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新たなる世界を君と共に  作者: 園崎茶々
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第八話 向かうべき場所

「ど、どこ向かえば良いって、は!?ちょ、昨日の話聞いてた!?」

「いや、聞いてたけど……」


開いた地図をまじまじと見つめる。この地図は所謂、世界地図というやつらしい。地図の読み方なんて学生の時にやってからそのままで、何も覚えてない、というか全部忘れている。兎に角一通り上から下まで地図に目を通してわかることは、最北端に周りを海で囲まれた大きな国、サリオがあること。現在俺たちが足を踏みしめている大陸はマベネオ大陸と言って、かなりの国や都市があること。それくらいだ。一応、こちらの言語も難なく読めることは出来るけど、書いてある情報量が多すぎてよくわからない。やっぱり準備期間が少なすぎるんじゃないか。ハードモード異世界転生、か……


「ちょっと貸しなさい!私が丁寧に教えてあげるから聞き逃さないで!」


セシルに地図を横から取られる。歩きながらになるが、説明をしてくれるらしい。これがツンデレというやつか……いや、ただ呆れてるだけかもしれない。なんか説明させてばっかりで申し訳ないな。


「ごめん、ありがとう……」

「全く、グレイったら。あぁでも、記憶喪失なら仕方ないのよね。あーあ、前はこんなんじゃなかったのに……」

「ぐぅ」


なんとも耳が痛い。肩を落としながら、鞄からメモとペンを取り出して聞く体勢に入った。


「いい?これは宛のない旅じゃない。私達は魔王を倒しにいくの。だから旅の最終地点はここ、サリオの魔王城。それはわかるわね?」


セシルは地図の最北端、サリオを指をおいてそう言う。確かに、俺は勇者として選ばれて魔王を討伐しにいく。だからサリオに行くのは必然なのだ。やっぱり、あんまり実感はないけど。


「だけど、ここからサリオはすーーっごく遠いの。だからそれまでは色んな街や都市を巡って、向かっていくの。勿論、向かうだけじゃダメ。なんでかわかる?」


頭を捻って考える。こういう時RPGではお使いだの新たな仲間を探すだののイベントが挟まるはず。と、言うことは、強さが必要ってことだろうか。


「えーっと、強くなるため?」

「20点。全然ダメ」


本当に何もわかってないのね、みたいな軽蔑の目を向けられる。一応記憶喪失ってていなんだからもっと優しくしてくれても良くない?手厳しいな……

しょんぼりしているとセシルが話を続ける。


「確かに貴方は予言の書に勇者として選ばれた。だけど、まだまだ弱い。それはグレイ、貴方だけじゃなく、私も同じこと。だから旅を通して経験を積んで、強くなるのは必須事項。でもそれだけじゃ足りないの。経験だけじゃない。お金、仲間、装備。重要なものが何も揃ってない」

「ほう、確かに。お金も持たせて貰った分じゃ長くは旅できないよな」


ちらちりと鞄の中に入っている財布を取り出して中身を見る。日本円とは違う、いかにもな銅貨、銀貨、金貨が並んでいる。一応これでも三ヶ月分のお金らしい。まだ計算は難しくて出来ないけど……大体金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨が百円という割り振りらしい。ざっと説明を聞いた時の感覚だから多少のズレはあるかもしれないけど。


「だからまず、私達はサリオを目指すために北へ移動しながら、街や村を巡って、そこで色んな人の手伝いやお仕事をしてお金を稼いでいくの。国の出入りが好き勝手できるといっても、宿屋に泊まるのも、レストランで食事をするのにもお金は必要だからね。で、お金がある程度溜まったり、要塞やダンジョンで素材が手に入ったら鍛冶屋に依頼して一層強い武器や防具を手に入れる。魔王はとっても強いから、今の田舎オンボロ装備じゃ一撃で死んじゃうわ」

「は、はへー」


本格的にRPGだ。それにこういう展開、よく異世界転生もので見かけたな。俺も同じ道を通る……在り来りだけど面白そう。よし、乗ってきた!


「なんかテンション上がってて怖……話終わってないんだけど、続けていい?」

「あ、うん!」


右手を握りこんで拳をつきあげようとすると怪訝な顔をされる。そりゃそうだ。


「私達のパーティには、まだ二人しかいない。貴方は前衛の剣士、私は後衛の僧侶。一応私も攻撃魔法は使えるけど、やっぱり専門職の魔法使いが欲しいわね。あと、前衛がもう一人いると心持ちは軽くなるかなぁ。少なくとも、あと二人!パーティには必要。その仲間を探す必要がある。世界各国には強い人達が多くいるから、そこにいる人から引き抜けたら最高!なんだけど……」

「なんだけど……?」

「わからない?」


真顔で聞かれるとしり込みしてしまう。やっぱりあたりキツくないか?俺の今の状況が変な人なのはわかるけど、傷つくものは傷つくんだよー!

わからず口ごもっていると、セシルは溜息をつきながらも説明を続けてくれる。


「予言の書は毎年勇者を選んでる。つまり、その数だけ勇者が世を旅してることになるの。だから、魔王を倒したいと思ってる強い人は既にどこかのパーティへ引き抜かれてる事が多いの。期待は出来ない。ならば、グレイ。貴方はこういう時どうする?」

「どうする、か……」


セシルに聞かれて考える。そんなもの強くなるしかない。才能ある人を探してきて、その人の得意な事を伸ばせば、だろうか。


「これから強くなりそうな人を探して一緒に強くなる!かな」

「30点。妥協点ね」


コツコツ、と靴音を鳴らして俺の少し前を歩いてこちらを振り向く。じっとりと見つめる視線が痛い。


「言ってしまうけど、私達にそんな観察眼は無い。だから、仲間になった人には確実に強くなってもらう。そのために、旅に出ていない世界各国の強い人達の所を巡って稽古をつけてもらうの」

「それは、またまた……」

「果てしない道のり、でしょ?」


セシルは目を閉じて微笑む。


「何年かかるか分からない。そもそも、私達より先に他の勇者達が先に魔王を討伐しちゃうかもしれない。それか、サリオに到達する前に死んじゃうかもしれない。でもね、グレイ」


セシルが目を開く。覚悟の決まっている目つきだ。木々の緑を反射して、美しい色を俺の目に届けている。


「これが予言の書に選ばれた貴方、そして私達が生涯をかけて、私達がいたという証明をする為の物語なの。後悔は絶対したくない。振り返れない、そんな旅」

「そんな、旅……」


難しい話は分からない。だって俺、頭良くないから。それでも俺の目に映るセシルは、とても強かで綺麗に見えた。


「グレイ、約束して」

「約束?」


地図を脇に挟んで、セシルは俺の手を取って握りしめる。暖かくて柔らかい、少女の手。


「うん。あのねグレイ。私よりも先に、死なないでね」

「死……ッ!?」


あまりにも重い約束だ。そう、これはRPGのようで、俺からしたら現実なんだ。だから、旅にはいつも死が隣り合わせになっている。旅の序盤の序盤、そこで実感させられたのが辛い。でも、これで俺も覚悟を決められる。


「なあ、セシル」

「うん?」


俺はセシルに問いかける。俺は今覚悟を決められた。ならば、セシルは?セシルはいつから覚悟を決めていたんだろう。


「お前はどうして、そんな旅についてきてくれるんだ?」

「えー、ふふ。そんなの決まってる」


悪戯っぽく笑うセシル、手から伝わる体温が鼓動と同化して、混じりあってしまいそうな。


「死ぬなら貴方の隣が良いから」


セシルはそう言うと、パッと手を離した。

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