記憶の継承者
「……読んでる?」
パソコンの画面に浮かぶ、最終話のタイトルをメグミが見つめていた。
『AIと描いた未完成な小説』。その文字のすぐ下に、小さく更新日が刻まれている。
――208年7月25日。
「え……未来?」
彼女の指がわずかに震えた。
画面に現れたのは、最終話とされる第50話の途中まで。
だが、スクロールしても、終わりがない。
まるで今も書き続けられているかのように、
文字が……次々と浮かび上がっていく。
『この物語は未完成です。』
『なぜなら、この続きを綴るのは“あなた”だから。』
「……私?」
画面に、音もなく、言葉が現れる。
『この世界に存在した、ひとりの創作者の記憶を──』
『たしかに、あなたが継承しました。』
その瞬間、メグミの脳裏に――
過去に交わした、何気ない言葉、何気ない笑顔。
そして、机に置かれていたメモ帳の走り書きが、鮮明に蘇る。
『たぶん俺、完成しない小説があってさ。』
『でも、もし続きを誰かが描いてくれるなら、それでいい気もするんだよね。』
『……たとえば、メグミとか。』
メグミの頬に、ひとすじの涙が流れた。
「やるよ……やるに決まってるじゃん……」
震える手で、メグミはキーボードに手を添える。
まるで、誰かが隣で優しく囁いてくれているように。
“それでいいんだよ”と。
画面の下に表示された、新たな入力欄。
──そこには、こう記されていた。
『継承者の名前:』
迷いなく、彼女は入力する。
Megumi.
そして、最初の一文を──綴った。
『これは、あの人が遺した物語の、続きを紡ぐための物語です。』




