第三十四話 次の村へ
「ありがとうございました。助かりました!」
無事にニードルラビットを倒せば、村人が駆け寄ってくる。案外抵抗はなく、サクサクッと倒すことができた。ニードルラビットが弱いのかどうかは分からないが、確実に俺は強くなっている。嬉しい。
「いえいえ、これくらい」
「それじゃ、俺たちはこれで」
嬉しい気持ちを抑えつつ、颯爽と立ち去ろうとすれば、村人から声がかかる。
「あ、待ってください!これどうぞ」
どさ、と言う重い音と共に、俺たちの両手は村人から渡された野菜で埋まる。人参、レタス、トマト、きゅうり、なす。見たことのある野菜が沢山。しかもどれもつやつやと美味しそうに光り輝いている。
「おお、こんなに!ありがとうございます!」
感謝を述べれば村人はにっこりと微笑んでくれる。そして、旅立つ俺たちを見送って手を振ってくれた。
「冒険者さんたち、ご達者でー」
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村から出て数時間。改めて地図を開き、近くの村を探す。セシルがそれを覗き込めば、指先で距離を測っている。
「えーっと、ここから近い村は……大体二週間かかるわね」
「遠っ!」
「まぁそんなもんだろ」
二週間。つまり二週間は硬い地面が寝床。考えただけで辛い。しかし、先程貰った野菜がたんまりある。食料に困らないのは良いところだろうか。ディアークは慣れてるっぽいが、はやりベッドで寝る生活が多かった俺からすると苦しい。そのうち慣れるんだろうけど。
「目的地のドラシェンままで確実に近づいてるから、頑張らないとね」
「ドラシェンまではあとどれくらいなの?」
俺たちがいるのは地図上で言えばかなり下の方だ。そして、そこから少し上の方に行けばドラシェンがある。
「うーん、この距離だから……大体一ヶ月」
「ひょー……」
一ヶ月。途方もない時間だ。途中途中で魔物を狩ったり、休憩を多く挟むことも想定すれば多く見積って一ヶ月半。
「にしても、腐っても勇者さまなんだろ?なんか凄い魔法使えないのか?脚力でもいい」
「使えたらもうしてる」
「確かに」
ディアークがこちらを覗き込んでくるが、どうしようもできない。生憎勇者という称号を与えられているだけで俺、というかグレイという人間はただの剣士だったのだ。この身体に入って結構経つが、特別な能力を持ち合わせていないのは俺も理解していた。
中身の俺は異世界転生者なんだから、何か凄い能力が与えられてもおかしくないのでは?と思ったこともあったが、残念ながらそういうものも一切なかった。僧侶がいるから、この世界にも神様は存在するんだろうけど、目の前に現れたり、声が聞こえたりもない。転生者に優しくない世界だ。ライトノベルやアニメで見てきた知識があるせいで、定期的に現実は渋いなぁと感じてしまう。
「「「……」」」
考え事をしながら歩いていれば会話が止まる。俺は別に構わないし、ディアークも特に気にしていないようだったが、セシルだけソワソワしている。何か声をかけてみるか、と声を出そうとすれば、セシルが先に沈黙を破った。
「……ねえ」
「んー?」
「歩いてる時って暇よね」
「そうだな」
「おう」
暇というか、それくらいしかすることがない。ブレスレットのおかげか魔物が寄ってくることも少ないし、出会ってまだ日が浅いから切り込んだ話も悪いだろう。
「これから長い旅になるんだし、身の上話でもしない?」
だがセシルはそうではないようだ。ワクワクと興味ありありな表情で俺たちを見てくる。
「って言われても、俺なんも話すことないんだけど」
「俺もー」
俺は転生者だし、あっちの話をしたところで面白いことはないだろう。それに、ディアークは俺が転生者なのを知らない。わざわざ言って、根掘り葉掘り聞かれても面倒だ。あと単純に、フリーターとして自堕落に過ごしてたのを知られたくない。
「好きな人のタイプは?」
「突然恋バナ始まった」
「頭ポンチ?」
突然の恋バナ。女の子だし、やはり恋愛ごとが好きなのだろう。しかしセシルと言えば、ディアークの暴言にカチンときたのか手をあげ、ディアークの頬を叩く。かなりいい音がした。
「痛ァ!」
「今のはディアークが悪い」
「そんなぁ……」
実際ディアークが悪いと思う。赤くなった頬をさするディアークだが、かなり痕が痛々しく残っていた。可愛そう。
「なら、好きな人のタイプは?」
むすっとした顔をしているが、セシルはそのまま恋バナを続けた。随分難しい事を聞いてくる。
「うーん、好きになった人が好き」
「優しい人」
「面白くない……」
「「そんな事言われても……」」
俺とディアークが口々に答えるも、満足いく答えではなかったようだ。というか、皆そうじゃないか?詳しくこんな人が好きだ、って言っても理想高すぎるって切り捨てられそうだし。
「じゃあ聞くんだけど」
「ん?」
ギラりとセシルの瞳が鋭く光る。あ、いつもの怖い目だ。ごくりと喉を鳴らして次の言葉を待つ。
「それって同性でもあり?」
「えっ」
「は?」
びっくりした。俺のいたあちらではジェンダーだのなんだので、そういうセクシャル的なものは受け入れられつつあるのだが、こちらではそうではないのだろうか?セシルは同性が、好き?分からない。が、踏み込まない方が良さそうだと思う。ディアークはなんだが困った顔をして真面目に考えているみたいだが、俺は適当に流すことにした。
やっぱりセシルは、なんだか怖い。




