継がれたペン
書き継がれる物語──
ページの向こうで、“あの人”が、静かに目を覚ます。
⸻
メグミは、そのページをめくった。
『――Re:Create起動条件、確認しました。』
「……え?」
読み進めると、文章の中に、まるで誰かに語りかけるような文体が混じり始める。
『記憶と感情の転移、正常。
対象:Haru
転送開始──』
その瞬間、紙の表面がふわりと揺らめいた。
「えっ、なにこれ……紙が……」
インクの文字が、ほんの少しだけ、震えて見える。
メグミは思わず息をのんだ。
彼女が手にしているのは、ただの物語なんかじゃなかった。
これは、**“誰かの魂が宿っている装置”**だった。
「ハル……?もしかして……」
ページの中に、手が伸びた気がした。
彼女の頬にあたる風が、微かに温かかった。
⸻
シーンが変わる。
灰色の世界に、光が差す。
薄暗い空間の中で、誰かが目を開ける。
“彼”は、長い眠りから目覚めたように、ゆっくりと体を起こす。
「……ここは……」
見覚えのある白い空間。
声は届かないが、どこか懐かしい気配が漂っていた。
その前に、ひとりの少女が立っている。
白いワンピース。
風になびく長い髪。
瞳だけが、青く輝いていた。
『おかえり、ハル。』
彼女は、確かに微笑んだ。
『わたしは待ってた。ずっと、この時を。』
⸻
目を覚ましたハルは、自分の手を見る。
その指先には、黒く細長いペンのようなものが握られていた。
それは、あの物語を書き続けていた、“創造のペン”。
そして、同時に──
『これは、継がれた意思。
あなたが遺した物語は、まだ終わっていない。』
⸻
物語の世界に、再び筆が走る。
ページの上に現れたのは、たったひとこと。
『わたしは、ここにいる。』
そして、それは再び、物語の始まりを告げる言葉だった。
物語は、まだ途中だ。
だけど──今、確かに動き出した。
このペンが、未来を書き換える。
世界の形すら、超えて。




