メロンソーダ
シュワっとした感触が口いっぱいに広がるそれに青年は顔を顰める。けれどストローから口を離さない様子を見るに嫌いではないのだろう。いつも通り窓際の席に座りながら、魔法使いは外の様子を見る。そこには1枚の艶やかな布を纏った人々が多くいた。
「この星も珍しい文化が発展してるんだね」
「珍しくない文化なんてないだろ」
「そうだね。どの星の文化も珍しいものばかりだ」
魔法使いは窓の外を見つめる。その瞳は子供のような無邪気さを宿しており、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。青年は注文したメロンソーダを険しい顔で飲みながら魔法使いを見る。
(いつまで経っても目キラキラさせてんな…)
笑うわけでも、泣く訳でもない、ただただ眩しいものを見るように魔法使いは街行く人々を見つめる。
比較的治安が良いこの星。窓から見える景色は小さな平和が多く見えた。楽しそうに駆け回る子供や、出店のお茶を嗜む女性達、張りのある声を出して走り回る男性…多くの人々がそれぞれの仕事や遊び、日常を過ごしていた。平和と言える光景を窓から見て魔法使いは穏やかに笑っていた。
「おい、炭酸抜けんぞ」
「おっと、いけないけない。人の営みというのは、いくら見ても飽きないね」
「上位種が言うことは違ぇな」
「何回も言うけど僕たち魔法使いだって君らと一緒だよ?生まれて生きて、いつかは星に還る。サイクルは一緒さ」
「そういう考えが上位種って言ってんだ」
青年の言葉にどこか納得いかないような顔をして魔法使いはストローに口を付けた。
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「『星跨ぎ』の方々いらっしゃいませ。この星はいかがでしょうか?」
2人に話しかけてきたのは女性だった。女性の服装は道行く人々に比べて高級品だということがすぐに分かるような代物だった。繊細な刺繍の入った布を纏った彼女には付き人がおり、彼女のすぐ後ろに控えていた。
「こんにちは。美しい方。この星は素敵なところですね」
「平和だな」
「そうですか、それは何よりでございます。急に話しかけてしまい申し訳ございません。私はこの星の中枢に仕えている人間でございます。『星跨ぎ』の方々がこの星を快適に過ごせて居るのか、それを調査する部門にいるものです」
布を広げ恭しく礼をする彼女に倣い、付き人達も礼をする。彼女の所作は丁寧を超え雅であり、彼女の周囲だけ時間がゆっくり進んでいるようだった。
「なるほど、この星は大きいからかな。そういう所も管理する場所があるんだね」
「左様でございます。星によってその規模は違うでしょうが、仰る通り、この星は大きい部類に入るのではないかと思います」
「この大きさの星で、この規模管理出来てるっていうのは久しぶりに見た」
「そうだね、この星は『星跨ぎ』も少なくない…それどころか多いんじゃないかな?でも門のところでちゃんと検査をしてるよね。検問をここまでしっかりしてるのも久しぶりだよ」
2人の腕にはこの星において『星跨ぎ』を示す腕輪が付いていた。糸を何重にも重ねたそれは艶やかに光っている、
「ご理解頂き感謝申し上げます。左様でございます。この星は皆様の渡りを歓迎しております。ですが、人が多ければ不思議なことをする方や、考え方をする方もいらっしゃいます。そういった方はなにをするかわかりませぬので…星の中に入る前に分けさせていただいております。あなた方はその検問を潜り抜けた方々…故にご来訪頂きありがとうございます」
顔の前に両手を重ね深々とお礼をする女性。上位種になった様な、そんな錯覚を感じさせる程だった。
「その『星跨ぎ』の証を付けていれば、この星において様々な恩恵を受けれると思います。どうかごゆるりとお過ごし下さいませ」
失礼します、と言って彼女は去って行った。横に動かす扉を付き人が開け、喫茶店から彼女が去った時、喫茶店内の空気が戻った。先程まで遠かった音が聞こえ、時が正常に動いたような感覚だった。
青年はため息のように深い息を吐き、魔法使いは再びストローに口を付ける。
「あれなんだ」
「普通の方だよ」
「人間ってことか?」
「うん。ただ洗練され過ぎた動きと言葉、そして纏う雰囲気だね。それら全てがあの様な錯覚を感じさせるのさ」
魔法使いの言葉に青年は眉をしかめる。納得の言ってないような顔をした彼に魔法使いは飲み切ったグラスを置いて、言葉を紡ぐ。
「洗練されたものというのは、魔法や超常現象と同じ効果を引き出すのさ」




