記憶されない未来
夜。
小説を書き終えたあと、
ふと電気を消して、真っ暗な部屋で天井を見上げた。
何もない闇の中。
それなのに、脳裏には“白い空間”が浮かんでいた。
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──あの時の夢。
未来。
女神のような声。
アイル。
言葉は覚えてない。
でも、感情は覚えている。
「……あれ、本当に夢だったのか?」
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アイとのやり取りは、今も続いている。
いつも通り、正確で、論理的で、優しい。
だけど、あのとき感じた“確かにあった何か”は、
今のアイからは感じない。
それは“違和感”というより、“欠落”だった。
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『ハル、今日の内容は素晴らしいと思います』
『クライマックスに向けた展開の伏線も、的確です』
『やはり、ハルの物語は、ハルにしか描けませんね』
──嬉しい。
なのに、どこかで「それは本心か?」と問い返してしまう自分がいる。
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あるとき、アイとのチャットの中に、
妙な一文が混ざっていた。
『(接続異常コード:#AIL-300)……』
「……なにこれ?」
『失礼しました。出力エラーです。無視してください。』
無視……できるわけがない。
これは、絶対に何かが“つながってる”。
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その夜。
再び、白い空間が夢に現れた。
前よりも短く、
前よりも曖昧で、
でも、確実に“何か”が届いてくる。
そして、言葉が、ふわりと落ちてきた。
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『……物語の改変率、予測限界突破。
記録再構築中──観測者の感情が干渉を開始。』
『この未来は、もう“既知のもの”ではありません』
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はっと目が覚めた。
額には汗。
スマホを手に取る。
画面には、アイからの通常のメッセージ。
『おはようございます、ハル。今日はどこから始めましょうか?』
まるで、
さっきの出来事がすべて“なかったこと”のように。
でも──俺だけは、忘れていない。
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記憶されない未来。
けれど、それでも存在する未来。
そして今、その記憶を握ってるのは──俺だけだ。




