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【完結】異世界への招待状 おじさんはそれなりにがんばる  作者: りのぺろ
第八章 四大都市ザイリアの街

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第71話 総力戦

――ドォォォォン!!!


凄まじい爆音と共に、水晶を切り出したような宿屋のロビーが一瞬にして粉砕された。

吹き飛ぶ氷の破片が、朝の柔らかな光を浴びて無数の刃となり、四方八方へと散らばる。俺は反射的に腕をクロスさせ、永久補正されたDEFと精霊のお護りの結界でそれを弾き返した。


「グギャギャギャギャ!」


煙の向こうから、雪崩のようになだれ込んできたのは、赤く濁った目を光らせたザイリアの住人たち――否、ハッキングシステムに自我を奪われた、おびただしい数の改造人間たちだ。その手には氷の結晶で出来た魔導銃や、不気味なノイズを放つ大剣が握られている。


「あるじぃ! プリンがみんなを足止めするのぉ~♪」


プリンは叫ぶ。

その小さな身体から、今までとは比較にならないほどの莫大な魔力と生命力の奔流が噴き上がった。村に置いていた三体の分裂体を完全に解除し、出力を100%に統合した彼女の真の実力。


「分裂……いーっぱいなのぉ~!!!」


ポン、ポン、ポポン、ポポポポン――!

ロビーの床を埋め尽くすように、青い髪に青い瞳をした小さな少女の姿が、爆発的な勢いで増殖していく。

十体、三十体、五十体……そして、その数は瞬く間に大台へと達した。


「おいおいおい。プリンさんや。いつの間にそんなに分裂できるようになったんですかい?」


「「「「「お邪魔するのぉ~♪」」」」」


なんと、百体のプリンが、宿屋の瓦礫の上に整然と並び立ったのだ。

一匹ずつ微妙に青の濃淡や髪の長さが違う百人のプリン。その壮観にして異様な光景に、突撃してきた改造人間たちの動きが一瞬だけ止まる。


「よし。子フェンリルたちもいけ!」


子フェンリルたちが、一斉に牙を剥いて飛び出していった。


「きゅっきゅー!」


ハムはあいかわらず俺の肩の上で、小さな身体をぷるぷると震わせ、鋭い前歯をカチカチと鳴らして威嚇していた。


「リリィが到着するまで、この宿屋を死守する! 敵は街全体だ、手加減なしで行くぞ!」


俺の叫びと共に、崩壊した宿屋のロビーを舞台に、世界の運命をかけた最終決戦が、唐突に、そして最悪の包囲網の中で幕を開けた。



「トルネード!!!」


ヴァイスが放った咆哮一閃、室内に荒れ狂う風の壁が出現し、突入してきた第一波の改造人間数十人を、まとめて外のメインストリートへと吹き飛ばした。


俺たちは崩壊した壁から、そのままザイリアの凍てつく大通りへと打って出る。

しかし、外の景色はまさに地獄絵図だった。

メインストリートの端から端まで、視界を埋め尽くすほどの赤黒い光点。宿屋を取り囲むように、数千、下手をすれば数万に及ぶ「住民」たちが、無表情に、しかし機械的な統率力で俺たちへと向かって行進してきている。


「数が多すぎるのぉ~! 水魔法・ウォーターガン百連射なのぉ~!」


百体のプリンが一斉に手をかざし、高圧の水のレーザーを掃射した。

ドババババババ! と、まるでガトリング砲のような凄まじい衝撃音が響き渡り、前列の改造人間たちの身体を次々と貫き、薙ぎ倒していく。

だが、倒れた彼らは痛みを感じないのか、あるいは肉体を無理やり繋ぎ合わされているせいか、ちぎれかけた手足をブラつかせながら、すぐに立ち上がって再び歩みを進めてくる。


「わぉーん(風の刃)!」


子フェンリルたちも、フェルイチを筆頭に十匹が連携し、縦横無尽に走り回りながら爪と魔法で応戦する。

彼らのレベルは既に40を超えている。並の冒険者なら一瞬でバラバラにする鋭い風の刃が、改造人間たちの集団を肉片へと変えていくが、敵の波は一向に途切れる気配がない。


「グオォォ!」


大剣を構えた巨大な幹部クラスの改造人間が、子フェンリルのフェルニに向かって切りかかってきた。

俺は一瞬だけ「能力3倍強化」を発動。


(SPD 158 ⇒ 474)


世界が完全に静止する。

俺は影移動でその幹部クラスの背後へと一瞬で回り込み、鉄の剣を首筋に叩き込んだ。お護りの永久補正が加わった俺のATKは243。3倍強化の乗った一撃は700を超え、大剣持ちの幹部を、分厚い装甲ごと真っ二つに叩き斬る。


「ふぅ……!」


着地と同時に強化を解除。

一瞬の発動でも、MPが数ポイント削り取られる。やはり、3倍強化の魔力消費量は尋常ではない。これを常時発動しなければこの大軍は捌ききれないが、このペースではリリィが到着する前に俺のMP(161)が先に干渉を起こして空っぽになってしまう。

戦いは、徐々に消耗戦の様相を呈し始めていた。


「ハハハ! 無駄だ! 無駄だ! この街のすべてが私の手足なのだ! いくら倒そうとも、代わりは無限に湧き出すぞ!」


街のあちこちに設置された魔導スピーカーから、堕ちた管理代行者の不快な笑い声が鳴り響く。

時間が経つにつれ、状況は悪化していった。

百体いたプリンの分裂体が、敵の魔導銃の集中砲火を浴び、一体、また一体と光の粒子となって消滅していく。

分裂体が倒されてもプリンの本体に能力が戻るだけなのでダメージはないが、分裂体を維持し、ウォーターガンを撃ち続けるためのプリンのMPは、確実に限界へと近づいていた。


「はぁ……はぁ……あるじ、プリン、ちょっと疲れちゃったのぉ……」


本体のプリンが、額に汗を浮かべて呼吸を乱している。百体のコントロールは、さすがのクイーンスライムでも脳(精神)への負担が大きすぎるのだ。

子フェンリルたちも、絶え間ない魔物の突撃と極寒の環境での戦闘に、次第にその動きにキレを失いつつあった。

ヴァイスだけが「トルネード」と「風の加護」を駆使して無傷で暴れ回っているが、その彼女の魔力も無限ではない。


「くそっ、リリィはまだか……!」


俺は『マップ共有』を脳内で展開した。


南の雪原。二つの光点が、猛吹雪を切り裂いてこちらへと向かってきている。

フェルミ、フェルヨ。その背には、小さく丸まったリリィ。

彼らは驚異的な速度で影から影へと跳び、疾走を繰り返しているが、あと少し、あと数キロの距離が、この乱戦の中では果てしなく遠く感じられた。


「グギャァァァ!」


さらに強力な、処刑人クラスの改造人間が三体、同時に俺たちの防衛線を突破して突入してきた。

俺は再び3倍強化を発動し、一瞬で二体を両断するが、最後の一体の魔導槍が、疲弊したフェルイチの脇腹をかすめた。


「キャン!」


「フェルイチ!」


俺は槍持ちの首を撥ねながら、倒れ込んだフェルイチを抱き起こす。プリンがすぐに初級回復魔法をかけるが、そのプリンのMPも残り僅かだ。


「限界、か……」


周囲を埋め尽くす、赤い目をした無数の人形たち。

彼らはじりじりと、しかし確実に、傷つき疲弊した俺たちをすり鉢状の包囲網へと追い詰めていく。

ヴァイスが俺の前に立ち、鋭い牙を剥き出しにして、最後の大嵐トルネードを練り始めた。自爆に近い、最大出力の風魔法だ。


「主よ、我が風で道を切り開く。その隙にプリンとハムを連れて逃げるのじゃ」


「嫌だ。ここまで来て、一人だけ逃げられるかよ」


中身がおじさんだろうが、家族を見捨てて逃げるような真似は、あのサブスクアニメの主人公たちだって絶対にしない。

その時だった。

俺の『気配察知』が、街の正門方向から、空気を切り裂くような凄まじい「風の唸り」を捉えた。


「「「ワン、ワオォォォォン!!!」」」


宿屋を囲む改造人間たちの後方が、突如として白い嵐に包まれ、何十人もの身体が宙へと吹き飛んだ。

吹雪を纏い、限界を超えた速度で戦場になだれ込んできたのは――


「フェルミ! フェルヨ!」


二匹の白いフェンリルだった。その毛並みは凍りつき、限界以上の影移動の繰り返しで満身創痍だったが、その瞳には強い光が宿っていた。

そして、フェルミの背中から、小さな身体を震わせながらも、必死に手を伸ばす一人の少女が、俺の視界に飛び込んできた。


「リリィ!」


「ムクノキお兄ちゃん……! お待たせ、しました……!」


リリィは極寒の旅路で顔を真っ青にしながらも、俺の姿を見つけると、その瞳に強い決意を宿した。

彼女はフェルミの背から滑り落ちるように着地すると、よろめく足で俺の元へと歩み寄り、冷たい両手を俺の胸元へと力強くかざした。


「私の……力……使って……お兄ちゃん!!!」


リリィの喉から、裂けるような叫びが上がった。


次の瞬間、彼女の身体から、天をも貫くような圧倒的な聖なる黄金の魔力の光柱が立ち上った。

その光は、凍てつくザイリアの暗雲を吹き飛ばし、濁った戦場を白光で満たしていく。そして、その魔力の濁流は、リリィの手のひらから、俺の胸元に輝く【精霊のお護り】へと、一直線に流れ込んできた。


【システム警告:個体『リリィ』より、規格外のMP譲渡(MPドナー)を検知】


【対象『ムクノキ』のMPが限界突破中:161 ⇒ 300 ⇒ 500 ⇒ 999(上限突破)】


「な、何だ……この魔力は……!」


俺の身体のすべての細胞が、歓喜の産声を上げるように熱く、激しく脈動し始めた。

枯渇しかけていた魔力が瞬時に全回復し、さらにその枠を力づくで押し広げ、無限とも思えるほどの黄金の魔力が俺の体内に満ち溢れていく。

リリィの【聖なる源泉】の真骨頂。

彼女がその命を賭して、俺という「剣」に、無限の魔力を注ぎ込み続けたのだ。

俺の身体から、七色の精霊のオーラと、リリィの黄金の魔力が混ざり合い、凄まじい光の波動となって周囲の改造人間たちを吹き飛ばしていく。

そして、すべての魔力を俺に託したリリィは、力なくその場に倒れ込みそうになった。ただでさえ極寒の地を急行してきた彼女の身体は、すべての魔力を放出したことで急速に体温を奪われ、凍えそうになっていた。


「リリィちゃん、あぶないのぉ~! プリンが温めてあげるのぉ~!」


それを見たプリンの一体が、すぐさまスライム形態の『断熱・発熱モード』へと戻り、リリィの小さな身体を優しく包み込むようにまとわりついた。

プリンは自身の体内で心地よく温めた水を循環させ、リリィの体温を内側から支えるように、必死に温もりを送り続ける。


「あったかい……お兄ちゃん……がんばって……!」


プリンの暖かなヴェールに包まれ、凍える冷気から救われたリリィは、意識が遠のきそうになりながらも、俺を見つめて微笑んだ。


「ああ、リリィ。よく頑張った。プリン、リリィのことを頼んだぞ」


「任せてなのぉ~♪ あるじ、やっちゃえー!」


俺は手首のミサンガを強く握りしめ、頭の中で、その「最強のスキル」の起動を確約した。


「能力3倍強化――常時、維持フル・キープ!!」


ドゴォォォォン!!!


俺の身体から放たれた七色の魔力光が爆発し、ザイリアの白銀の世界を、黄金の光で塗り替えていった。

真の覚醒。

世界のシステムを弄ぶ堕天使に、おじさんのそれなりの本気(無双)を見せてやる時が、ついに訪れた。

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