第二十七話 盗賊
「あの場所に半年間もいたのか。初っ端からかなり出遅れちゃったなぁ」
「そうね、でもいいじゃない。結構楽しかったし」
二人の家から旅立ち、北へ新たな村を目指し歩みを進める。長い時間をかけて打ち解けられたセシルと会話をするのはとても楽しいものだった。
「まあな。あぁー。もう既にふかふかベッドが恋しい」
「この先近くに村は無いから……次眠るのは冷たい地面ね」
「まじかー……」
そもそもベッドで寝れる方が少ないのだ。だけれど、長くベッドで寝ていた俺にとっては少し苦しい。いや、結構苦しい。セシルもそのはずなのに、特に気にしていないようだ。
「でも、三日歩いたら一番近くの村につくわ。そこで泊まらせてもらいましょう」
「果てしないー」
三日なんて簡単に言うが、かなり遠い。転生前は車だの電車だの飛行機だの、移動手段はかなりあった為に徒歩で時間換算されるとどうにも気が遠くなる。電車だったら大体これくらいでつくなぁ、みたいなことが頭に過ぎるが、結局そんな事を考えても仕方ない。代わり映えのしない、木々と対して整備していない道を進んでいく。
「だらしないこと言わないの。そんな事言ってたらこの先大変……」
「おいお前、いいブレスレットをつけてるな」
「だろ、貰い物で……え?誰?」
反応が遅れた。セシルが俺に呆れた声を出したと思えば、間から聞こえてきたのはセシルとは似ても似つかない、低い男の声。
バッと慌ててそちらを振り向くと、赤い髪にバンダナを額に巻いている、見知らぬ男が立っていた。
「ちょ、ノーテル、剣を抜いて!」
「え」
セシルが叫び、胸のネックレスに手をかける。俺も剣のグリップに手を置き、引き抜く体勢をとる。
「おー?こりゃあ魔除のブレスレットか。高く売れるんじゃねえかなぁ」
男の手には銀色のブレスレットがあった。慌てて自分の手首を見れば、つけていたブレスレットが無い。
「んぇえ!?っは?」
「ボーッとしないで!盗賊よ!」
取られた。貰ったばかりなのに。
「あっえっ、ちょ!返して!」
男の方に手を伸ばし駆け出すも、触れ合うというところで避けられ、手が空をきる。
「返せって言われて返す盗賊いねーよバーーーーカ!じゃあな!」
「あっ!こ、こらーーーー!!!!」
男は舌を出して笑えば、走ってどこかに逃げていった。思わず叫び声が飛び出るが、当たり前のように待ってはくれない。
「いけない!ノーテル、追うわよ!」
「おう!」
セシルにそう言われ、俺たちは走り出した。
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「っ、くそ。逃げ足の速い……」
「回り込んで囲むわよ!ノーテルはあっち!」
「おっけー!」
道から外れ、木々の間を走り抜ける。相手もかなり足が速く、追いつくのは難しそうだ。
セシルは自分の走っている方向と逆の方向を指差し、俺に合図する。俺はその通りに別れ、赤髪の男を追いかける。
他のものを盗まれるならまだいいが、ドロテアが厚意でくれたブレスレットだけは返して貰いたい。
対して赤髪の男は、追ってくる男女の事を横目で見ながら木々を越えて走っていく。もうすぐで撒ける。撒いたら近くの村かどこかで売ろうか、幾らになるか。そんな事を考えていれば、横から何か粘性のある液体が男に飛んできた。
「っと、あぶねぇ。そんなのに引っかかるかよ。さっさと撒いて逃げちまお……んぉ?」
「グアァァ!!!!」
「ウオーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!?!?!!」
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向かっている先から男の悲鳴が聞こえてる。何かあったらんだろうか。
「ノーテル、さっきの奴の悲鳴よ!近くにいるのかも!急いで!」
「ああ!……んでも、なんで悲鳴?」
一度離れていたセシルが合流してくれば俺の横に並んでくる。冷静に分析するセシルは、逃がすまいと視線を鋭くさせた。
「魔物とでも遭遇したんじゃないかしら」
「へっ!こういう時だけは魔物に感謝だぜ!」
間抜けな男だ。直ぐに追いついてブレスレットを取り返してやる。




