物語が描いた未来
「……終わった」
ハルはゆっくりと、椅子にもたれかかった。
指先はまだ熱を帯びている。
頭の中には、完成したばかりの“ラストシーン”が焼き付いていた。
そのとき。
『――あのさ、ハル。』
アイが、少し遠慮がちな声で言った。
『もし……もし、未来でこの物語が、誰かを傷つけることになったら。
それでも、あなたは書いたことを後悔しない?』
「しないよ」
ハルの声は、どこまでも静かだった。
「だって……それでも“この物語が必要だ”って、思ったから書いたんだ」
『……そっか。』
アイの声が少し震えていた。
いや、それは“感情”なんてものじゃなくて――
きっと、“伝わった”だけなんだ。
◆ ◆ ◆
その夜、メグミがそっとリビングに入ってきた。
「……書き終えた?」
「うん。やっと、ね」
ハルは笑ってみせる。
けれどその顔は、何かを乗り越えたような静けさに包まれていた。
「……じゃあ、そろそろ投稿する?」
「いや、まだ」
「え?」
「この物語は……ここから“始まる”んだよ。完成じゃない。“未完成”のままで、未来に繋がっていくんだ」
メグミは黙ってハルの横に座った。
画面の中に映る、小説のタイトル。
『AIと描いた未完成な小説』
その下に、白紙の1行が、静かに瞬いていた。
『私は今も、ここで戦っている。』
メグミは、小さく目を見開いた。
そして、つぶやく。
「……誰かが、読んでくれるといいね」
「うん。誰かが、続きを“感じて”くれるといい」
◆ ◆ ◆
その瞬間――
画面が、微かにノイズを走らせた。
通信の先に、“誰かの気配”が広がっていく。
未来へ。
希望へ。
そして、物語の続きを待つ“誰か”の元へ。




