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オレンジジュース

「いらっしゃいませ。ご注文をお聞きします!」

「オレンジジュースを2つお願いします」

「かしこまりました」

注文を受けた店員は小走りで厨房に戻る。魔法使いが窓の外を見れば雨はひっきりなしに降っており、整備された道を行き交う人は傘を差していたが、そもそも人は少なかった。

魔法使いの向いにいつも通り座っている青年の髪は濡れており、いつも仏頂面の顔はいつにも増して険しく、肩は少し震えている様だった。

(おや、あまり濡れてないと思っていたが…素直じゃないからね)

「なんだよ」

青年の剣呑とした言葉に魔法使いは空中で人差し指をくるりと回す。青年の体を温かい空気が包み込み、濡れていた青年の髪や服、体は乾いていった。

「思ったより濡れているんだもん。びっくりしたよ。雨避け魔法から離れるから」

「うっさい」

「温かいミルクの方がよかったかな?」

「余計なお世話だ!」

むすっとした顔で青年は窓の外を睨みつける、

まるて雨さえ降っていなければ、という顔だ。やれやれ、と言わんばかりの顔をした魔法使いのところに先程の店員がやってくる。トレーの上には明るい色のオレンジジュースが入ったグラスが2つ置いてあり、その手つきは辿々しい。

「お待たせしました!」

そっとコースターを机の上に置いてからその店員はオレンジジュースをそっと置いた。トレーを持つ手は震えている。

「ありがとう」

「はい!ごゆっくりお過ごしください!」

オレンジジュースを置いた店員は元気よく2人に声をかける。その声は静かな喫茶店内に響くが、店員はそれに気づく様子はなく戻って行った。

「新人さんは元気でいいね」

「うるさいけどな」

ぶっきらぼうに言い放って青年はオレンジジュースに口を付ける。さっぱりとしたそれが青年の眉間の皺まで飛ばしてくれるわけではなさそうだ。


1/2

「生憎の雨だったけど、そろそろ止むかな?」

「さっさと止めよ…」

青年は空を睨むがまだ曇り空が続いている。けれど魔法使いが言った様に少し薄くなっているようだ。

「あ、あの!『星跨ぎ』の方ですよね!」

2人に話しかけてきたのは若い少女だった。ハツラツとした顔はオレンジのようで、緊張してるのか頬は赤く染まっていた。

「うるせぇ…」

「ご、ごめんなさい!」

「まぁまぁ、僕らは『星跨ぎ』だけど何か用かい?」

「は、はい!私ってどう見えますか?」

少女の言葉に2人は疑問を顔に浮かべる。どう見える、その言葉を受けて2人は少女を見る。「普通の女の子だね」

魔法使いの言葉に青年も目を伏せる。2人の目から少女は普通の明るい少女にしか見えなかった。

「そ、そうですか…」

「どうして急にそんなこと聞いたんだい?」

「わ、わたし、オーラが薄いって言われるんです!!」

「お、オーラ?」

「めんどくせ…」

「この星の人達はみんなオーラを見ることができるんです。人はみんなオーラを持っていて、それがその人の魅力であり、実力を表しているってこの星では言われてるんです」

「へぇ…オーラ、ね」

少女の説明に魔法使いは興味深そうに目を細め、青年は顔を顰める。

「私の周りの友達ってみんな凄くて、オーラも凄い色鮮やかできれいなんてす!でも、私ってオーラが薄くて……友達はみんな素敵なオーラを持ってるのに……」

服を握りしめ、肩を丸めた少女の様子に先程の明るさはない。今いるのは今にも泣きそうな幼い少女だった。

「あなたは自分を変えたいんだね」

「は、はい!すてきなあの子たちと一緒にいたくて…!でもどうすればいいかわかんなくて…とりあえず働いてみよう!って思ってここでバイトを始めたんです!お金も稼げますし」

照れたように笑っているが、自信はあまりないように見える。2人の顔には先程オレンジジュースを持ってきてくれた店員が浮かんだ。まだまだ慣れておらず、手つきが危なっかしい様子のさっきの店員はこの少女なのだろう。服装が違うところから休憩か仕事終わりなのだろう。

オレンジジュースを一口飲んだ魔法使いが少女の方を向く。

「それでいいんじゃないかな」

「え?」

「変わろうとしていて、行動もしているならきっとどこかで花が開くよ。すぐに結果は出ないだろうけどね。花が開くには時間がかかるから」

「で、でも…これでいいんでしょうか…オーラ綺麗になるのかな…」

「うじうじすんな。オーラのことは知らねえけど、変わろうとして行動してんなら、うじうじしてるばっかの奴よりずっとマシ」

青年の言葉に魔法使いも頷いた。

「さっきまでのうるせぇ声はどうした?それがお前の特徴じゃねえの?」

「え、」

「そうだね、今会った私達でもわかる。あなたの良いところはさっきまでの明るさだよ。明るさと変わろうとして行動をする。それがあなたの良さ。それを忘れなければオーラもきっと応えてくれるんじゃないかな」

「ま、オーラのことなんで知らねえけどな」

無責任にも聴こえる言葉。だけど、なにも知らない『星跨ぎ』の人間の言葉は少女の背中を押したかもしれない。彼女の顔にはオレンジの様な表情がまた浮かんでいた。

雨も上がったようだ。


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