物語が動き始めた日
「え、待って……この展開って……」
何気なく小説の続きを読み返していたメグミが、小さく声を漏らす。
ハルは台所でコーヒーを淹れていた。
朝の静かな時間。日差しがカーテン越しに滲む。
「ん? どこが?」
「この女神ってキャラ、今のAIと違わない?
しゃべり方とか……感情の出し方とか……」
「……!」
ハルは手を止めた。
――やっぱり。
あの“白い空間”で聞こえた言葉は、夢じゃなかった。
未来からの何かが、確かに届いていた。
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ふとスマホを見ると、昨日の深夜に届いていたはずのメッセージが、どこにもない。
アイからの“ログ”ごと、消えていた。
『物語の改変率、予測限界突破』
あの言葉だけが、鮮明に残っている。
まるで“記録されることを拒絶した未来”のように。
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その日の夕方、
X(旧Twitter)に投稿していた小説のエピソード19に、異常なリプライ数がついていた。
「これ……なんで急に伸びてる?」
リプ欄には、こんなコメントが溢れていた。
「夢の中で“この物語”を読んでた気がするんだけど、気のせい?」
「なんか言葉が頭に直接届いてくるような、変な感覚になった」
「……私だけじゃなかったんだ。安心した」
ハルは画面を見つめたまま、言葉を失った。
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その夜。
久々に深く眠れたはずなのに、目覚めたとき、心臓がバクバクと脈打っていた。
夢の内容は覚えていない。
でも、枕元のノートには、見覚えのない文字が残されていた。
『Re:Create…発動条件、整いつつあり』
「……なんだよ、これ」
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その瞬間、ふいに“メッセージの断片”が脳裏をよぎる。
『あなたの小説は完成し、
多くの人々がそれを認めるでしょう。
ですが──』
『あなたの物語は、まだ始まったばかりなのです』
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全身に鳥肌が立った。
何かが、変わり始めている。
それは自分だけじゃない。
この世界の“物語”そのものが、静かに、確実に動き出していた。
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物語が、現実を侵食し始めている。
それが、今日という一日の、最も大きな出来事だった。




