第四百九十話 薔薇の騎士の最期
「みんな……!? 来てくれたの〜〜っ!?」
最大のピンチの場面に、テレビ番組の特撮ヒーローのように。あまりにもタイミング良く登場してくれた、コンビニ共和国最強のカフェ好き3人娘達と、いつでも頼りになる守護騎士のアイリーン。
そして、その他1名の男(杉田)の登場に……感動して、思わず涙で目をウルウルと潤ませてしまう玉木。
そんな玉木を元気付けるように、3人娘達はクルセイス達との間に強引に割り込み。
仲間を救出する為に、全員が決めポーズを取りながら。後方にいる玉木達を守る為の戦闘態勢を整えていく。
「あ〜〜っ! あそこにいるのはクルセイスじゃん!? うちらの宿敵が目の前にいるなんて、マジでラッキーじゃ〜ん!」
「そうだねー。ここは殺害された2軍のみんなの無念を晴らす為にも、絶対に勝たないとだねー!」
「うん。みんな気をつけてね。私達3人の力を見せてやるわよ! 杉田くんも、ちゃんと援護して頂戴ね!」
「――おうよ、俺に全部任せとけって! 何てったって俺はコンビニ共和国の生活担当大臣なんだぜ? 実質、彼方に次ぐナンバー2である『陰の実力者』と評判の男なんだから、存分にこの俺を頼ってくれよなー!」
完全に調子に乗って、浮かれている杉田に対して。3人娘達はそれぞれ、面白おかしそうに声を張り、
『――よっ! 生活担当大臣(笑)様!』
『さっすが、エロエロ大火炎魔神じゃ〜〜ん!』
『もう、あまり調子に乗らないでよね……杉田くん!』
と、口々に囃し立て。杉田の機嫌を更に調子に乗らせてしまっていた。
そんな学校のホームルーム時間のような、内輪なノリを見せている4人とは対照的に。
ティーナ達の前には、冷静な表情をしたアイリーンが颯爽と駆けつけて。敵であるクルセイス達に対して、黄金の剣を真っ直ぐに構えてみせる。
「――アイリーンさん、来てくれたんですね!」
「ティーナ様、玉木様、ご無事で良かったです! 到着が遅れてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
みんなの頼れるお姉さん的存在である、アイリーンが来てくれた事に。ティーナは喜びの顔色を隠せない。そして気になっていた事を、すぐにアイリーンに尋ねてみた。
「アイリーンさん……。螺旋階段付近に集まっていた敵の白アリ兵を全て殲滅させたって、本当なんですか?」
「ティーナ様。ハイ、それは本当です。グランデイル王城の地下には無数の敵兵が潜んでいましたが……私の想像よりも遥かに3人娘様達と、杉田様のコンビネーション技は凄まじく。あっという間に敵を殲滅させる事に成功したのです……!」
アイリーンからの説明を受けて。カフェ好き3人娘達の中から先陣を切って、『アイドル』の勇者の野々原有希が前に飛び出してきた。
「まぁ、そういう事じゃ〜ん! さぁ、ここでも私達の合わせ技を敵に見せつけちゃうよ〜!」
野々原はマイクを片手に、8ビートのロックテイストにアレンジされた青春ソングを、その場で大熱唱し始める。
すると――アイドル衣装を着た野々原の歌を耳にした敵の白アリ兵達の動きが突然遅くなり。
全員が両手で耳を押さえながら、その場で全身を震えさせて悶え苦しみ始めた。
「……ええっ? これは一体、どういう事なの?」
紗和乃は野々原の歌が、今までとは全く違う効果を生み出している事に気付いた。
そう……レベルアップした野々原は、アイドルステージの結界内に侵入した敵に、デバフ効果をもたらすだけではなく。
自分が歌うアイドルソングを直接、耳で聴いた敵の全てに対して。『即時、強制デバフ効果(大)』を付与させられるようにレベルアップしていたのだ。
多彩な魔法攻撃を使いこなせる、魔法戦士でもある白アリ魔法戦士達。
彼らは得意の魔法攻撃を歌によって制限され。その戦闘力は、一般兵同様の強さにまで大幅にランクダウンさせられてしまっている。
つまり、もはやここに集まっている白アリ戦士達は……野良の盗賊と何ら変わらぬ程度の戦力しか持たない『雑魚敵』へと様変わりしていたのだ。
「な、なんなよぉ〜!? この音痴で下品な歌詞とメロディーのクソ歌は〜っ!? 頭の奥がキンキンするじゃないのよぉぉ〜!!」
どうやら野々原の青春ソングが、クリティカルヒットを与えたのは白アリ兵達だけでは無かったらしい。
薔薇の騎士のロジエッタが、自分の耳を両手で押さえながら地面に座り込む。野々原の歌う青春ソングは、混沌の魔女であるロジエッタに対しても、有効なデバフ効果を与えているのは間違いなさそうだ。
それとも……もしかしたら5000年以上の悠久の時を生き続け。精神年齢がとうに老齢化しているロジエッタにとって。
若い野々原がノリノリで歌う青春ソングの歌詞は、余りにも心に染み過ぎて、相当堪えたのかもしれなかった。
どちらにしても、敵の最大戦力であるロジエッタの機動力は封じる事が出来た。
そのわずかな隙をついて、魔法を使用不能にされて弱りきっている白アリ兵軍団に――。
今度は『ぬいぐるみ』の勇者の小笠原が操る、武装したクマのぬいぐるみ軍団が襲いかかる。
”ズドーーーーン!!” ”ズドーーーーン!!”
”ズドーーーーン!!” ”ズドーーーーン!!”
”ズドーーーーン!!” ”ズドーーーーン!!”
広大な地下空間に、近代兵器による銃撃音が連発で鳴り響いた。
驚くべき事に、可愛いクマのぬいぐるみ達が持っている武器は……『ショットガン』だった。
クマ達は横一列に整列して並び。まるで西部劇のガンマンのように、銃身を縦に1回転させ。遠心力だけでレバー操作を行う片手リロードを行い。
凶悪な威力を誇る散弾をぶっ放しながら前進して、敵の白アリ兵達を豪快に蹴散らしていく。
数々の戦いの中で、大幅なレベルアップを遂げたぬいぐるみの勇者の小笠原麻衣子が操る最強のクマ兵団。
それがこの――『銃撃クマ兵団』だった。
そして最後は、カフェ好き3人娘達の中から真打ちの登場だ。
『舞踏者』の勇者の藤枝みゆきは、フィギュアスケート選手のように軽やかな舞を踊りながら。
双剣を両手に持つ、自身の分身を……最大30人にまで増産していた。
卓越した双剣使いでもあるみゆきの、合計30人を超える分身体達は……地下空間の中を縦横無尽に跳ね回り。広範囲な敵を華麗な剣技で、一気に斬り裂いていった。
「よおっしゃぁぁーー! みんな待たさせたなーー! 白アリ退治の専門家。白アリ・バスターズである『火炎術師』のこの俺が、敵を全部まとめて燃やし尽くしてやるぜーー!!」
本当は誰も待っていなかったのだが、杉田は一人で大声を上げて、自分の気持ちを盛り上げると。
両手から強火力を誇る火炎放射器のように、激しい炎を放出し。広範囲に散らばっている、無数の白アリ兵達をまとめて燃やし尽くしていく。
それはまるで、大きな火竜が口から強力な火炎ブレスを吹きかけているような威力があった。
援軍に駆けつけた5人の中で、確かに最も敵を多く殲滅させているのは……『火炎術師』の杉田だ。
白アリ兵達は、元々火炎攻撃に対する耐性があまり無かった。その為、敵が苦手としている炎の攻撃を放てる杉田が最も活躍していたのは間違いなかった。
だが……杉田の大活躍にあまり興味が無いカフェ好き3人娘達は、彼の事など全く見ていなかったし。
しかも、ティーナや玉木、そして紗和乃達も。たまたま杉田の存在が、彼女達の視界の片隅からは偶然に消えていたので。
この時の杉田の大活躍が、誰かの記憶に残る……という事は全く無かったという。
そんなカフェ好き3人娘達と杉田が、敵の白アリ兵達を相手に無双している中――。
野々原の歌によって、デバフ効果をかけられ。動きの鈍くなった薔薇の騎士のロジエッタの相手は、黄金剣を構えたアイリーンが行い。後方にいるティーナの事をしっかりと守っていた。
紗和乃は、アイリーンが時間を稼いでくれているうちに、急いで苦しそうに目を閉じている雪咲の様子を窺う事にする。
「雪咲さん、大丈夫? 自分の力で立に上がれそう?」
「ううっ……。ううっ……!」
雪咲の様子は、まだ苦しそうだ。視界だけでなく、精神にも深いダメージを受けてしまっているのもしれない。おそらく彼女が完全に回復するには、まだまだ多くの時間が必要になるだろう。
早くどこか治療の出来る場所に連れて行って。安静にさせなくては……。
それとも雪咲の視界を潰したロジエッタを倒せば、雪咲の視界は回復してくれるのだろうか?
雪咲を介抱している紗和乃と、おそらく同じ事を考えたのであろう――玉木が一人でその場から立ち上がった。
そして両手に左右の長さがそれぞれ異なる黒いナイフを持ち。玉木は前に向かって駆け出していく。
「紗和ちゃん、私行ってくるね〜!」
「紗希ちゃん? 行くって……まさか、あの薔薇女の所へ向かうつもりなの?」
紗和乃は慌てて、親友の玉木の行動を止めようとした。
アイドルの野々原の歌う青春ソングの影響を受けているとはいえ。薔薇の騎士のロジエッタは決して油断の出来る相手では無い。
まして、玉木一人だけで戦うなんて、あまりにも無謀が過ぎる……。
「紗和ちゃん。大丈夫だよ! 私、自信があるから〜。きっと今の私なら、あの薔薇の剣を持った女の人にも勝つ事が出来ると思うの。フィートちゃんも、私と一緒に来てね〜!」
『あいよ〜、なのにゃ〜! サラサラヘアーの剣術お姉さんの頭は滑って安定しなかったけど……。尻尾ねーちゃんの頭の上は、いざという時に尻尾が掴めるから乗り心地が安定するのにゃ〜!』
「もう〜、馬のロデオじゃないんだから。あんまり私のポニーテールを強く引っ張らないでよね〜!」
コンビニ猫のフィートを頭の上にひょいと乗せ。両目を閉じた玉木が、ダガーナイフを持って駆け出して行く。
既に地下空間の隅では、コンビニの守護騎士のアイリーンと、薔薇の騎士のロジエッタがお互いの剣をぶつけ合い。激しい死闘を繰り広げていた。
アイリーンは、『光』の能力者であるロジエッタの攻撃を受けないように。視界を隠す特別なフェイスマスクをつけながら戦っていた。
対するロジエッタは、アイドルの野々原の歌の影響を受けていて、その動きは随分と鈍くなっている。
だが……それを補う為に、周囲に向けて圧倒的な量の光を解き放ちながら。必死に自身の身を守ろうとしていた。
アイリーンは、フェイスマスク越しに黄金剣を振り下ろし。ロジエッタの振り回す薔薇の剣と剣戟をぶつけ合い。
空間上に鮮やかな火花を、何度も散らしてみせる。
だが……肉眼で直接ロジエッタの姿を確認出来ないアイリーンは、攻撃のタイミングが少しずつ遅れて。敵に対して徐々に優位を奪われてしまっているようだった。
そこに、両目を閉じて。頭の上に乗せたコンビニ猫のフィートと視界を完全に共有させた玉木が参戦する。
「アイリーンさ〜〜ん、私も戦います〜っ!!」
「た、玉木様……!?」
突然、薔薇の騎士との戦闘に参戦した玉木は……その怪力から繰り出されるナイフの一撃で、ロジエッタの持つ薔薇の剣をいきなり真っ二つに破壊してみせた。
「なっ……!? 何ていう馬鹿力なのよぉ〜? この怪力女はぁ〜〜っ!!」
剣を真っ二つに折られても、ロジエッタはすぐに薔薇の剣を再生してみせた。
どうやらロジエッタは、無限に剣の再生を繰り返す事が出来るらしい。
しかし、頭にコンビニ猫をすっぽりと被った玉木の攻勢は決して止まらない。いや、むしろどんどん勢いを増してロジエッタを壁際にまで追い詰めていく。
玉木は『隠密』の能力を用いて、体全体を透明化させるのではなく。
両手に所持している、2本のダガーナイフのみを部分的に透明化させていた。
その為、ロジエッタは玉木の持つナイフの位置が正確に掴めず。徐々に感覚を狂わされてしまっていた。
「くっ……! このおおぉぉ……!! 枢機卿の成り損ないの劣化版の癖に、随分と面倒な戦い方をしてくれるわねぇ……!!」
この時、ロジエッタは気付いていなかったが……。
玉木は左右の手に、それぞれ長さが全く異なる2本のダガーナイフを所持していた。一方のナイフの長さは、もう片方のナイフの刃の2倍近くの長さがある。
そんな異なる長さのナイフを透明化させて斬りかかっているのだから。ロジエッタにとって、玉木のナイフによる攻撃の範囲を予測する事は困難を極めた。
玉木は左右のナイフを交互に振り下ろし。ロジエッタを追い詰めながら、彼女に対して静かに声をかける。
「私には……分かるの。この世界で長い時を生き続けてきた不老の魔女のあなたは、いつだって敵対する相手に対して本気で正面からぶつかってこなかった。だから苦戦を強いられた時には、最後には必ず『逃げて』きた。そうやって永遠に歳を取らない人生を、面白おかしく過ごす為にしか、これまで生きてこなかったのでしょう〜?」
「……なっ!? あなたは一体何なのよ、ただの小娘の分際でっ!!」
「でも、こうして本気でぶつかり合えば。いつか終わりはやってくるの。あなたにとっては、今日が『その日』だったという事。だってこの閉ざされた地下空間には、もう……絶対に逃げ場なんて無いんだから〜! 覚悟しなさい、この世界を混沌に陥れてきた薔薇の魔女!!」
玉木の透明化したダガーナイフが、地を這う蛇のように真下から繰り出され。
ロジエッタの回復したばかりの右手を、凄まじい速さで再び切り落としてみせた。
「グギャアアァァァ〜〜〜〜っ!!!」
絶叫して痛みに悶えるロジエッタに対して、玉木は畳みかけるように。両手を振り下ろして、2本のダガーナイフをロジエッタの両肩に向けて突き刺す。
「………グッ、ゥゥッ……!?」
明らかに致命傷を負ったロジエッタが、フラフラと足を震わせて後方に退いていく。
薔薇の騎士のロジエッタは、不老の魔女であっても。完全な『不死』を持っている訳では無い。
このままだとロジエッタは、5000年以上生きてきた不老の魔女としての長い寿命を、このグランデイル王城の地下空間の中で、とうとう落とす事になるだろう。
その時――。
弱ったロジエッタを、追いかけようと。周囲から襲ってくる白アリ兵達を撃退しつつ、前に向かって進んでいたアイリーンと玉木の目の前で。
眩いばかりに青白く光り輝く、強烈な雷撃が……ロジエッタの後方から勢いよく放たれた。
”ズドドドドドーーーーーーン!!!”
青い稲妻は、満身創痍だったロジエッタの体を瞬時にして青い炎で包み込み。その体を高熱で完全に焼き尽くしてしまう。
プスプスと全身の皮膚が、真っ黒に焼け焦げ。
肺が熱で焼かれて、呼吸の出来なくなったロジエッタが、『ふしゅ〜〜』と喉の奥から息を漏らし。力尽きて、その場にゆっくりと倒れ込んだ。
既に顔が真っ黒に焼け焦げ。元の顔が分からないほどに酷い状態に成り果てたロジエッタは……。
最後にわずかに口を動かして。かすれるような小さな声で恨み言を呟いてみせる。
「フフ……これだからサディストな上司につくと、ロクな事にならないのよねぇ……。だって不要になると、こうしてすぐに切り捨てられちゃうんだもの。悪のボスに仕える副官って、大体こういう末路を最後に辿る事が多いのよねぇ……」
薔薇の騎士のロジエッタは、そのまま地面の上でピクリとも動かなくなった。
5000年以上の悠久の長き時を生き続け。この世界を常に混沌へと落とそうとしてきた混沌の魔女ロジエッタは……ついに、その命を落としたのである。
その光景を、唖然とした表情で見守る玉木とアイリーンの目の前に。
黒焦げになったロジエッタの死体の後方から。いつの間にかにクルセイスが近づいてきていた。
クルセイスは右手に持つ剣で、黒焦げになったロジエッタの胸を容赦なく切り裂き始めると。
ミディアムレアの焼き加減で死に絶えた彼女の体内から、『魔王種子』である不老の心臓を取り出した。
「……フフフ。悪いわね、ロジエッタ。でもいつかは、あなたの体内から魔王種子を取り出そうと思っていたのよ。異世界転移のゲートは壊れてしまったけど。不老の力さえ手に入れておけば、私はまだ生き残れるわ。後は女神様を見習って、ティーナ達を使いながらゆっくりと異世界に渡る研究をさせて貰う事にするわね。ウッフッフ……」




