第三十六話 ドラゴンに向けて
戻ってきたセシルに案内され、村の唯一である武器屋へと足を運んだ俺たち。しかし、やはりと言うべきだろうか。村は村。そして大半の村民は農業や畑仕事を生業としている。隅々まで探しても、綺麗な武器や強そうな武器は見当たらなかった。
「ドラゴン相手にナイフって、刃通ると思う?」
ディアークがその辺に置いてあったナイフを手に持ち、クルクルと手の中でまわす。成程、扱いには長けていそうだ。だが、ドラゴン相手か……
「無理でしょ」
「無理だな」
もっと切れ味が良かったり、素材のいいものだったりしたら太刀打ち出来るのかもしれないが、ここのナイフでは無理だろう。
「ですよね」
ディアークはわかってたけどさ、とナイフを元の場所に戻す。扱いに長けているから使って欲しいのはやまやまだが、相手が悪すぎる。
「剣にしたら?これなら少しは傷つけられるんじゃ?」
「俺剣きらーい」
セシルが剣の置いてある方を指させば、ディアークはぷいと顔を背けた。理由は定かでは無いが嫌いらしい。それでいいのか、お前。
「好き嫌い言わないの!」
「あだだだだだだ!ごめん!ごめんって!」
怒ったセシルに頬を抓られている。よく失言するせいで、頬を赤くしているディアークは見慣れたが、毎回痛そうだなぁと思う。学べばいいのに。
「取り敢えず、これから先の事を考えると、ドラゴン退治以外でも戦うだろうし、ナイフは幾つか買っていくとして……どうしようかな」
「あ、これは?鞭だって!」
「鞭で鱗に傷入らんだろ」
セシルが黒い蔦で編まれた縄を取り出して見せてくる。面白い武器もあるもんだな、と思ってみたがかなり素材が柔らかい。思い切り振っても、ドラゴン相手には意味無いんじゃないだろうか。しぶしぶセシルは縄を戻すが、とうとう痺れを切らしたのか機嫌悪そうに眉を顰める。
「じゃあどうするのよ」
「痛い痛い!ギブギブギブ!」
そのままディアークへと手を伸ばし、ディアークの逆方向の頬がセシルによって抓られ赤くなる。そろそろ可哀想だ。助け舟を出すか、と辺りを見渡せば、良さげば武器を見つけて手にしてみる。
「あ、じゃあこれは?」
槍だ。長物は嫌らしいが、剣や斧よりは比較的に振り回しやすいんじゃないだろうか。それをディアークに渡してみる。
「ん?これ……槍か」
「先っぽナイフみたいだし、やーってやればいけそうな気がする」
槍を手に持ったディアークは、
持ち手を握ったり、先についた刃物の状態を確認している。
「気がするって、適当ねノーテル」
「セシルの選んだ鞭よりはマシだと思うけど」
「なんですって」
セシルが口を曲げた。不味い、引っぱたかれるのはごめんだ。
「タンマ!俺が悪かったよ!ここはディアークに決めてもらおう!?」
手を合わせて謝れば、出しかけていた手を収めてくれた。助かる。セシルはそのままディアークの方を向き、様子を見ている。
「そうね。で、どう?」
「うーん……」
ディアークはそのまま少し悩んだあと、決めたのか槍を肩に担いだ。
「槍にしようかな。使い勝手よさそうだし」
「なら決定で」
全員の武器が揃った。またディアークのせいで財布が寂しくなったが、仕方ない出費だ。これで戦いの準備は万全。……万全?だ。
「丸腰の無能がいなくなったところで、ドラゴン討伐しにいかなくっちゃねえ」
「明日じゃダメかな……」
「ダメだろ」
ドラゴン討伐。今まで狩った魔物で一番大型だったのはホワイトウルフだ。正直言えばとてつもなく怖い。ニードルラビットサイズのドラゴンだったり、めちゃくちゃ弱かったりしないだろうか。しかし、村人の脅えようからしてそれはないだろう。覚悟を決めるしかない。
「仕方ないわよ。村人からしたら夜も警戒してないといけないし。一刻も早く討伐しないと、下手をすれば私たちも寝てる時に襲撃されかねないわ」
「セシルって意外と強かだよね……」
淡々と言葉を紡ぐセシルを見る。俺の中身が変わったって知った時はかなり動揺していたのに、今ではもうこんなに強くなっている。驚きだ。成長が早すぎる。
「仕方ない事は仕方ないのよ。ほら行くわよ!」
「はーい……」
俺とディアークはセシルの横に並び、ドラゴン討伐の為に辺りを散策する事になった。




