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第十二集「合格」

 許宇様の手であっという間に後ろ手に縛られた御仁は、兵士たちに連れられていった。


 そこでようやく俺は息を吐いて、室内を見渡した。

 足元で茶碗は割れているわ、布団はぐちゃぐちゃなうえ濡れているわ、文机の辺りは墨がぶちまけられているやらもう散々で、「ひど……」思わず呟いていた。

 呆然とする俺の傍らで、許宇様は連れてきた雑用係に部屋の掃除を命じる。「私たちは出ていよう」そう声を掛けられ、俺は許宇様に連れ出された。


 一階に下り、開かれた扉から外に出る。

 昨日は青白くおごそかに光っていた白砂が、今日は天上の陽光を受けてキラキラ輝いていて、其処此処で談笑する留学生や役人が行き交う姿が見受けられた。


 今の騒動がまるで嘘みたいに、平和な光景だった。


 そぞろに歩く彼に付き従いながら、人気がなくなったのを見計らい、俺は訊いた。

「私が狙われていると、ご存知だったんですね」


 許宇様は俺を真っすぐに見ると、小さく頷き、

「状況的にな。それに――あいつがおまえを見る目が、いつも薄暗かった」

 そうなの!? 許宇様を見返したら、彼はふっと笑って、

「やはりそこには気づかなかったか。まあ――その甘さが、おまえのいいところでもある」


 不意打ちの笑顔に思わず目を逸らしてしまった。

 取り繕うように俺は白々しい咳をしてから、改めて彼に目を向けて、

「本当は、私が許宇様を庇ったんじゃなくて、許宇様が私を庇ったんですよね?」


 鋭い目が、こちらを向いた。

 一転したその凄味に俺は息を呑んだけれど、あえて彼に笑いかけ、

「昨夜は、たまたまふらついたら、私はあなたの袖を引いてしまったのです。なのにあなたは『また助けられた』と敢えて言った。私に、そう思い込ませるために。そして暴れ馬から私があなたを庇った事実もない。何故なら、今朝会った留学生が誰も、それに触れてこなかったから」


 名誉の負傷だというのなら、誰もがそれを称えるだろう。

 少なくとも、大伴くんは。


 許宇様が壱岐くんにそう思い込ませようとしたのは、彼を安心させるためか。


 ――いや、違うな。


 自分が狙われていると知った壱岐くんが犯人をおびき寄せるだろうことを見越していたんだろう。

 つまり俺も、まんまと許宇様の策にのせられたというわけで――。


 突然、許宇様が足を止めた。

 それに倣った俺の目の前で、彼は天を仰ぐ。口元が笑っているように見えるのは、気のせいだろうか。


 彼は一つ大きく息を吐くと、柔らかい目で俺を見下ろして、言った。

「合格」


「――は?」

 呆けた声を上げる俺に、許宇様ははっきりと笑った。

「正しくは――再合格か。すでに真仁には一度話をしてある。彼は悩んでいたけれど、最終的には同意した」


「何を?」

「おまえが私の『しーつぉ』になること」

 

 ――シーツォ? 

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