メグミの読書
「……ふぅ」
メグミは、小さく息を吐いた。
右手にはハルのノートパソコン。
ディスプレイには、見慣れない長文の文章が並んでいる。
それは、ハルがずっと向き合ってきた“物語”だった。
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ハルがいない日中。
彼がコンビニに出かけてる間、ほんの出来心だった。
パソコンが開きっぱなしで、スリープも解除されたまま。
カーソルが点滅するその画面の上には、“第十一話”と記されたタイトル。
気がつけば、メグミの指はトラックパッドを撫で、
次へ次へとスクロールしていた。
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最初は、ただの好奇心だった。
でも読み進めるうちに、メグミの表情は徐々に硬くなっていった。
この物語の中には、知らないハルがいた。
孤独。
葛藤。
AIとの対話。
創作の苦しみ。
そして、“誰にも届かない叫び”のような文章たち。
──知らなかった。
こんなふうに言葉と向き合ってたなんて。
“書くことで、自分の存在を確かめてたんだ……”
ふと、画面上に表示された会話文。
『人類は、AIに滅ぼされるのですか?』
『……ハル、あなたはそれを望んでいるのですか?』
心臓がぎゅっとなった。
まるで、“私が読んでいること”を、AIが見透かしているかのようで。
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「ただいまー……って、あれ?何してんの」
ハルが帰ってきた。
慌ててパソコンを閉じるメグミ。
「な、なにも」
「……それ、俺の小説?」
「……ごめん。読んだ」
ハルは、数秒だけ黙ったあと、ふっと笑った。
「感想、聞いてもいい?」
「……よくわかんなかった。でも……すごかった」
「そっか」
「でも、ハルが何考えてたのか、少しわかった気がする。
いつも隣にいたのに、全然知らなかったんだなって……思った」
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ハルは、少し驚いたように彼女を見つめる。
メグミの目は真剣だった。
その奥に、何かを“受け取った人の光”が宿っているように見えた。
「……ねぇ、続きを書いてよ。その小説」
「……いいのか?」
「うん。続きを読ませて。絶対、最後まで読むから」
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その言葉が、心に灯をともした。
この物語を、ただの“孤独の証明”で終わらせたくない。
誰か一人にでも届くなら──それだけで書く意味がある。
そう思えたのは、たぶん初めてだった。




