第十五話 貴方
「俺の名前はグレイ、それでこっちは」
「セシルと申します。僧侶をやってます」
俺とセシルはドロテアに向かってベッドの上の再度お辞儀をする。顔をあげればドロテアの顔が近い。鼻と鼻が触れ合いそうだ。心臓が高鳴る。美しい……
「え、えと、助けていただいてありがとうございま……」
「違うね」
驚く間も無くドロテアの顔が更に近づく。唇と唇が触れ合いそうになる瞬間、ドロテアの口が開いた。
「あんたの名前、グレイじゃないだろう。本名を言ってごらん?」
「はい?」
後ろで素っ頓狂な声を上げたのはセシルだった。ドロテアはそちらを向くと、にこ、と笑った。異様な雰囲気が流れる。
「彼の名前はグレイです!それは私がよくわかっています!私はグレイの幼馴染です!」
「いいや、違うね。彼はグレイじゃない」
ドロテアはきっぱりとそう言い切る。セシルはわなわなと震えながら、何を言っているか分からないという様に困った顔をしている。何か言いたいことがあるんだろう。にしても、俺も困ってる。確かに俺はグレイでは無い。でも、なんでそれをドロテアは知っているんだろう。
「もう一度聞くよ。あんた、名前は?」
ドロテアの顔が再度近づく。いい匂いがする。
「……鬮川扇」
「クジカワオウギ、聞いた事の無い名前だ」
ドロテアは顎に手を当てて考える。だがそれを許せないのかセシルが口を挟んだ。
「だから、そのクジカワって……!」
「セシルと言ったね、酷なことを言うけど、彼はグレイじゃない。本人が言う通り、クジカワオウギという人間みたいだよ」
何度も名前を呼ばれると少し小っ恥ずかしい。だけど、セシルは信じられないようなものを見ながら声を押し出してる。
「はぁ……?」
「身体は確かに、あんたの言った通りグレイという男のものだね。でも、中身が違う。魂が別人なんだ。今の彼が入っているということは……魂は弾き出されたか、死んでしまったんだろうね」
「死……?弾き出された……?な、何言って」
セシルが俺を見つめる。揺れる瞳孔が動揺を示していた。ドロテアはそんなセシルの事を横目で見ながら、ずっと口元に笑みを湛えている。
「おや、あたしが嘘をつくとでも?」
「そういう、事を言いたいわけでは、なくて……」
セシルは俺へと手を伸ばす。そこにはなにかにすがろうとしているのがよくわかる。近づいてくる手が小刻みに震えている。
「あ、あの、なんか雰囲気が……」
「取り敢えず、あたしが新しい名前をつけてあげようか。セシルと言ったね。あんたも、その名前じゃ辛いだろう。さて、何が良いか」
「あっあっ」
ふむ、と考える素振りをしてはケイトの方を向いて何かを話している。そんな二人を置いて、セシルはベッドから飛び出して、俺の肩を掴んで揺さぶった。
「グレイ?グレイよね?貴方は、グレイよね?死んだなんて、そんな……嘘よね。だとしたら、貴方は。貴方は……!」
その瞳は虚ろで、どうしようもなく怖かった。




