第二十六話 向かう先
「俺たち、ここを旅立つ事にしました」
「ああ、わかった。短い間だったけど楽しかったよ」
戻ってきたドロテアとケイトにそう伝えると、ドロテアは安心したように笑みを浮かべ、優しい声でそう言ってくれた。
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げると、ドロテアは俺の頭をポンポン、と数度撫でて顔をあげさせた。視界にうつったドロテアは、最初出会った時みたいに近い距離にいた。
「そう急がなくていいだろうさ。今日ゆっくり準備して、明日旅立つといい。それに、そろそろ彼の名前をつけてあげないといけないしね」
名前。確かに俺はグレイではない。このままセシルにグレイと呼ばせるのも気が引ける。すっかり忘れていたが、ドロテアは考えてくれていたらしい。
「そういえばそうだったな……」
そう呟けば、ドロテアは俺から離れてケイトの方へ片手を差し出す。
「実はもう決まってるんだよ。ケイト、紙をおくれ」
「はい、ドロテア様」
ケイトが紙をドロテアに渡せば、ペンもないのにさらさらと紙に文字を書いていく。どうやら魔法らしい。
書き終えれば顔を上げ、その紙を俺に渡してきた。
「あんたの新たな名前だ。受け取るがいい」
俺はそれを受け取り、紙を見る。
「……!これが、俺の名前……」
異世界の見慣れない文字だ。でも、読める。俺の新しい、異世界での名前は
「ノーテル」
呟けば、ドロテアが満足げに首を傾げながらこちらを見つめてくる。
「このあたしが名付けたんだ。誇りを持って名乗るがいいさ」
「ドロテア様が命名する事などなかなかないぞ。良かったな」
ドロテアの言葉に反応するように、ケイトも腕を組みながら頷く。
「ノーテル。ええ、ノーテルね。大丈夫。刻み込んだわ」
セシルも、俺の名前を何度も呟いては頷いて、いい名前ね、と小さく零した。
それからその日はまた少しだけ修行し、ちょっと豪華な夕食を食べて眠りについた。ここでの暮らしも、最後になる。
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翌朝。纏めた荷物を持ち、扉の前に立てばケイトがいつもと変わらぬ表情で見据えてくる。
「ふん、またどこかでな」
ケイトは特に別れを惜しむ様子もなさそうだ。ドロテアは少し寂しそうに微笑んだあと、何かを思い出したのか一度部屋に戻って、銀色の何かを持ってくる。
「旅立つ前に、あんたたちにこれをあげよう」
「?」
俺とセシルがそれを受け取れば、銀色に光る腕輪が手のひらの中で輝いていた。思わず感嘆の声が漏れる。
「わあ、綺麗」
「魔除のブレスレットさ。多少の呪いなら跳ね返せる。無理はしないように」
「大事にします!」
俺はセシルと共に右手首にブレスレットをつけ、手を振りながら二人の家から旅立った。
次に会えたら、いっぱい思い出話をしよう。そう心に決めて。




