とかしてみる」



 女の子は目を見開いて驚いていた。警察呼ばれると思ってたのかもな。警察沙汰は俺も嫌だ。だけどそれ以上に。



「なあ。もし幸せになれるスキルがあったら欲しい?」



「え?それは……欲しいですね」



「いくら出す?」



「いくらっていっても。二万円しか貯金ないです……でも幸せになれるなら二万円出してもいいです」



「だよね」



 だから俺は思いついた。というより確信した。スキルを与えるスキル。






 これ、売れる。







 ってね。


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