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小豆コーヒー

「これは面白いね」

魔法使いは楽しそうに笑う。彼が飲んでいる飲料の色は茶色で、一見コーヒーの様に見える。しかし、よくよく見ると、うっすらと底の方に何かが入っている。くるくると備え付けのスプーンでかき混ぜればそこに沈んでいたものが浮き上がり、スプーンの上には赤茶色の粒、小豆があった。

「ふーん。これは初めてだ。うんうん、面白い」

「砂糖とかミルクとはまた違う甘さだな」

「そうだね。これだから星渡りの旅はやめられないね」

上機嫌で魔法使いはカップをかき混ぜ、スプーンの上に小豆を乗せてはまた混ぜる。何回もその行為を繰り返しては楽しそうに笑う。その姿に青年は呆れたような顔をして自分のカップに口を付けた。コーヒーの味の中にうっすらと滲む小豆の甘さ。魔法使いが言うようにこれはいくつもの星を渡った2人にも初めての飲み物だった。

「君も美味しく飲めてるだろう?」

「ふん」

「相変わらず素直じゃないね」

青年の様子を気にすることなく魔法使いは再びスプーンを動かす。そんな魔法使いを尻目に青年は店の中を見回した。

2人が入った喫茶店は中くらいの規模のものだった。中にはカウンターとテーブルの席がいくつかあり、2人はいつも通り窓際の席を選んだ。畳が使われた椅子と木目調の高い机が組み合わさっており、座る際に魔法使いが瞳を輝かせていた。店員の姿は普通だったが、店の中に置いてある小物は不可思議なものが多い。宝石のような石や、見事な意匠が施されたランプ、畳の椅子に合いそうな像もあれば、空間には合わないのではという不気味なトーテムのようなものも置いてある。どういった基準で置かれているのかはわからなかった。

「変な喫茶店だ」


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「お客様、お変わりはいかがでしょうか」

「俺は要らない」

「ありがとう。私はいただこうかな」

「かしこまりました。少々お待ちください」

店員はそういうと厨房に下がり、再びやってくる。新しく入れたカップを魔法使いの所に置いた店員に青年は話しかける。

「なぁ、あんたは普通の格好なんだな」

「普通の格好とは?」

青年の言葉に店員は疑問符を浮かべる。青年の言う通り店員の格好は普通だった。白いTシャツに黒いエプロンと蝶ネクタイ。2人が巡った星の多くの店員も大体このような恰好だった。

「こんだけ色んなもんが置いてあんのに、あんたは普通の格好だなって。なんでこんなに物が置いてあんだ?」

「なるほど、そういうことでしたか」

青年の言葉に店員は朗らかに笑う。眼鏡の位置を直して店員は店を見回すように話し始めた。

「この星は『星跨ぎ』の方が多く訪れます。私は昔から彼らに憧れていまして、彼らに話しかけては自分もいつか『星跨ぎ』になりたいと思っていたんです。ですが、私にはそれだけの技術力も、魔力と呼ばれるものもなく……星の技術で行くにしても、情けない話ですがお金がありませんでした」

「星が提供している技術力で行くとなると、団員になるか、お金を出すかだからね。後者は一般人には難しいだろう」

「その通りです」

魔法使いの言葉に頷いて店員は続ける。

「ですが『星跨ぎ』の方々への憧れは消えませんでした。自分は『星跨ぎ』にはなれない、けれど『星跨ぎ』の方はこの星へ多く来ます。だから私は彼らに近づくことにしたんです」

「だから門の近くにこの喫茶店があるのか」

「その通りです。以前『星跨ぎ』の方から星を渡った後は疲れると聞きましたので、門の近くにこのお店をオープンしました。そして『星跨ぎ』の方が多く入店してくれるようになったのです」

嬉しそうに店員は笑う。確かにこの店は門の近くにあり、それは『星跨ぎ』にとってはありがたいものだった。星渡りは人によるが疲れるのだ。

「それから私は訪れてくれた『星跨ぎ』の方にお願いをして彼らの話を聞かせて貰っているのです。その際に理由は様々ですが、『星跨ぎ』の方から物を貰うことがありまして、折角なのでそれを店内に飾っております」

「なるほどな」

改めて店内を見渡して青年は納得する。これだけジャンルが固まらずに色んなものが置いてあるのはそういうことかと。

「もしかしてこのメニューとかも幾つかは『星跨ぎ』から聞いたものか?」

「その通りです。お客様が飲んでいるものもその内の一つです。その、少しでも他の星のものを残したいといいますか……未練たらしいですが、昔の夢を忘れられなくて……っと、長く失礼いたしました。ごゆっくりお過ごしください」

そういって店員は去っていく。その瞳にはまだ夢を諦めきれていない瞳が覗いていた。

「素敵な店の理由は彼だね」

「お前はそういうのが好きだよな」

「君も嫌いじゃないんじゃないかな」

魔法使いは二杯目を飲む。残りはもう少なくなっていた。

「小豆とコーヒーか……。組み合わせって色々だね」

そういって魔法使いは空になったカップを置く、青年が残り僅かな量を飲み干すと、

「そうだな。……悪くない」

そう言った青年のカップは魔法使いの横に置かれた。


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