第十八話 訓練②
「起きろ、訓練だ」
「まっ、待っで……」
昨日はしこたましごかれて、命からがら夕食を取れたと思ったらまた酷く叩きのめされた。泥のように眠って朝起きれば、今度は俺の目の前にケイトが立っていて、そう告げた。これは死刑宣告か?
「ねえ、まだ俺昨日の疲れ取れてない。てか着替えてもないし朝ごはんもまだ……アーーーーッ!!!!嫌ッ!やめてーーーーーっ!!!!」
「うるさいぞ雑魚!さっさとこい!」
かなり抵抗した方だったが、その抵抗も虚しく引き摺られて庭へと駆り出された。だけどこれはまだ序章の序章。それからの毎日は、かなり酷だった……
「おい起きろ、訓練だ」
「おい起きろ」
「おい」
「はよ」
「……お前、弱いな」
「うるさいやい!」
毎日朝早くに叩き起されて木の棒を握らされる。それだけじゃなく体力作りに山を昇り降りさせられたり、薪を背負わされたり、木に登らされたりした。基礎的な体力ももっとつけなければならない、と言うが、身体はよくても中身は小心者の二十七歳、アラサーのおじさんだ。肉体的な疲労もあるが精神的な疲労が辛い。ケイト、全然褒めてくれないし。
「今日で一週間か。この様子じゃ三ヶ月はここで訓練してもらわないとな」
「三ヶ月……そんなに!?」
早いもので一週間。だけどたった一週間。やっぱり一朝一夕でぐぐんと成長するわけがない。しかも弱い弱い言われてなんか萎えてきた。こいつモチベーション維持下手だろ。ムカついたので思い切り打ち込んでみるが、これもあっさりと受け流されてしまう。
「お前が弱いからだ。旅に戻りたいなら強くなって俺から一本とれ」
「ぐ、ぬぅうううう!」
木の棒と木の棒が衝突し合う。思い切り力を込めて押し返してやろうとするが、見事に払われて頭にてっぺんをぶっ叩かれた。痛いと呻いてる暇もない。ケイトはこちらを向き、挑発するように木の棒を構えている。
「来い」
「行くぞ!」
そう叫び勢いをつけて首元を狙う。しかしそれもカツン、と軽くいなされて終わる。ケイトは笑うこともせず、ただつまらなさそうにこちらの様子を見ていた。
「わざわざ掛け声を入れるな。俺を敵だと思え」
「う゛う゛う゛ーーーー!!!!」
確かにその通りだ。その通りだからこそムカつくんだよ!絶対に一本取ってやる!そう意気込んで腹に向かって木の棒を振り下ろす。
「……ところで」
「ん?」
ケイトはそれを横に避けて俺の手の甲にカツ、といつもより優しく一本叩き込んだあと、家の方に視線をやる。
「あの女、未だここに滞在しているみたいだが、結局仲直り出来たのか」
あの女、というのはセシルの事だろう。俺との仲を気にしているのか。
「あー、いや。全然口聞いてくれない。と言うか、沈んでいて話しかけづらい」
「……ふぅん」
特段興味も無いが、と言う素振りで返答されるが、これはもしかして。
「え、なに?もしかして心配してくれた?」
「んなわけないだろうが間抜け!俺はドロテア様一途だ!」
心配してくれた?と言うとバッとこちらを向いて襲いかかってきた。何時もはそんなことしない。これは確実に。
「あー!照れてる!」
なんだ、こいつにも可愛いところあんじゃん。にまーと微笑むとケイトは機嫌を悪くしたのか、片手で持っていた木の棒を両手で握り直し、思い切りこちらに振りかぶってきた。
「殺す!」
「嫌ぁ!突然の殺意ーーーー!!!!!!!!」
その日はいつも以上にボコボコにされた。ツンデレというのは、刺激しない方が吉だと、俺は身をもって経験した。




