第十七話 訓練
「これを持て」
「あ、うん……木の棒?」
ケイトから渡されたのは、かなり持ちやすい木の棒だった。俺が小学生くらいのガキだったら聖剣エクスカリバーだ!なんて言って持ち帰っていただろう。対してケイトも同じように木の棒を持って、こちらを向いている。
「お前みたいなやつと剣で打ち合っても意味が無い。弱いからな」
「ぐぅ……」
かなりはっきり言いやがる。正直は美徳だけど、優しさが欲しい。やっぱりドロテアの方に修行つけてもらいたかったなぁ。まあ、前線に出るタイプじゃないんだろうけど。
色々考えながら木の棒をニギニギと手のひらで弄んでいれば、ケイトが待ちくたびれたのか舌打ちをしてくる。
「ほら、良いから叩きこんでこい。はやくしろ」
「お、おう」
叩き込め、と言われても。ケイトはかなり油断しているように見える。木の棒すら構えていない。これはチャンスだ。俺は木の棒を両手で握りしめ、ケイトの胴体を狙って思い切り打ち込んだ。
「オラッ!あでっ!?」
刹那、ケイトに木の棒で受け流され顎に反撃を食わう。顎を下から突かれてかなり痛い。手加減されてなかったら脳震盪起こしてぶっ倒れてただろう。
「……弱」
「酷い!」
吐き捨てられた言葉に悔しさが浮かぶ。しかしそれは本当の事だ。
「お前、身体に魂が入って何日目だ?言ってみろ」
木の棒を肩に担ぎ、溜息まじりにケイトが聞いてくる。俺は記憶を辿るが、そういえばホワイトウルフにやられてから記憶がなかったんだっけ。その時の時間も換算すると……
「えぇっと……君たちが俺らを拾ってから、俺らはどれくらい眠ってた?」
「ざっと二時間だ。今日の昼過ぎに拾った」
二時間か。割と早い時間だった。つまり今日ホワイトウルフに吹っ飛ばされて、今日拾われて、今日修行をすることになったのか。昨日といい、かなりトントン拍子に話が進むな。
「なら二日目、かな。昨日気がついたんだ」
「へえ、可哀想に。何もわかんない状況で旅に出たのか」
「お前、思ったより理解がはやいな……」
ケイトはかなり飲み込みが良い。だからこそ魔法使いの癖に剣術もいけるんだろう。色々話しながらも、俺は木の棒を握りケイトへやたらめったら打ち込んでみている。
「俺はお前たちより頭がいい。ドロテア様の弟子だからな」
「ふーん」
なんだか自慢みたいで鼻につくな。実際、そんな強い魔女の弟子になれるってことは凄いことなんだろう。人生イージーモードかよ。ムカつく。
「……一旦打ち込むのをやめろ下手くそ。そこに構えて立て」
「え?おう」
打ち込んでいればケイトから静止がかかり、一度止めて構えてみる。剣道をやってるみたいでなんだか面白い。
「まず立ち方がダメ。背筋を伸ばして、剣は両手でしっかり握れ」
「お、おう……」
ケイトが俺の後ろに回り込んで、背中を突っつく。背筋をピンと伸ばせば、次は握り方を教えてくれた。正直何が違うのかよく分からない。
「一撃一撃が軽すぎる。もっと踏み込んで思い切りいけ」
「え、すっぽぬけない?」
思い切り。俺はそれでホワイトウルフを前にした時剣がすっぽ抜けてどうしようもなくなってしまった。嫌な思い出だ。
「馬鹿かお前、しっかり握れっていったろ。すっぽ抜かすな。ほら、来い」
「よ、よーし。うおおお!」
確かにケイトの言う通りだ。魔法使いの癖に、一丁前に出来るらしい。俺は上から目線で言うことでもないんだけれど。兎に角、俺はケイトに言われた通り、思い切り振りかぶって打ち込んでみた。が、それも見事に木の棒で受け流されてしまった。
「下手くそ。これなら会話しながらでも受け流せる」
「くそ、当たらない……!」
何度も何度も思い切り振りかぶってケイトを狙ってみる。だが、全く当たらない。全て避けるか木の棒で受け流されてしまう。その間もケイトは下手だの弱いだの言ってきやがる。口の減らないやつめ!
「これが木の棒じゃなかったら、お前は俺に殺されてたな」
「ぐぅ、ぬぅ……!」
悔しいが事実だ。正論パンチしか知らないのかこの師弟は!どうにか隙を作れないものか。というか、ふと一つ疑問が浮かび上がってくる。
「って言うか、俺たち二時間程度で起きれたのか。結構ボロボロにされたと思うんだけど……」
俺たちは二人まとめてホワイトウルフにやられたはず。なのに修行が出来るほどには動けている。不思議なことだ。包帯すら巻かれていないなんて、どういうことだろう。
「あ?確かにボロボロだったな。でも、治療したのはドロテア様だ。ドロテア様の魔法は最強格だぞ。あの女にも説明されてただろ」
「……成程。そりゃ綺麗さっぱり治ってるわけだ」
僧侶とか魔法使いとか、あんまり魔法の種類はわかってないけど、どうやらドロテアのお陰らしい。最強と言うんだから、やっぱり凄い使い手なんだろうな。
「俺はお喋りしてられるが、お前は喋ってていいのか?」
「うっ!」
関心していると、油断しているのを見破られてかケイトに木の棒で胴体を思い切り叩かれた。細い木の棒の癖に、かなり痛い……!




