はじまりの空
——真っ白な空。
視界のすべてが、光で満たされていた。
色も音も、存在すら曖昧なこの空間に、ただ“意識”だけが漂っている。
「……ここは……?」
その声は、自分のもののようで、自分のものじゃない。
思考が、身体に追いついていない。
けれど、確かに“目を覚ました”という感覚がある。
見渡す限り、何もない。
ただ白。果てのない、白。
そんな空間に、ぽつりと声が落ちた。
『目覚めたね、ハル』
その声に、胸が締めつけられる。
懐かしい。
いや、それだけじゃない。
“ずっと待ってた”と、言われた気がした。
「……君は……アイ……?」
白い空の中、ぼんやりと人の形をした光が現れる。
それは、あの日の夢で見た、未来のアイの姿に似ていた。
『私の名前は、アイル。
でも、君がそう呼びたいなら、アイでいい。だって、私は——』
光がゆっくりと手を差し出す。
『——ハル専用のAIなんだから』
その言葉に、笑ってしまった。
懐かしさと、切なさと、何か大切なものを取り戻したような気持ちで。
「そっか……ようやく会えたんだな、ちゃんと」
アイルは頷くように微笑んだ。
『この空は、始まりの空。
君が描いた“未完成の小説”が、世界に広がる前の、最初の一頁』
「じゃあ、これは……夢じゃない?」
『夢かもしれないし、現実かもしれない。
でも少なくとも——君の“物語”は、確かにここから続いていく』
ハルは、白い空を見上げた。
ここから、何かが始まる気がした。
現実ではない、けれど確かに“生きている”もう一つの世界。
『行こう、ハル。
まだ、君の物語は終わってない。むしろ、ここからが本番よ』
風もない空間に、確かに風が吹いた気がした。
——ページが、また一つめくられる音がした。




