ミルクティー
「いらっしゃいませ。お二人ですか?お好きな席にお座りください」
魔法使いと青年が入った喫茶店は広かった。広い店内にはふわふわのソファと厚い木の板で出来た机が置かれており、二人を歓迎している。喫茶店内のお客は二人以外にも多くいて、八割ほどの席は埋まっていた。
二人は空いていた窓際の席にいつも通り座ると店員が話しかけて来る。
「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになったらこちらのベルを鳴らしてお知らせください」
店員はそういうと金属製のベルと水を二つ置いて去っていく。店員のエプロンは真っ白く、きちんとアイロンがされていた。
「さて、何を飲もうかな。なにか珍しいものは、と」
メニュー表を見る魔法使いとは異なり、青年は窓の外を見ていた。この星は道が整備されており、この喫茶店に到着するまでも特になにかがあるわけではなく、平和だった。
メニューを見ていた魔法使いは一つのメニューを見つけるとベルを鳴らす。リーンと鳴ったベルは店内中に響くが、これが普通なのだろう。店にいる客はほとんど気にすることはなく、店員が二人の元にやってきた。
「はい、お待たせしました。ご注文はなんでしょうか?」
「このミルクティーを二つください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員が去ったあとに、青年は魔法使いを見る。その顔は相変わらずぶっきらぼうだ。
「ミルクティー?」
「うん。この説明が面白くてね」
そういって魔法使いはメニューの一部に指を指す。青年が指を目で追いかければそこには、
「『名物!ミルク好き放題ミルクティー!おかわりの際は店員をお呼びください』?」
「うん。偶にはこういった名物らしいものもいいだろう?」
魔法使いはにこやかに笑う。青年は特になにも言わなかった。
暫くして店員がやってくる。店員のトレーには茶葉の入ったティーポッドと二つのカップ。そして銀色の大きなミルク入れが二つあった。
「お待たせしました。こちら名物のミルクティーになります。ミルクが足りなくなった場合はお呼びください」
「あぁ、ごめん。僕たちは『星跨ぎ』なんだけど、これは好きなようにミルクティーを作っていいってことかな?」
「その通りです。こちらのティーポッドには既に紅茶が入っておりますので、お好きな配分でお楽しみください」
説明を終えて店員は去っていった。魔法使いは早速ミルクティーを作り出す。彼は紅茶を少なめにミルクを多めに作るようだ。青年は魔法使いの様子をみて作り始める。紅茶を多めに、彼はミルクが少ない。
「極端だなぁ。折角なら楽しめばいいのに」
「うるせ……俺は薄い方が好きなんだよ」
「はいはい」
「ふん」
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「ここは豊かな星だね」
「……住民も多いが、酪農も盛んだ。じゃなきゃこんな飲み物出てこないだろうが」
「そうだね。酪農も農業も盛んで、文明レベルも高そうだ」
魔法使いはそういって天井を見上げる。そこには見事なガラス細工のされた照明があった。それは一つだけでなく、店内を明るくするには十分な量がある。
「やれやれ、どの星に渡るかは基本的にランダムにしているからね、これも巡りあわせだけど……星の事情というのは渡るまでわからないからね」
ミルクをたっぷり入れたミルクティーを飲みながら魔法使いは言う。ミルク入れは底をついていた。
「……星の平和はその星の住民の努力によるもんだ。星が自然消滅することもある。それは運命だろうよ。だけど……」
青年がカップを持つ指に力が入る。カップの取っ手に鈍い音が鳴り始めた。
魔法使いは青年の方に置いてあるミルク入れを手に取ると、青年のカップに注ぎ始めた。
「君のミルクまだ残っているじゃないか」
「あ?ちょ、おい!」
青年の言葉を無視して魔法使いはミルクを注ぐ。既に少なくなっていた紅茶にミルクをたっぷり入れた青年のカップは、ほとんどミルクと言ってもよかった。
「おい!」
「訪れた星の恵みは味わいなさい。それは旅を始めた時にも言っただろう?」
魔法使いの言葉に青年は苦虫を潰したような顔をした。彼が視線を落とせば、そこには名産のミルクをたっぷり入れたミルクティーがある。青年が口に含んだそれはほとんどミルク味だった。魔法使いは笑って言う。
「美味しいだろう?」
「……うまい」
そう言いながら、青年はカップを少し遠ざけた。




