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緑茶

魔法使いは目の前に置かれたカップをただじっと見つめていた。穏やかな顔をしているが、中身は運ばれてから一口も減ってはおらず、既に飲むには程よい温度になっている。

魔法使いの様子に青年は口角を上げてにやけている。

「おい、そろそろ飲めよ。お前は別に熱いのが苦手とかいう猫舌じゃねぇだろ」

「やれやれ、ここぞとばかりに知った言葉を使って……君は意地悪だねぇ」

取っ手のついていないカップを片手で掴み、青年は緑茶を口に運ぶ。口の中に広がるうっすらとした苦みが青年は嫌いじゃなかった。緑茶を目の前に唸っている魔法使いを尻目に青年は緑茶を飲み進める。

「なにをそんなに躊躇ってんだよ。星の特産品で、恵みだろ?」

「んー…そうなんだけどね……どうも、この苦みが僕は苦手だからなぁ」

恐る恐るといった様子でカップの中身を口に含む魔法使い。その顔は苦みに眉が中央に寄せられ、口も尖る。味に苦々しい顔を浮かべる魔法使いに青年は笑う。その反応になのか、味になのか、魔法使いは更に眉をひそめた。

二人の座る席にエプロンを付けた人間がやってきた。エプロンを付けたその人間は茶色いカーブのついたトレーを持っている。

「お茶の味はどうだい?こんなものしかなくて悪いけど、お茶請けによければ食べてちょうだい」

そう言っておいたトレーの中には薄肌色の生地を持った厚めのお菓子が乗っていた。

「どうも。これは……最中か?」

「おや、知っているのかい?そうだよ最中。うちにあるお茶請けの中で一番いいやつなんだ。これは緑茶に合うからね~お茶請けにはぴったりだよ」

「これはこれは……ありがとうございます」

女性の説明に魔法使いは最中に手を伸ばす。軽い手触りのそれを口に含み、それからお茶を啜る。魔法使いの表情は見る見るうちにほぐれていき、いつもの柔和な笑みが浮かんだ。

「はぁ……美味しいです」

「おやおや。気に入って貰えてうれしいよ。お茶のおかわりも置いておくからゆっくりしてね」


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2人が並んで座る横椅子からの景色はのどかな風景だった。畑が広がり、小さな家がぽつりぽつりと建っていて、それぞれの家に小さな領土があるような光景だった。ほとんどの家は畑を作っており、丁度収穫時期なのか、星の住民たちはせっせとそれぞれの畑で働いていた。先ほどの女性も二人にお茶請けを出してから目の前に広がる畑の中に入っていき、働いている。

「とっても小さな星だね」

「あぁ。久しぶりに訪れたな、こんな小さな星は」

「そうだね。喫茶店がないのも久しぶりだ」

星に訪れた2人はいつも通り喫茶店に入ろうとしたが、この小さな星にそんなものはなく、この星の住人の集合場所として使われているこの小さな平屋に招かれた。そこの入り口近くに置かれた長椅子と小さな机。そこがこの星の歓迎の場所だった。小さな机にはまだ最中が残っている。

「星も小さく、住人も少ないけれどとてもいい星だ。住人の人々も仲が良さそうだしね」

魔法使いの視界にはせっせと働きながらもにこやかに笑い、話し合う住人の姿があった。見るからに肉体労働が多そうな星だが、彼らはその中でも生活を育んでいる。

「うん。いい星だ」

「『星跨ぎ』さん達。どうだい!お茶とかお菓子はいるかい?」

「いいえ。歓迎して頂いてありがとうございます」

「そんなに俺らに配っていいのか?自分たちが無くならねぇか?」

「はっは!心配をありがとうよ!『星跨ぎ』さん達がちゃんと来るなんて久しぶりでよ!母ちゃんが張り切ったんだな!俺も久しぶりに会えて嬉しいぜ」

豪快に笑いながらやってきたのは日焼けをした男性だった。口ぶりからするに先ほどの女性の旦那なのだろう。麦わら帽子を被った彼は、入口の近くに置いてある別の机に置いてあるやかんから水を汲むと一気に飲み干した。穏やかな日差しとはいえ、外で働いている彼らにとっては暑いだろう。

「久しぶりなのですか?この星はとても渡りやすかったけれど」

「それはあんたらが良い人だからさ!この星は『星跨ぎ』の人をちゃんと選んでるのさ!だから久しぶりに外の人に会えて母ちゃんは張り切ったのさ。俺も嬉しいけどな!」

じゃ!ゆっくりな!と言って男性は畑に戻っていく、彼が向かう畑の奥側に小さくうっそうとした暗い森があった。男性の発言に青年は魔法使いの方を向く。

「この星は大きくなるのではなく、小さいけれど守ることを選んだんだね。元からあまり力がなかったのかもしれないけど。それは一つの選択としてありだと思うよ」

「これだけ小さくても侵略の跡もなく平和なのはそれが理由か……あの森か?」

青年の言葉に魔法使いの瞳が一瞬動く。

「多分ね」


再び目の前の景色を2人を見つめる。星の住人達と目が合えば彼らは嬉しそうに手を振る。その手に応えながら、2人は緑茶を啜り、青年は空のカップを置く。

「緑茶も旨いだろ」

住人を見つめながら魔法使いは口を紡ぐ。

「苦いけどあったかいよ」

魔法使いの手にはまだ最中が残っていた。


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