第二十二話 訓練⑤
地図を改めて見る。この周辺の地図だ。近くだけ書いてあるってのは嬉しいし分かりやすいが、魔物と戦うのだけはやっぱり怖い。
「おい、さっさと歩け」
「うぇーん……」
鉄の剣を腰に携え、ケイトの横を歩いていく。いやだと駄々を捏ねたいが、先程捏ねたらケイトにどつかれたので、腹を括ることにした。
地図の通りに進めば、そこは見えてくる。少し開けた場所に、一体の白い狼がいた。あれは見たことがあるからわかる。俺をボコボコにしたのを同じ魔物、ホワイトウルフだ。
「ケイト、あ、あれ……」
「剣を抜け」
分かってはいるが足が竦む。ケイトが冷淡にそういえば、俺は剣を引き抜いて構えた。
「行くぞ」
「ほぎゃっ!」
茂みがあって隠れられていたのに、ケイトにゲシッ!と背中を蹴られて飛び出すことになってしまった。じろりとホワイトウルフがこちらをみる。
「う、う、うわああああああああ!!!!」
「逃げたらダメだ、しっかりホワイトウルフを見据えろ」
ケイトも出てくるが、俺の後ろに立っている。何もする気がないようだ。それもそうだ。これは俺がしなければならない。己を鼓舞する為に訳の分からない言葉を叫ぶ。
「ぐ、あ、ううーーーー!!!!!」
「ほら、いけ」
ケイトはあまりにも冷静だった。魔物が目の前にいるというのに腕を組み、俺たちの様子を見据えている。
俺は握っている剣を強く握り締め、ホワイトウルフに斬りかかった。
「こ、このっ!!!!おらああああああっ!!!!!」
ガキン。牙で応戦され、弾かれる。手に振動が伝わってくる。
「ふむ」
「や、やっぱ無……」
一歩後ろに下がったところで、ケイトにまた止められる。次は手だ。
「ダメだ。行け」
背中を押される。なりふり構っていられない。俺は息を思い切り吸い込み、ホワイトウルフへともう一度振りかぶった。
「う、うわあああああああ!」
手に反動が伝わる。ホワイトウルフの首が真っ二つになると、頭は遠くへと飛んで行った。頭を失った身体が地面へと力無く倒れる。それを確認したケイトが、俺の隣まで歩いてきた。
「……ふん、よくやった」
「あ、あ、やったーーー!!!!!」
俺はホワイトウルフを倒せた。魔物を倒せたんだ。殺す、という行為にはやはり抵抗があったけど、この先そんな事は言っていられない。今はただ達成感に浸ろう。ケイトは俺の様子を見れば肩を竦めている。
「おめでとう、帰るぞ」
「う、うん!」
俺は剣を鞘に戻し、ケイトの方を見た。ケイトはホワイトウルフの亡骸を見つめると、ほい、と魔法でそれを持ち上げる。
「よし、行くぞ」
「ううあああああそ持って帰る意味あるーーーーー!!!?!?!」
殺したばかりの亡骸だ。首から血がボタボタと滴っている。恐怖!
「今日の飯だ」
「食うんだ!?」
「既に何度も食ってるだろ」
「食ってたんだ!!!?!」
驚きで愕然としていると、ケイトがさくさく歩き始める。突っ立ったままの俺に痺れを切らしたのか顔だけ振り返って舌打ちする。
「さっさと帰るぞ」
「あ、うん……」
俺はケイトの後ろをよろよろと歩く。腰が抜けかけたのか上手く歩けない。
「はぁ、にしても怖かっ……うぎゃ!」
「は?」
フラフラ歩いていたからだろう。足元にあった石に躓いてこけた。咄嗟になにかへ捕まろうとして手を伸ばし、何かを掴んだまま地面に顔面からダイブした。前から素っ頓狂な声があがる。なんだろうと顔をあげると、ズボンが足元まで下がっているケイトがいた。
「「…………」」
違う。俺の手の中にはケイトのズボンがある。理解した。俺は、転んだとき咄嗟に手を伸ばして、それで……ケイトのズボンを掴んでそのまま下げたのだ。ケイトが状況を理解すると、ワナワナと震え出す。
「くぁwせdrftgyふじこlpーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
「ごめっ、ぎゃ、アアーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない叫びをあげたケイトに、俺はボコボコにされた。




