第十九話 お話
「お前、少しはあの女と話した方がいいんじゃないか」
修行を始めてから1ヶ月経ったある時、突然ケイトがそう言ってきて、木の棒を置いて何処かにいってしまった。きっと行け、という彼なりの気遣いなんだろうけど……取り敢えず、部屋に戻ってきてみた。ちらりと扉から部屋を覗く限り、セシルは椅子に座ってぼぅっと窓の外を眺めるだけだった。意を決して俺は部屋の中にはいる。しかし、セシルは何も言わないし、こっちすら見てくれない。
「あ、あの、セシル……?」
「……」
おずおずと話しかけてみる。返答は無い。ちょこちょこと移動しながら向かい側の椅子に座る。
「セシル……さん」
「何」
やっと返事してくれた。だが、返事は上の空だし、やっぱりこっちを向いてはくれない。
「あの……お話を」
「……うん」
窓の外、遠くを見ている。やっぱりなんだか怖い。もしかして会話しない方がいいんだろうか。でも、折角ケイトが背中を押してくれたんだ。もう少し頑張ってみよう。
居心地の悪さを感じつつも、俺は切り込んだ話題を出してみることにした。
「俺の事、どう、思ってる……?」
「……ドロテアと、話をしたの」
質問の返答はなかったが、どうやら俺と会話してくれる気はありそうだ。取り敢えず、刺激しないようにとセシルの言葉に耳を傾ける。
「ど、ドロテアと……?」
「貴方について。毎日、毎日。心の整理をつけようと」
俺について。やっぱり考えてくれていたんだ。根は優しい子なんだろう。
「う、うん……」
「まだ、気持ちの整理はついてないの」
当たり前だ。正直反応には困るけど、いつかはどうにかしないといけない。俺は頭を捻りながらもどうにか言葉を絞り出す。
「そ、っか。俺は、何をすればいい、かな……」
「……ねえ、グレ……違う。クジカワ」
鬮川、俺の本名だ。覚えていてくれたらしい。少しむず痒い気持ちがある。
「どうした、の?」
「修行、してて欲しい」
セシルの願いは俺が修行をする事らしい。修行、修行か。当分はするつもりだけども……
「修行?」
「私、いっぱい考えて、いっぱい理解したの。だから、貴方が何も分からないのも仕方ないなって、そう思えた」
そこで一旦区切ると、やっとセシルは俺の方を向いてくれた。
「でもやっぱり、グレイがいないなんて信じられないよ。こんなにも近くに、グレイと同じ姿の人がいるのに」
「……」
そうだろう。突然そんなこと言われたら、俺だって信じることができない。痛いほど気持ちはわかる。
「私、貴方が旅に出れるようになる頃には、結論を出す。だから修行をしていて」
「わか、った……」
俺はセシルに返事をして、目線を合わせようとする。だけどもすぐにふい、と顔を逸らされてしまった。
「……ありがとう」
「ごめんね。俺のために沢山考えてくれて」
申し訳なさが積もる。俺からしたら俺のせいじゃない、好きでこうなったわけじゃないって気持ちもあるけど、だからってどうすることも出来ない。兎に角、いい方向に進むべきだと思う。
「……」
「訓練戻るね」
そう告げると俺は席を立った。扉を開けた時、後ろから声がかかる。
「いってらっしゃい」
「うん、いってきます」
震えた声だった。だけども、声をかけてくれたのが嬉しい。俺はそれに答えて、ケイトが待っているであろう庭へと戻って行った。




