第三十九話 誰?
「あの、えーっと……どちら様……」
そこに立っている人に目を向けてジロジロと上から下まで観察する。とてつもなく長い銀髪をポニーテールにしている。髪を括っているにも関わらず、膝下まで伸びている髪だが、木の葉一つついていない。こちらに向いている真っ赤な瞳は底なし沼のように深い色で、なんだか怖い。そして特質するのは肌の色と目鼻立ちだ。雪と同じように白い肌の上に、ドロテアに負けない程の美貌の持ち主。そのせいだろうか、目の前のこいつが男か女かわからない。かなり中性的だ。
村の人ではなさそうだけど……というか、先程の村でこの様な目立った人は見たことがない。
なんというか、色素が薄いところに黒を混ぜて、存在を主張しているような感覚。かなり近寄り難い。
「僕はリン。リン・リバジェル。気軽にリンって呼んでくれて構わないよ!」
しかし彼?はそんな事も気にせず明るい声色で語りかけてくる。名字がある人に会うのは初めてだ。昔の日本みたいに、一部の人にしか与えられないシステムなんだろうか。だが、今はそんな事を言っている状況ではない。逃げてきたとはいえ、すぐ近くにグリーンドラゴンがいるのだ。
「あのー。リンさん。今そういう状況じゃなくって……」
「え?なんで?」
おずおずと言えば、首を傾げて不思議そうにしている。っていうか、ぐい、とこちらに顔を近づけて来るのはなんなんだ。美人は距離感バグになる法則でもあるのか?赤くなる頬に心の中で言い訳しながら、グリーンドラゴンから逃げてきた方向を指さす。
「ほら、あっちにドラゴンが……」
「どこどこ?あ、本当だ。おー」
リンはそちらをを向いて目を凝らせば、納得したようにぽんと手を叩いた。いや、ここから見えないだろ……
「変なの来ちゃった」
「村の人じゃないよな?」
「どうする?これ」
少し離れた隙を見計らって、俺とセシルとディアークの三人でひそひそと話す。この人から逃げるべきだろうか。危ない人だったらどうしよう。
「なあ人間」
またリンが話しかけてくる。変な二人称だ。
「人間、って。俺達のこと?」
「うん。だって人間でしょ?0.5くらい違うの混ざってるけど」
一応確認をとったら俺達のことであっているらしい。なんでそんな訳分からん言い方をするんだ。というか、気になる事がある。
「……0.5ってなに?」
「まぁ、面倒だから纏めて人間でいいよね。人間、君たちはあれをどうかしたいの?」
無視された。変なやつ。それに人間って呼ばれるのなんか嫌だな。これ、うさぎがうさぎちゃーんって呼ばれる感覚と同じなんだろうか。大変不服である。そういうこいつは人間じゃないのか?
「人間……俺にはノーテルって名前がだな」
「そうだそうだー!名前でよべー!」
「銀髪やろー!」
セシルとディアークも同じことを思ってたらしい、一緒に抗議してくる。リンは口を尖らせて、首を捻っている。
「えー。でもさあ、君たち名乗ってないでしょ。えーっと、ノーテル?と、あと誰?」
それはその通りだ。セシルとディアークは顔を見合わせ、それぞれ口を開く。
「私はセシル」
「俺ディアーク」
聞けば、うんうん、とリンは頷く。そして言った。
「んじゃ人間たち」
「ねえ、聞いた意味ある?」
関係なかったらしい。それとも人名を覚えられないのか。まあ、どうでもいいけど。リンはそんな事をお構い無しに言葉を続ける。
「質問に答えてよ。あれどうにかしたいんじゃないの?」
親指で先程俺が指さした方を指す。グリーンドラゴンがいた方向だ。
「あれ、って……まあ。ドラゴンを討伐しなきゃいけない、んだけど……」
できない。とは言い難いよな。口ごもっていれば、リンはにっこりとして此方を見てくる。なんだなんだ、気色悪い。怖がっていれば、リンは俺の手を取って引き寄せ、耳元でボソリと囁く。
「僕が手伝ってあげようか」
いきなりの事で驚いたが、手伝う、と言ってくれるのは心強い。リンの方を向いたら明らかに唇が触れそうになって危ないので、視線だけ向けて空いてる手でガッツポーズを決める。
「えっいいの!?助かる助かるー!」
「待ってノーテル、こいつ怪しくないの?いきなり現れて、手伝ってくれるなんて虫が良すぎる!」
後ろからセシルの声が飛ぶ。俺はハッとしてガッツポーズを降ろした。
「……確かに。お前!何が目的だ!」
セシルの言う通りだ。俺はリンの手を振り払って後ろに一歩下がるが、リンは両手を腰にあて、残念そうな顔をしている。
「なんか警戒されてるなぁ。じゃいいの?君たちであれ倒せる?」
ぐさりとその言葉が胸に突き刺さる。倒せるかと言われたらわからない。これからまた作戦を練り直すところだったし、死にたくないし、どうなるかわからないし……
「それは……」
「なあ、ノーテル」
もごもごと口を動かしていれば、後ろからデゥアークが囁いてくる。
「なに」
「こいつに倒して貰おうぜ。強いかわかんないけどせめて盾くらいにはなるだろ」
「……それもそうか」
リンと言うやつには悪いが、それが一番いいかもしれない。申し訳ないが、ここは心を鬼にしてリンに盾になってもらおう!
「聞こえてるよー?」
リンが俺とディアークの間に入って来ようとするが、聞かなかったことにする。
「こほん。兎に角、あれだ。倒したいと思ってるし、正直手は借りたい!ので!一緒に倒してくれるか?」
「大丈夫かなぁ」
「何かあったらノーテル置いて逃げようぜ」
「それはダメ」
俺がリンにそう言っていれば、後ろでセシルとディアークが話している。セシルは優しいな、と思いつつ、ディアークは裏切ったら服が弾け飛ぶのを忘れてるのだろうかと思うと呆れてしまう。
「よーし、じゃ、頑張ろうね」
そんな二人を他所に、にこやかに微笑むリンが片手の手袋を外し、手を差し出してくる。
「お、おう……」
俺がその手を取れば、ぎゅっと握手をされる。気の所為か、かなりリンの手は冷たかった。




