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【コミック第2巻 発売中】外れスキル『コンビニ』で最強の勇者に成り上がる! ~異世界でコンビニ生活を満喫しつつ、オレを追放したクラスメイトを見返す事にしました~  作者: こたつ猫
第25章 コンビニの大魔王

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第四百八十七話 日本に向けて稼働する『ゲート』


「く、倉持(くらもち)くん……!? あなた、自分が一体何をしているのか、分かっているの!?」



 先ほどまで意識を失っていたと思われていた『不死者(エターナル)』の勇者の倉持(くらもち)は、彼の身を案じて介抱してくれていた命の恩人の名取(なとり)を人質に取り。

 今にも『ゲート』の中に単身で飛び込み。この世界から元の世界である日本に向けて飛び立とうしていた。


 そんな、あまりにも予想外な行動を見せたクラス委員長の倉持(くらもち)に対して。紗和乃(さわの)も、雪咲(ゆきさき)も、彼の行動を非難する言葉を一斉に浴びせかける。



「ちょ……! 自分の事を助けてくれた、名取さんの喉元(のどもと)にナイフを突きつけるなんて……。委員長、それはマジでゲスの(きわ)みだよ! うちも散々ゲーム配信中に、チート行為をするクズゲーマー達に遭遇してきたけどさ。これはガチで炎上確定な一発アウトの案件だって!」


「そうよッ! まさかと思うけど、さっきまで目を閉じていたのは……意識を失ったフリをして狸寝入(たぬきねい)りしていたんじゃないでしょうね? 元々低い貴方(あなた)の評価を更に下落させて。これ以上、倉持(くらもち)株を大暴落させたくなかったら。すぐに名取(なとり)さんを解放しなさい!」



 クラスメイトの女性陣から、非難の集中砲火を浴びせられても。今の倉持は完全に『無敵の人』と化していた。


 目の前にいるのが、同級生の女性達だろうと、それが誰だろうと。今の彼にとっては全く関係ない。


 なぜなら数分後には、目の前にいる紗和乃(さわの)や雪咲、そして玉木といったクラスメイト達の存在は……。倉持にとっては、これから未来の日本で歩む輝かしい人生の道筋において。二度と出会う事も、再会する事も無い。過去の通り道で偶然踏みつけた小石程度の扱いに成り果てる事を、よく知っていたからだ。


 これからゲートに設置された魔法装置に手をかけて、そのまま中に飛び込みさえすれば……。

 彼の犯した不道徳な行為も、一般に卑劣と言われるような非道な行為も、全ては『過去』のものになる。


 そう――倉持(くらもち)にとっては、目指す『日本』に帰る事さえ出来れば。この世界の残された元クラスメイト達など、二度と顔を合わす事も無い他人同然の存在となるのだ。



 だから今更、紗和乃(さわの)達に何を言われようが、自分の行いを責め立てられようが。今の倉持の耳には何も届かない。


 異世界に召喚された時から、これまで味わってきた屈辱も、挫折も、不運な境遇も……。全てはこの瞬間を迎える時の為だけに、彼は必死に耐え抜いてきたのだから。



「フッフッフ。やはり僕という選ばれた存在以外は、肥溜(こえだ)めにたまった糞尿(ふんにょう)ほどの価値さえも無い、哀れな勇者達ばかりだったようだね! 君達の存在なんて、救世主であるこの僕が日本に帰る為の踏み台でしかない。そして僕がこれから歩み続ける輝かしい人生の、引き立て役にしか成れない愚かな存在だったという事なのさッ!」


 いきなり激昂(げきこう)するように、高圧的に叫んでくる倉持の姿を見て。紗和乃(さわの)雪咲(ゆきさき)は、その迫力に押されて。思わずその場で固まってしまう。


 それは顔を真っ赤にして、ヒートアップしている倉持の様子を見て。ガチでドン引きしたから……という訳では無く。


 彼がこれほどまでに、自分自身の内面の感情をむき出しにして。その心の内に溜め込んでいた『本音』を吐露(とろ)する姿を、彼女達は初めて見たからだった。



「――いいか、よく聞くんだ! この僕は最初からずっと、お前達の存在の全てにムカついていたんだよ! 何がコンビニの勇者だ、何が無限の勇者インフィニット・シリーズだ! ふざけるんじゃない! まるでこの世界の全てがあのムカつく彼方(かなた)の為に用意された舞台みたいじゃないか! 違うだろッ! この世界の本当の主人公は、『不死者(エターナル)』の能力を持つこの僕なんだッ!」


 倉持にナイフを突きつけられている名取(なとり)は、まるで抵抗する様子を見せていなかった。

 おそらく彼女は、例え倉持が自分の(のど)にナイフを刺してきたとしも。それを喜んで受け入れる気なのだろう。


「女神教も……クルセイスも、みんな僕が持っている不死の力を欲していたんだ! それはこの僕だけが、この奇跡の能力を最初から所持していたからなんだ。選ばれし救世主である僕はこのゲートを用いて、いつでも異世界に渡る事が出来たんだよ。そこにいる彼方(かなた)の恋人である金髪の女の子の力を借りなくても。不死の力を持つ僕は最初からゲートを使用出来たんだ。だけど僕には『座標』の知識だけが足り無かった!」


 倉持はまるで、駅前に集まる聴取の前で演説をする政治家のように流暢に語り出す。

 その演説の勢いは、(せん)の外れた蛇口のように決して止まる事は無かった。


 もはや日本に帰れる事が100%確定している倉持には、この場にいる『赤の他人』達に何一つとして遠慮する事も配慮する必要も無いからだ。


「無能なクルセイスが、最後に僕を連れてこのグランデイル城の地下にあるゲートに向かう事は分かっていた。僕の力を借りなければ、アイツらはゲートを使用する事さえ出来ないからな。それまで僕はじっと我慢していればいい。ギリギリまで我慢すれば、必ず最後には誰かが『座標』を解析して。ゲートを使用可能な状態にしておいてくれると予想していたんだ。その最後の瞬間にチャンスをいかして、僕はただゲートに飛び込みさえすれば。全ての目標が達成出来る事を知っていたんだ!」



 自己陶酔するように、上機嫌に演説をしている倉持に。紗和乃(さわの)は冷静な声色で問いかけてみる。


 紗和乃(さわの)は、ここでもし倉持にゲートを使用されてしまったとしても……それは仕方ないと考えていた。


 もちろん『不死者(エターナル)』の能力を持つ倉持がこの世界から居なくなる事で、自分達は今後完全に日本に帰れる可能性を失ってしまう事になるだろう。


 だが……つい先ほど。玉木や雪咲(ゆきさき)とも、日本に帰らなくても良いとお互いの意思を確認し合ったばかりだ。


 ここには居ない、他の2年3組のクラスメイト達の中には、それでもやっぱり日本に帰りたかったと希望している者もいたかもしれないが……。

 元々、みんな日本に帰るのは無理だろうと諦めていたくらいなのだから。今更、やっぱり日本には帰れなくなったと伝えても。それほど大きく落胆はされないと思う。


 だから紗和乃(さわの)は純粋に、彼女自身の持つ好奇心と。ここまで我慢を続けて、最後のチャンスに全てを賭けたという倉持に対して。

 彼がどのような動機で、それほどまでして日本に帰りたかったのかを聞いてみたいと思った。



「……分かったわ。倉持くんが日本に帰るというのなら。私達はもう、貴方(あなた)を止めたりはしない。むしろもう、止める事なんて出来ないしね。だから最後に私に教えて頂戴。日本に帰って、貴方(あなた)は一体何をしようとしているの?」


 紗和乃(さわの)から質問をされた倉持は、まるで少年のように目をギンギンに輝かせて。

 過去にグランデイルの王都からコンビニの勇者の彼方(かなた)を追放した時に話した内容と、同じくらいに自己陶酔した大演説を始めた。



「日本に帰って、僕が何をするのかだって? そんなのは決まっている! この僕が物語の主人公となり、世界を救う為に大活躍する『真の救世主』としての生き方をまっとうするのさ! 考えてもみてくれ。僕には『不死者(エターナル)』の能力の他にも『女神の祝福(クイーンズ・ブレス)』の能力だってあるんだ。元の世界に戻った僕には、銃弾は当たらないし。無数の魔法を使いこなせる僕は、まさにアメコミに登場するような無敵のヒーローにさえ成れるだろうね」



 両手を広げて、ドヤ顔で笑う倉持の顔は太陽のように眩しく輝いていた。


 この瞬間に至るまで、ずっとクルセイスのサディスティックな拷問を耐え忍び。やっと自分が主人公となれる大舞台に上がる事が出来たのだから。

 その喜びに満ちた表情は、お花畑で両手を広げながらスキップする無邪気な少年のようにも見えた。


「そうさ! 無敵の救世主(ヒーロー)となった僕は、世界の巨悪と陰で戦う闇の主人公になっても良いし。政治の世界に飛び込んで、全世界の愚かな愚民達を正しい方向に導く指導者になってもいい。『不死者(エターナル)』という選ばれた能力を持ち、僕だけがこのゲートを使用出来たからこそ、成し遂げられる物語なんだ。この物語の主人公は決してコンビニの勇者の彼方(かなた)なんかじゃない。始めからこの僕が成る事が約束されていたんだよ!」



 子供のような倉持(くらもち)の大演説を聴き終えた紗和乃(さわの)は……隣でドン引きしている雪咲(ゆきさき)とは異なり。


 なぜかその場で一人だけクスッと笑ってみせると。両手をパチパチと叩いて拍手をしてみせた。


 それは決して、選民思想丸出しな妖怪倉持の変態演説を聞いて。心底、呆れてしまったからという訳ではなく……。

 確かにここまで、たった一人で頑張り抜いて。クルセイスからの陰湿なイジメにも耐え抜いてきた倉持には、日本に帰れるという『ご褒美』が与えられても良いかと思えたからだった。



「うん。おめでとう、倉持くん! 私達を代表して日本に帰れるあなたに、私からささやかだけど祝福の拍手をさせて貰うわね!」


「――紗和乃(さわの)さん!? こんな奴に拍手なんてする必要があるんですか? 倉持(コイツ)は自分の事を想ってくれている名取(なとり)さんを人質に取って。しかもみんなを置いて、自分だけさっさと日本に帰ろうと企んでいる奴なんですよ!」


 雪咲は激昂して、紗和乃(さわの)に詰め寄ろうとするが。そんな雪咲の怒りを制するように、紗和乃は落ち着いた声色でここにいる全員に聞こえるように話し始めた。


「まあね……私も、もし倉持くんが日本に戻って世界征服をするだとか。元の世界の人々を無差別に殺戮(さつりく)するだとかを計画してるのなら、この場で魔法の弓矢で滅多撃ちにして殺してやろうくらいには思っていたんだけどね。でも、彼の子供のような野望を聞いたら……まぁ、いいかな。くらいに思えたきたの」



 クスクスと紗和乃(さわの)は、口を押さえながら笑い続ける。


「このまま倉持(くらもち)くんが日本に戻っても、異世界で獲得した能力を使って悪を成敗する謎のヒーローが出現するか。それとも能力を駆使して、倉持くんが政界進出をして。理想の世界を目指して頑張る若い野心家の政治家になるかくらいでしょう?」


「それは、今はそうかもしれないですけど……。委員長は後で豹変(ひょうへん)するかもしれないですし。もしかしたら、世界征服を本気で企むかもしれないですよ?」


「大丈夫。コンビニの勇者の彼方(かなた)くんが、日本に戻って世界征服を開始したら……ガチで危ないけど。倉持くんの所持している能力だけじゃ、とても世界を支配できるとは思えないわ。せいぜい魔法を使いこなせる、アメコミヒーローみたいな存在が出現したくらいで終わると思うの。だから私はその点は安心しているの」



 まだ『むぅ〜』と、不満を残している雪咲(ゆきさき)を説き伏せた紗和乃(さわの)は、改めてゲートの前にいる倉持に話しかけた。


「倉持くん、私達はあなたが日本に帰る事を邪魔したりはしないわ。だから、もう心配しなくていいから。ナイフを突きつけている名取さんを解放してあげて。そして一つだけ約束して欲しいの。日本には、私やこの世界に残るクラスメイト達みんなの家族が居るけど。決してその人達を不幸な運命には導かないと誓って欲しいの」



 紗和乃(さわの)から深く頭を下げてお願いをされた倉持は、思わず拍子抜けしてしまう。


 倉持は紗和乃(さわの)達が、自分が日本に帰るのを全力で阻止してくると予想していたのだ。

 それなのに、日本に帰る事を認めてくれて。しかも、日本にいる彼女達の家族をよろしくとお願いされるだなんて……夢にも思っていなかった。


「そ、それはもちろん……この僕に任しておいてくれまたえ。元々僕は、元の世界に住む人々を、より良い社会になるように導く救世主になる事を目指していたんだ。この世界で共に苦難を経験した君達の家族に、危害を加えるような事なんて決してしないつもりだから」


「そう、良かった……。それじゃあ、もう安心したでしょう? 名取さんを早く解放してあげてね、倉持くん」



 紗和乃(さわの)()かされた倉持は、ナイフを突きつけていた名取美雪(なとりみゆき)の顔を改めて(のぞ)き見る事にする。


 正直なところ、倉持は名取に対してだけは……心から申し訳ないという贖罪(しょくざい)の気持ちを持っていた。

 この世界に来てから、自分がどんなに愚かな選択をしても。みんなが自分のもとから離れていった時も。


 名取(なとり)だけは、ずっと倉持の(そば)にいてくれて。そしてクルセイスに囚われていた自分を救い出してくれたのだから。



「……美雪(みゆき)さん。すまない……。君にだけは、僕は本当に申し訳ない事をしたと思っているんだ。出来る事なら君を日本に一緒に連れて帰りたかった。これは、僕の本心なんだよ……」


 紗和乃(さわの)や雪咲達には決して聞こえないような小声で、倉持は名取の耳元にそう小さな謝罪の言葉を呟いてみせた。


 そして改めて、今までナイフを突きつけていた名取の顔を見てみると。

 名取はまるで倉持の実の母親のような顔をして。彼の全てを受け止める聖母のような眼差しで、倉持の事を優しく見つめてくれていた。



「……大丈夫だよ。悠都(ゆうと)くんが、一番幸せになれる道を私は進んで欲しいから。私は悠都(ゆうと)くんの役に立てたのなら、本当に嬉しいから」


「うぅ………」


 倉持は名取の喉元に突きつけていたナイフを地面に落とし。名取の背中をそっと押して彼女を解放した。


 そしてすぐに倉持は、ゲートの横に設置されていた魔法文字の記された箱に右手を置き。異世界に渡れるというゲートの中に、自分の体を飛び込ませる。


 倉持の目にはうっすらと涙が浮かんでいたが……それを決して、ここにいる彼のクラスメイト達には見せないように力強く(ぬぐ)ってみせた。



 グランデイル城の地下にあるゲートは、再び大きな振動と眩しい光を輝かせ。その中に飛び込んだ倉持の体を真っ白な光で照らし出し始める。


 それはつい数時間前に、このゲートを使用して異世界へと渡っていった女神アスティアの時と同じ反応であった。


 自分達を代表して、ただ一人だけ日本へ帰る事になった倉持の姿を……紗和乃(さわの)達はじっとその場から見つめ続ける。



 しばらく眩しい光の輝きが続いたゲートは、なぜか女神アスティアが使用した時とは少しだけ違う――怪しい光の輝きを放ち始めた。


 やがて突然、大きな振動が始まると……。


 ゲートに飛び込んだ倉持も、その様子を見守っていた紗和乃(さわの)達にとっても。あまりにも予想外な動きをみせ始める。


 

 ””ズドドドーーーーーーン!!!””



 激しく地下全体を揺らす、大きな爆破音が響きわたった。



 一体、何が起きたのか……瞬時には理解出来なかった紗和乃(さわの)やティーナ達の目の前で。突如として、ゲートの中で大爆発が起き。


 ゲートの中に飛び込んだ倉持の体の右半身が――文字通りバラバラに吹き飛ばされたのである。



「ぐぎゃぁぁああぁぁぁーーーーッ!?!?」



 体の右半身が大きな爆発で吹き飛ばされた倉持は、その場で絶叫をあげた。


 彼の体からは、大量の血が流れ出し。吹き飛んだ顔の半分から頭蓋骨が飛び出てしまっている。


 普通なら即死は免れない致命傷を負ったにも関わらず……倉持の体には、彼が所持している『不死者(エターナル)』の能力が発動し。

 爆発で地面に飛び散った、脳みそや、バラバラになった肉片。そして大量に吹き出した赤い血が、まるで時間が過去に(さかのぼ)るかのように元の状態へと戻されていき。


 失われた倉持の右半身を、ゆっくりと元通りに復元していくという現象が起きていた。


 その生々しく、まるでホラー映画のような恐ろしい光景を目の前で見せられて。ティーナや、玉木達は思わず口を両手で押さえて悲鳴を上げてしまう。


「きゃああアアァァーーーー!!」


 この中でただ一人、紗和乃(さわの)だけは冷静に復元していく倉持の体を見つめて。今……一体、何がゲートで起きたのかを分析しようと試みていた。



 ……そんな!? 一体どうしてなの……?


 ゲートに飛び込んだ倉持くんの体が、爆発して吹き飛ばされるなんて……!

 ゲートを使用して異世界に渡る条件は、『命を落とす事』だったはず。それなのにどうして、不死の能力を有している倉持くんが、異世界に渡る事が出来ずに体の半分が吹き飛ばされてしまったの?


 まさか、女神アスティアと違って。倉持くんを(こば)むような別の『条件』がゲートにはあったとでもいうのかしら?



 ゲート内で突然、起きた爆発によって。自分の体の半分が吹き飛ばされて命を失い。『不死者(エターナル)』の能力によって再び蘇生する事が出来た倉持(くらもち)自身も……。

 そのあまりの衝撃的な事実と結果に驚き。自分の身に何が起きたのかを理解出来ずに、ワナワナとその場で体を震わせてしまっていた。



「そんな……バカな!? なぜなんだ!? 僕は死んでも生き返る事が出来る『不死者(エターナル)』の能力者なんだぞ? この世界で唯一、僕だけが異世界に渡れるゲートを最初から使用出来るという、選ばれた勇者だったはずなんだ。それなのに……どうして僕の体はゲートに入った途端に吹き飛ばされてしまったんだ!?」


 体が完全に元通りになり、『不死者(エターナル)』の能力によって蘇生する事が出来た倉持は、顔を真っ青にしてパニックに陥っていた。

 彼には自分がゲートに弾かれた理由が、全く理解出来ない。予想さえも出来なかった。


 それは自分だけが唯一、死んでも生き返る事の出来る選ばれし勇者なのだと自負(じふ)していた倉持にとっては……あまりにも屈辱的な『結末』であったといえるだろう。



「そんな事は、絶対に有り得ない……! 僕は、この僕は……唯一この『ゲート』を最初から使用出来る事が約束された、世界中の誰もが欲する不死の能力を所持している『不死者(エターナル)』の勇者なんだぞッ!」


「ま、待って! 倉持くん……!」


 生き返ったばかりの倉持は、必死に制止を呼びかける紗和乃の声を無視して。再び『ゲート』の中に飛び込もうとする。


 この地下の最深部に辿り着いた時点で、倉持は合計で2回分の『命のストック』を所持していた。

 たった今、ゲートの中に入った途端に起きた原因不明の爆発で命を1回失ってしまったが……。


 倉持には、後1回分の命の余剰が残っている。


 だから先ほどの爆発は……何かの手違い。あり得ないイレギュラーなのだと信じたい倉持は、もう一度だけ、自分の未来の可能性を信じて。

 猛烈なスピードで後ろを振り返る事なく、『ゲート』の中へと飛び込んでいった。



 だが……倉持の願いは、再びゲートの中で生じた大きな爆発音と共に虚しく砕け散り。

 彼にとって最後に残された命のストックを、再び無惨に失わせる結果となってしまう。


 倉持が再突入した『ゲート』は、大きな爆発音を響かせて。倉持の体を先ほどよりも更に粉々な肉片に変えて吹き飛ばしてしまった。



 そして今度は、バラバラに砕けて吹き飛んだのは倉持の体だけでは無かった。


 彼が再突入を試みた異世界転移装置である『ゲート』自体も……。大きな振動と音を響かせて。元の形を残さないくらいに、バラバラに砕け散ってしまったのである。



 そう……女神アスティアが異世界に渡る事に成功した、この世界に1万年近く残されていた古代遺物である『ゲート』は――。

 倉持の体と共に、完全にバラバラに砕け散り。もはや元の原型を残さないほどの、粉々な石のカケラへと変貌を遂げてしまったのだ。



 そのあまりも衝撃的な光景を見て。玉木や、ティーナ達はその場で全身を震わせながら、思わず言葉を失ってしまう。


 そして残された最後の命のストックを使用して。再び『不死者(エターナル)』の能力によって体が蘇生させた倉持(くらもち)は……。

 全身をブルブルと震わせながら、その場で力なく崩れ落ちて倒れ込んでしまった。


 そんな倉持の事を心配して、名取だけは真っ先に彼の元に駆けつけて。気が触れてしまったかのように、放心状態に陥っていた倉持の体を優しく抱きしめてあげた。


 紗和乃(さわの)は、バラバラに崩壊してしまった『ゲート』の残骸を見つめて。

 これでもう、この世界から誰も異世界に渡る事は出来なくなってしまった事を悟ると同時に。どうして倉持は日本に帰る事が出来なかったかを……両腕を組んで真剣に考察し始めていた。


 ……おそらく、倉持くんが何かしらの基準を満たしていなかった為に、『ゲート』によって弾かれてしまった、という事は無いはず。

 異世界に渡る為のゲートを使用する条件は、使用者の命を落としてしまう事だった。その条項に、女神アスティアが達成したような『完全なる不老不死』を満たす必要があるという内容は無かったはずだ。


 ではなぜ、女神アスティアだけは成功して。同じようにゲートに飛び込んだ倉持は命を落としてしまったのだろうか?


 それはおそらく、この『ゲート』を作成した管理者によって。ゲートが再び使用されるのを……阻止されてしまったのではないかと紗和乃(さわの)は推測した。


 きっとこのゲートは、女神アスティアが使用した後に『何か』が起こり。ゲートを管理するものによって、二度とゲートが他者に使われないように『ロック』が施されてしまったのではないかと思う。

 その証拠に、2回目に倉持が飛び込んだ際に。ゲートは倉持と共に爆発して、完全に崩壊してしまっている。


 もしも倉持が何かしらの条件を満たしていない事によって、ゲートから弾かれたのだとしたら。肝心のゲート自体が壊れてしまうという事には、成らなかったはずだ。


 つまりこれは、このゲートを作成した存在が……女神アスティア以外の他の人物が再びゲートを使用して、異世界に渡るのを『禁じた』結果なのだろうと思われる。



 そしておそらく、そんな事が可能なのは……。


 このゲートを管理していると思われる、女神アスティアが会いに行ったという『最初の勇者(ファースト・ナイト)』なのではないだろうか……と、紗和乃(さわの)には思えていた。



「……どうして? どうして……僕は……日本に帰れなかったんだ? どうして、この僕は選ばれた勇者だったはずなのに……ゲートに拒否されてしまったんだ……」


 完全に自我が崩壊してしまったらしい倉持は、名取に抱きしめられながら。身動き一つする事なく、ブルブルと全身を震わせ続けている。


 名取は以前にも、倉持の精神がこのように壊れた状態に陥ってしまった光景を見た事があった。


 それは以前、倉持がクルセイスによる死の拷問を受けて。彼の持っていた命のストックを全て奪われて、何度も殺害されてしまった後の事だった。


 どうやら倉持は、『不死者(エターナル)』の能力による命の残機を全て失い。彼の命が本来の1個だけの状態になってしまった時に……ひどく怯えて何も出来ない精神状態に追い込まれてしまうらしい。


 普通の人間にとっては、命が1個だけしかないのは当然の事であるというのに。

 倉持にとっては、それは自分の自我が崩壊してしまうくらいに。極端に不安定な精神状態に追い込まれてしまうものである事を、彼の側に居続けた名取(なとり)だけはよく知っていたのだ。



 紗和乃(さわの)や玉木達は、そんな茫然自失状態になった倉持の元に駆け寄ろうとしたが……。


 そんな彼女達の背後から――まるで地獄に棲む悪鬼(あっき)のような、激しい怒りを秘めた言葉が聞こえてきた。



「……やってくれたわね。あなた達……! 私の人生をかけた目標の全てを崩壊させてしまったのね、この薄汚いドブネズミ共が……!」



 紗和乃(さわの)達の後方には、ゲートが爆発して崩壊してしまった時と同タイミングで――。


 名取の張った虹色(にじいろ)の結果を突破した、元グランデイル女王のクルセイスと。彼女が引き連れてきた無数の白アリ兵達が……紗和乃(さわの)達を取り囲むようにして、完全に包囲していた。


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