第二十八話 全裸
「「「……」」」
木々の隙間に男はいた。いた、と言うより、ナメクジみたいな見た目の魔物に全身で締め付けられ捕まっていた。全裸で。
「……あの」
「なんすか」
男がしょんぼりとしながら俺たちの方を見る。バンダナ以外の布がなくなり、頭の上にブレスレットが乗っている。動けなくなっている彼はかなり滑稽だ。しかも全裸だし。
「これ、返すんで助けて貰えません?」
「嫌だっていったら?」
男が更にしょんぼりと肩を落とした後、息をすぅっと吸い込む。
「あのマジなんでもするんで。土下座するんで。謝るんで!あと良かったら服!服貸してーーーーーっ!!!!」
その男の叫びは、かなり情けなかった。
「……セシル、これなに?」
俺は叫びを一旦無視して、魔物を指差しながらセシルの方を向く。俺には魔物の知識が全くない。
「ジャイアントスラッグ。なかなか見かけないんだけど、ほら、ここ田舎だから……たまたまいたのかもね」
セシルが男の裸から目を逸らしながら質問に答える。年頃の娘には酷なものだろう。
「なんで全裸なの?」
「ジャイアントスラッグの粘液は服だけ溶かすの」
「なんで?」
「知らない……」
同人誌か!?エロゲか!?エロトラップダンジョンか!?なんで服だけ溶かすんだ!?おかしいだろ!
ああダメだ。セシルの目がばっちぃものを見る目になっている。
「あの、まじで。すみません。お助けください。本当にーーーー!!!!」
放置されていた男が必死にこちらに呼びかけてくる。バンダナの端が粘液で溶かされかかっている。可哀想に。
「セシル、これ助ける?」
「なんでも言うこと聞いてくれるって言うけど、胡散臭いよね」
「ねー」
頭の上に乗っかっているブレスレットだけ取り戻し、手首に装着し直す。これでもう俺たちの目的は達成されたわけだが。
ジタバタと身を捩らせて泣き叫ぶのはなんだか哀れだ。
「悪さしないって誓うから!嘘つかないから!マジマジの大マジ!神様に誓う!」
「なら契り交わす?」
「交わすーーーー!!!!」
叫び散らかす男にセシルが応答する。その中で気になる言葉が聞こえた。
「契りってなに?」
「僧侶が使える魔法でね、紙とペンがあれば出来るの。簡単な契約事をする時にオススメ」
僧侶って凄いんだな。解呪だとか回復だとか、そういうヒーラー特化のものだと思っていた。職業も多いらしいし、その辺も勉強しなければならないと思う。が、それはさておき、なんだか面白そうだ。
「へー、やろっか」
「じゃあ準備するから待ってて」
「うん」
「早くしてーーーーーー!!!!!!」
割と軽いノリで契りを交わすことになった。セシルは持ってきたメモに何かを書いている。
「できた、拇印失礼しまーす」
「あう」
書き終わった後、小さなナイフを取り出し、男の指先を切って指先をメモに押し付ける。ちかりと紙が光を纏ったかと思えば、そのメモはさらさらと塵になって消えていった。
「よし、助けてあげよっか。ノーテル、切り刻んでいいよ」
「よしきた」
これで契りは終わりなのか。いいものを知れたなと思いながら、鞘から剣を引き抜きジャイアントスラッグに向き直る。
「え、怖い。怖いかも。あっあっ、アーーーーーーーー!!!!!」
ジャイアントスラッグに巻き付かれている男の情けない男の悲鳴がまたもや森に響いた。




